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勉強note2022/11/15(心因性嘔吐症の症例報告①)

今回はインドと台湾の症例報告を調べたので、その概要をまとめておく。

これらの症例報告から、現在、息子が受けているパニック症状の治療法は心因性嘔吐症の治療法としてもスタンダードであり、カウンセリングと一緒に継続していけば予後は良好であること、また、以前から懸念していた現在、服用しているSSRIの副作用(吐き気を抑えるために服用しているのに主な副作用として吐き気がある)についても、薬を切り替える(「レクサプロ」に変更)することで回避できる可能性が分かったことは良かった。なお症例報告については引き続き、コツコツと調べていくつもりである(やはり子供の症例が欲しいところだ)。

1.インドの症例報告
Psychogenic vomiting: A case series/V Pooja et al./Industrial Psychiatry Journal Volume 30 | Supplement Issue 1 | 2021より


症例1

核家族に属する14歳の少女。1年間の嘔吐、3か月の頭痛の再発エピソードの病歴で救急部門を受診し、医学病棟に入院。検査により器質的な原因が除外されたため、精神科の紹介を受ける。

患者は一年前までは元気だったが、容姿のせいでクラスメートからいじめを受けていた。いじめを受け続けた結果、彼女は悲しみを抱くようになり、母親に気持ちを伝えたが、真剣に受け止めらなかった。

彼女は、発症時には潜行性だった嘔吐のエピソードを繰り返すようになった。それは吐き気を伴わない嘔吐で、頻度は徐々に増えていった。嘔吐エピソードは、1日2~3回、食物と水の摂取直後に起きた。嘔吐物は、直前に摂取した食物粒子で構成されており、胆汁染色も血液染色もなく、どの薬でも軽減しなかった。自分が好きな食べ物を食べた後も嘔吐が続いた。発熱、腹痛、または軟便の病歴はなし。

以前、彼女は複数の医師に相談し、2回入院して、内視鏡検査などの検査を行ったところ、軽度の胃食道逆流症が示唆されたが、どの介入でも有意な改善は認められなかった。

患者はまた、発症時に潜行性の頭痛を訴えた。それはズキズキするタイプの数時間続く頭痛だった。悪化要因や軽減要因は特に認められなかった。

詳細な問診では、患者は嘔吐のエピソードに関係なく元気であると報告したが、実際には彼女は学校を1年間欠席し、体重も減っていた。彼女には個人的な苦痛はなかった。

彼女は自分が太りすぎであり、理想的な体重は30kgであると考えていた。彼女はまた体重が減れば友達が彼女をからかうのをやめるだろうと信じていた。彼女は体重を減らすために、嘔吐が始まる前、時々食べ物を捨てていたと告白した。

嘔吐は決して自己誘発性のものではなかった。家族には精神疾患の病歴はなかった。また患者の出生および発育歴にも特に目立ったものはなかった。学業的には、患者は勉強が得意だった。睡眠もしっかり摂れていて、食欲も旺盛だった。

一般的な身体検査では、彼女は平均的な体格だったが、栄養が不十分であることが分かった。全身検査は正常範囲内だった。彼女の体格指数 (BMI) は16.6 kg/m2で、これは3パーセンタイルより上で、15 パーセンタイルより下の水準である。

彼女は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、支持的心理療法、患者と母親への心理教育でうまく管理することで、フォローアップによる病状改善を維持している。

症例2
結婚して3か月の中流家庭に属する21歳の女性。一時的な過呼吸、3か月にわたる不随意運動の症状を訴え、義母によって精神科のOPDに連れてこられた。

彼女は約2か月間、複数回の嘔吐(1日20~22回、食後約5~10分)を訴えていた。彼女は元々大都市在住で、MBA取得後、働いていたが、結婚を機に仕事を辞め、夫と一緒に郊外の村に住むようになっていた。

結婚式の1週間後、彼女は宗教の儀式のために夫と一緒にダムに行き、その場所で自殺したあるコミュニティの人々について話をした。その翌週、彼女は友人と一緒に2回、もう1回は儀式のために家族と一緒にそのダムに行った。

彼女の義理の母は、症状のエピソードが始まってから約10日後に彼らの教会に信仰治療師を呼び、その結果、彼女は15日で完全に回復した。この間ずっと彼女の生体機能は安定していた。

その一連の流れで、彼女は個人開業医に連れて行かれ、ベンゾジアゼピンの経口投与を開始した。回復の数日後、彼女は嘔吐のエピソードを持ち始めた。

彼女は通常、食物と水を摂取してから5~10分後に嘔吐し、吐き気はなかった。嘔吐物には血液は混じっておらず、食物が含まれており、非胆汁性だった。

彼女が食欲不振や睡眠障害を訴えたことはない。彼女はその後、別の開業医の下で数日間入院し、対症療法を受けた。

彼女の脳画像には異常は認められなかった。血液検査、尿検査、超音波検査(腹部、骨)の数値はすべて正常範囲内だった。

彼女の症状は退院によって改善されたが、完全には解消されず、1か月間で4kg体重が減った。

嘔吐の後、彼女は通常リラックスしており、会話は快適に行われた。再入院後2日以内に、症状エピソードは1日あたり3~4 回に減少し、腹痛は大幅に減少した。彼女は自分の病気について過度に心配することはなく、

