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不思議なこと ②

 知らない人によく話しかけられることを前に書いたが、ありがたいことに名前も知らない人から優しくされることも多いように思う。しかも、特に食べ物に関してだ。

 大学進学で実家を出てから、1人でご飯を食べることに慣れた。その頃、あまり料理をしなかった私は、ちょこちょこと外食をしていた。そうは言っても、車を持たない大学生の私が食べに行けるのは、自転車で行ける範囲だった。うちの近くには、ご夫婦で営む定食屋さん、お手頃なイタリア料理店があった。
 夕食時、何となく美味しいものを食べたくなったら、ふらりと出かけていた。

 ご夫婦の営む定食屋さんは、700〜800円で美味しい定食が食べられた。1人で行く学生をかわいそうに思ったのか、ご夫婦は、食事中の私にあれこれと話しかけてくれた。食後には、お土産にもらったというお菓子をくれたり、リンゴを剥いてくれたりした。

 イタリア料理店では、30代くらいのシェフが切り盛りをしていた。ここでも、私が1人で食べていると、シェフがあれこれ話しかけてくれた。そして、試作メニューを作った時は、味見をさせてくれた。大根のトマトソース煮込みなど、私は好きだったが、メニューにはならなかった。

 大学を卒業し就職した後は、美味しいラーメン屋さんを見つけた。あっさりとした塩ラーメンだ。仕事も忙しく、帰りが遅くなることも多かったので、仕事帰りによく食べに行っていた。カウンターで食べていると、そこでも、店長がよく話しかけてくれていた。何度か通っているうちに、毎回、たのんでいないチャーシューや卵のトッピングがつくようになった。時々、いただきものだ、というケーキやゼリーが食後に出てくることもあった。


 結婚して、1人で外食することは減ってしまったが、パン屋さんに行くと、よくおまけをもらう。昨日の残りだからと、いくつか袋に入れてくれたり、「サンドイッチが残ったから持って行っていいよー。」と言ってもらったり。

 子どもと近所のスーパーで買い物をしていた時のこと。子どもがおもちを食べたい、と言ってきた。その時、あまり持ち合わせのなかった私は、
「今日はおもち買えないよ〜。」
と、子どもに言った。それを見ていたらしい女性が、
「うちに冷凍のおもちが沢山あるから、よかったら帰りに取りにいらっしゃい。」
と、声をかけてくれた。ありがたく、買い物の後、女性の家まで取りに伺った。私は知らない女性だが、近所なので、向こうはこちらのことを知っていたのかもしれない。

 どうしてこんなに食べ物をもらえるのだろうと考えたところ、思い当たる節がひとつあった。私には、大事にしているキーホルダーがある。金具も取れて、もう随分ボロボロで色も剥げてきているけれど、ずっと持っている。
 大学生の時、仲の良い友達が、
「食べ物に困らへん神様なんやって。cotyledonちゃんにぴったりやと思うて、買ってきてん。」
と、北海道のお土産に、アイヌの木彫りのキーホルダーをくれたのだ。後ろには、私の名前も彫ってくれている。この神様のおかげかもしれない。もう、20年以上一緒にいる。その間、3度引っ越しをしたが、なくさずいつも一緒だ。これからも、大切にしようと思う。よろしく相棒!

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