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ドクタースランプと、かさぶた「待て」問題

子供の頃から、どうしても辞められないことがある。
それは、かさぶたを剥がしてしまうこと。
治りかけで、いま剥がしてはいけないことくらい重々承知だ。
が、どうしても途中で剥がしてしまい、再びイチからのスタートになる。
なので、延々治らない。
せっかち、なのだ。
この性格は、歳をとるごとに厄介になる。
そうでなくても治りにくくなっているのに、かさぶた剥がし癖ゆえ、半年近く生傷状態の部位があるのだから。

インスタントラーメンは3分待てず、2分ちょっとで湯切りして、やや固めを味わうことになる。
「待て」と言われて待てる犬を尊敬する。
何かあったら、すぐに、どうにかしたいのだ。

最近、『ドクタースランプ』を観始めた。
日本の漫画アニメではなく(それは「Dr.スランプ」)、韓国ドラマのほうだ。
ヒロインのハヌルは、子供の頃から勉強ばかり、念願の医者になったあとも仕事ばかりと、常に突っ走り続けてきたガリ勉優等生だ。
受験には健康管理も大事だと、フラフープをしながら単語帳をめくる。
1秒たりとも無駄にしたくないのだ。
遊ぶ時間、寝る時間のみならず、食事の時間やトイレに行く時間さえ惜しみ、1問でも多く数学の問題を解き、一つでも多く論文を読みたいタイプ。

泳いでいないと死んでしまう魚は、鮪だったか。
とにかく動いていないと不安で、立ち止まれないのだ。

先日、あるスタートアップ企業の方が同じような話をしていた。
「とにかく常に何かを生み出していないと、考えていないと、不安なんです。もはや病気です(苦笑)」
そして、この気配は、自分にも少なからずある。
それで、ハヌルを観ていると、他人事に思えない(苦笑)。

ハヌルは大学病院の麻酔科医だ。
周りから見たら上手くやっていると思われていて当然だが、
実はそうではなかった。
ひたすら突っ走ってきた彼女は、ある日、燃え尽き症候群、いわゆるうつ病と診断され、すべてが一時停止、休むことを余儀なくされてしまう。

心の病でスランプに陥った彼女に向かって、
同じく医療事故によりスランプに陥った美容外科医ジョンウはこう言う。

「つまづいたんだ。頑張らずに、倒れてろ。
この機会に少し休んでみよう」

わかる、わかるよ。休むのがいいことは。
でも、休むことに慣れていないタイプには、
しっかり休むって、勇気のいることでなんだよなぁ。

そういうわけで、
立ち止まって「休む」こと、
治るのを「待つ」ことを、
ハヌルがどのように遂げていくのか見守りたくなっている。
(もちろん、ジョンウも)

話は変わって。
臨床心理士の東畑開人さんが「聞く技術と聞いてもらう技術」について話している動画を偶然目にした。
人の話を聞くとき重要なのは、「話の内容」以上に、
「話を聞く時間を作ること」だという。
そして、心に余裕がないときほど、
時間がかかることを「悪」と感じてしまうものらしい。

それこそ最近は「タイパ(タイムパフォーマンス)」が流行りだ。
短時間でいかに効率的に動くか、
短時間でより高い結果を出すか、
時間をかけて料理をするより、
同じ満足度なら簡単なほうがいい。みたいな。
が、心理カウンセリングをする場合は、
一見無駄だと思えるような「ただ聞くだけの時間」を多くつくることが最も効果的なのだそうだ。

たしかに、人との交流でも、
いきなり深い話はしない。
どうでもいい話をたくさんしたうえで、
ようやく打ち解けた話に入っていく。
まさに、「かさぶたが乾くのを待つ」時間が必要なのだ。
その間、何もしていないように感じても、
なにも進んでいないように感じても、
必要な待ち時間があるんだなぁ。

ちなみに、話を聞きながら、相手に解決策を提示してしまうのは、
待てていない、ことになるという。
「聞く」は、究極「待つ」作業なのかも。
そして「待つ」って、実はとても大事なことで。
今の自分の最大の課題は、
かさぶたが完全に乾くのを「待つ」こと。

そして、ハヌルがどうなっていくのか、
我がことのように見守っている。

Netflixシリーズ『ドクタースランプ』配信中


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