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腕はいいのに、チャラい先生。

久々に鍼に行った。
ガチガチに凝り固まった身体を、一発で楽にしてくれる“神の手”がいる治療院だ。
この先生、めちゃくちゃ腕はいいのだが、ほんの少し、話し方が軽い。なんというか、ノリが軽いのだ。ちょっとイケイケのお兄さん風というのか……イケイケのお兄さん話し方がどんなものかよくわかっていないので、もう完全に私のイメージでしかないのだけれど。

先日、先生、その話し方で思うことがあった。
私が着いたとき、まだ前の患者の治療中だったのだけれど、どう考えても「おこちゃま」言葉で話しかけているのだ。どう考えでも、大人に対する話し方ではない。しかも、相手はカタコトの日本語で、どうも外国人らしい。
日本に出稼ぎにきている海外の方に、日本語がわからないからといって、ちょっと失礼じゃない?
私の中の、「腕はいいのに、チャラい先生」像がどんどん固まっていく。
そう思いながら私の治療が始まり、先程の患者の話をそれとなくしてみた。
少しチクッと言ってやろうかと思ったのだ。
結果、話を聞きながら、わたくし、全力で先生に謝った(心の中で)。ひれ伏すように謝った(心の中で)。
先生が「おこちゃま」言葉で話しかけていた相手は、本当に子供だった。近所に住む中国人一家の娘さんで、身体にちょっとした障害があって鍼治療に通っている小学生だったのだ。
先生は、彼女に合わせて、緊張しないように話しかけていたわけだ。

先生は漫画が好きで、鍼を打ちながらよく漫画の話で盛り上がるのだけれど、話しているうちに先生の口調が漫画キャラっぽくなる。
それもあって、私のなかの彼のイメージが「腕はいいのに、チャラい」になっていた。
申し訳ない。「腕はいい」だけが事実で、のこりは完全に私がつくったイメージだ。

ときどきイメージで損をすることがある。
「スポーツなんてしそうにないな」とか「お酒好きそうだな」とか、初対面時の勝手なイメージで、会話を避けたり、緊張したり、または気遣ったりと、付き合いの線を引いてしまいがちだ。
見た目もそうだし、話し方もそうだし、肩書や職業や出身地がイメージなってしまうこともある。
「腕はいいのに、チャラい」と同じ、ただのイメージだ。

逆もまた然り。
私は、痩せ型なので身体が弱いふうに見られがちだのだが、実際は風邪などめったに引かない体力体育会系の人間だ。
ひ弱そうなイメージゆえ、マラソンやら登山やら身体を動かすことをしたくても、なかなか誘ってもらえない。
損をしてるなと思う。

話は変わって。
うちの母親が勤め先にある人に、数日前から無視されているという。
原因はわからない。もうすぐ退職する母親としては、悪い印象のまま終わりたくないらしく、どうにか元の仲に戻るべく、あれこれ対策を講じたらしい。
まずは、賄賂。キャンディやらチョコレートやら、お菓子を彼女のポケットにこそこそっと入れて、「おやつ♡」と笑顔を振りまく作戦だ。
効果はなかったわけではないが、著しくあったわけでもない。
次に、試みたのが、お手紙作戦。
「もうすぐ私は辞めるから、手紙を出すわね」といって、住所を聞き出したらしい。他愛もないことを書いて、その住所に送ったところ、効果てきめん、大優勝。彼女は以前のように懐いてきたと、自慢げに語られた。

ちなみに、彼女は自閉症を患っており、最初に出会ったとき、うちの母親がうっかり手を握ったか、触れたからしてしまい、最悪の第一印象、「この人、嫌い!」から始まった、母親にしてみれば「鬼門」の人だ。
それでも、あれこれと心を解きほぐすように努め、4年をかけて仲良しになれた「奇跡」の人でもある。
が、最後の最後に、また問題が起きてしまったわけだ。
うちの母親にも意地があったらしく、このところ、「今日は失敗した」とか、「今日は少し話してもらえた」など、報告があったのだが、ついに手紙によって、再度彼女の心を落とすこと、悪いイメージを変えることに成功したらしい。

第一印象が大事、とよく言われるけれど、そして、それはまったくもってそうだと思うけれど。第一印象ばかりではないとも思う。
何度か話していくうちに、最悪の印象がガラリと変わることも多々あり、変わってからの方が、深く愛せたりする。
「腕はいいのに、チャラい」と思っていた鍼の先生がまさにそれ。
いまはもう「尊敬」の念でみているほどだ。

以前もnoteに書いたような気がするけれど、2度目が実は大事だったりする。
だいたい人間、最初から深い話なんてしないもの。
ドラマでも映画でも、出だしの印象はイマイチでも、話が進むにつれ、「あんた、いいやつだったか!」というキャラクターが出てくるもの。

というわけで、印象が悪くても、変わる可能性があるとわかって付き合いたいものだなぁ。
先生、ほんとごめんなさい!


ちなみに、うちの母親は障害者産業センターで針子の仕事をしている。

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