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解体工事とスナフキンとルールの話。

東北あるあるなのか、我が家あるあるなのか、わからないが、子供の頃から口を酸っぱくして言われたのが、「開けたら閉める!」だった。
ドアを開けたら閉める、ふすまを開けたら閉める、少しでも空いていると東北の冬は寒い。なので、「開けたら閉める」は絶対的ルールで、開けっ放しはもちろん、閉め方が甘いのも「ぶー!」となってしまう。

が、「開けたら閉める」は、全世界どこでも共通の絶対的ルールではなかった。
場所によっては、「開けたら、少しだけ開けておく」を維持しておくことがルールのところもある。
コロナ禍では特にそうだった。換気のためだ。
このとき、「開けたら閉める」が正義ではないことを知った。
ルールとは、場所ごと、状況ごとに異なり、そのときどきの必要に応じて産まれていくものらしい。

もうひとつ、個人的ルールがある。
トイレでペーパーがなくなったとき、「補充して出るべし」というものだ。
「切れたら補充」のルールを叩き込まれたのは、初めてのアルバイト先だったと思う。客商売だったため、次に入るお客様が困らないように、という明確な理由があった。
そこで植え付けられたルールが染み付いてしまい、「切れたら補充」が正義となった。「切れたら切れっぱなし」は許しがたいことなのだ。
が、これもまた、場所によって、状況によって、「切れたら切れっぱなし」が正義になることもあり得るのかもしれない。

3月、4月ともなると、新しい季節がやってきて、新しい何かが始まり、そこでの新しいルールに触れることになる。
思えば、母親と一緒に暮らし始めたときもそうだった。
何をどこに置くか、それぞれのパーソナルスペースはどこか、やってほしいこと、やってほしくないことは何か、お互いのルールに歩み寄り、あらたなルールを設けていく作業があった。

家庭だけでない。
ルールや規則は、チームによって、コミュニティによって、組織によって、地方によって、国によって異なるものだ。
それこそLINEグループごとに皆違う。
一方で守るべきことが、他方では違反になることもある。
たとえば、雑誌や書籍では、媒体ごとに「統一表記ルール」がある。
雑誌Aでは「オススメ」と書くところ、この雑誌Bでは「おすすめ」と書く、というように変わってくる。違反とまでは言わないが、その雑誌ごとに、「綺麗」と「きれい」と「キレイ」が混在しないよう、読みやすくなるよう、表記を統一しているのだ。

話は変わって。
自宅の前のビルが解体工事をしている。現場では、数人の職人さんたちが、それはそれは規則正しく、美しく、バスケのボールのパス回しのように、解体作業を進めている。その流れるような作業を見ながら、感動さえしている。
彼らにはきっと、誰が何をやり、誰が何をするというように明確な役割があり、明確なルールのもと動いているのだろう。

1人暮らしだったり、1人で仕事をしていると、自分のやりやすい「楽な」ルールに落ち着いていく。
が、誰かと関わる限り、自分のやりやすさ、楽さとは違ったところにルールが生まれていく。
お互いのバランスを整え、必須になっていくものだ。

規則やルールというと、しばられるようで抵抗がある人もいるだろう。
かくいう私も「ガチガチ」に固められたルールは、得意ではない。
それで思い出すのが、『ムーミン谷の夏まつり』に出てくるスナフキンの話だ。
自由を愛するスナフキンが許せないもの、それは「禁止の看板」だ。子どもたちが遊ぶ公園のそこかしこに、「立ち入り禁止」「◯◯すべからず」と禁止の看板ばかりなのを見た彼は当然のごとくブチ切れ、夜中にその看板を抜きまくってしまう。この看板がどうなったかは、読んでいただくとして。
理由もなく、やみくもに禁止されることには、確かに抵抗がある。
一歩くらい立ち入ってもいいじゃないかと思う。
『愛の不時着』では、互いの境界線に踏み入れてはいけないという国と国のルールがあるなか、北朝鮮の将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は、どうしたか。
「一歩くらい、いいだろう」と境界線を踏み越え、愛を叶えるわけだ。

ルールは難しい。これは違うのではないか、と思うなら、少しだけ破ってみることで、新たなルールができる場合もある。
いずれにしても、ルールがまるでなくなってしまうと、物事がうまく回らなくなってしまうことも事実だ。
トラブルが起きたり、けが人が出ることもあるだろう。

最低限のルールは必要で、それがうまく機能すれば、世の中は美しくなるものだと、解体工事を見ながら思った。

そんなわけで、いままさに、新しい仕事が始動し、違ったやり方、違ったルールに触れている真っただ中にいる。
これまで私が触れてきた世界になかったルールもあり、「それ、NGか!」と、驚きの毎日だ。
幸い、スナフキンがブチ切れた公園の禁止看板とは違って、理由を知れば、納得で、そこでの新しいルールに触れるたび、美しい解体工事を思い出す。
とはいえ、慣れるまでが、なかなかに大変で、うっかりルールに反しては「これ、NGだったか……」と、凹んだりしている。

いやぁ、ルールって大変だなぁ!



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