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東京都同情塔 九段理江:著

新聞の受賞を伝える『チャットGPT駆使「5%くらい文章そのまま」』という記事に対して、私は

Twitterに「何パーセントだろうと作家が恥ずかしげもなくこんな事言うの?ただただ悲しい。文学の終焉ですね。それは、ことばがチカラを失うわけだわ」

と呟いたが、こちらの発言はお詫びして撤回しなければならない。近年の若手作家の中では言葉への執着は群を抜いている。日々、言葉と向き合っている事が作品から垣間見えた。読みもせずに決めつけで発言してしまった事を深く反省した。独特な世界観にかなり引き込まれた。特に、ザハ案の新国立競技場が実現している世界という設定がゾクっとした。この国の異常さの一端はよく考えればこんなところにも現れていたのである。そもそもオリンピックを強行した事自体が狂気なんだが、競技場が高いからとケチる哲学のなさ、いい加減さがニッポンなのである。言葉の軽視と、ザハ案の破棄は深層で繋がっている。小説は考え抜かれていて、それが読んでいて心地よかった。受賞者インタビューでは批評性は全く意識していなかったと述べていたが、たぶん彼女は作品外で本質を語る事を躊躇うタイプの様に感じた。言葉が信じられないほど軽くなっている今だからこそなのかもしれない。受賞会見で彼女は「言葉で対話することを諦めたくない全ての人々へ、『東京都同情塔』を捧げます」と述べたという。今後も注目していきたい。


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