症状エピソードは食事を終えてから5分後に起こり、吐き気は伴わなかった。一連の精神状態検査でも重要な所見は認められなかった。

患者の状態は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、支持的心理療法、および患者とその家族への心理教育を患者に開始することでうまく管理された。

考察
心因性嘔吐の診断基準は確立されていない。疾病の国際統計分類研究のための診断基準では、他の心理的障害に関連する50.5の嘔吐に分類される。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第 5 版では、心理的要因のない F98.21 の反芻症候群に分類される。

患者は二人とも若い女性で、女性の優位性が報告されている。患者は、症状のない期間を伴う常同型の嘔吐エピソードを繰り返していた。心因性嘔吐は、過去文献では主に若い年齢層で指摘されており、これは今回の患者にも当てはまった。

今回は他の形態の摂食障害は認められなかった。患者は身体イメージの歪みがあったが、神経性食欲不振の基準は満たしていなかった。嘔吐は自分で誘発したものではなく、食事制限もなかった。したがって、回避的制限食物摂取障害の可能性も除外された。患者のBMIも年齢の正常範囲内だった。患者の体重は2~3kg減ったが、それが深刻な問題になることはなかった。

これらの患者では嘔吐に対する懸念や苦痛の欠如も報告されている。いくつかの症例報告では、食後の嘔吐はうつ病、および混合不安と抑うつ障害と関連していた。

これらのグループの大半は、主に大うつ病または転換性障害の精神疾患を患っていた。また学業成績のプレッシャーが周期的な嘔吐を引き起こすことが多いことを強調していた。

心因性嘔吐の引き金は、挫折、学業に対する熱望、そして学校に復学することだった。そのため、これらのストレス要因により多く直面しているアジア諸国の女の子の間での発症率が高かった。

身体症状としての心因性嘔吐は、親に問題意識を引き起こす傾向があり、それが家族や患者の注意力を高め、学業のプレッシャーや欠勤を回避することにつながるものと思われる。しかし、今回の患者にはそのような症状や苦情はなかった。今回の患者におけるSSRI治療と支持的な心理療法および心理教育に対する良好な反応は、他の文献と一致していた。

2.台湾の症例報告
Escitalopram for Psychogenic Nausea and Vomiting:Wen-Yu Hsu et al./A Report of Two Cases J Formos Med Assoc | 2011 • Vol 110 • No 1より

症例1
患者Aは46歳の人妻で、私たちの病院の救急部門に搬送された。持続性の吐き気と嘔吐の治療を実施した。

彼女の過去の病歴および個人歴は以下の通り。
結婚期間は20年。それ以来、彼女は夫の工場で働いていた。結婚後、夫婦は二人の子供を養子に迎え、現在、養女は大学生で、息子は高校生である。

彼女の病前性格は外向的でかつ楽観的というものだった。糖尿病を発症したため、現在は血糖値をコントロールするためにインスリン注射をしている。
また、高血圧の病歴があり、降圧剤を8年間服用しており、内科で定期的にフォローアップを行っている。

患者Aは吐き気の発作を経験し、1年間嘔吐が続いたため、入院治療を行った。
消化性潰瘍疾患および膵炎の疑いが考えられたが、該当する病態は認められなかった。

私たちが彼女を緊急で診察した際、彼女から、不安な気分を表明する、泣く、子供っぽい態度をとる、鎮静剤の注射を要求するなどの反応があった。

そして、吐き気を訴えたことから、救急室の医師が診察することになった。

患者Aと初めて会ったとき、彼女の憂鬱な気分に気づいた。彼女は自分自身について以下の通り説明した。

娘と息子への心配、日常生活への関心、複数の身体的愁訴、食欲不振、エネルギー不足、睡眠不足、気分の悪さ、無価値感、罪悪感、絶望感。自殺念慮も持っていた。これらの要因によって彼女が家族経営の工場で働くことは不可能になっていた。

エスシタロプラム10mgの1日量が処方され、当院の精神科外来で長期フォローアップが行われた。

彼女のうつ病には10–20 mg/日のエスシタロプラムを処方し、不眠症対策にロラゼパム2 mg/日を就寝前に服用させた。彼女はまた、精神科外来受診のたびに精神療法の簡単な支援を受けた。

エスシタロプラムを4週間使用した後、吐き気や嘔吐の頻度が減り、彼女の不安も軽減していった。しかし、その後、来院時に患者 A はストレスを感じていることを告白した。

息子と娘との関係が良くない事。最近まで、定期的な連絡がほとんどなかった娘が近所に引っ越してきたこと。まだ実家に住んでいる10代の息子がへの焦りなど。

エスシタロプラム治療の7週間後、彼女は工場で仕事を始めることができ、家事もできるようになかった。外来による8ヶ月のフォローアップ後、患者Aの吐き気と嘔吐の回数はわずかになり、入院をすることもなかった。

症例2
患者Bは37歳の既婚教師で、繰り返す吐き気と嘔吐の症状を訴え、消化器病棟に再入院した。頻繁に吐き気と嘔吐があったが、彼女の苦情に関連する身体所見は認められなかった。

彼女の過去の病歴と個人歴は以下の通り。

彼女の病前性格は、気が強くて、支配的。

教師歴は9年、結婚歴は8年。彼女が最初の激しい吐き気と嘔吐のエピソードを示したのは今から4年前の妊娠初期のときだった。

彼女の吐き気と嘔吐は、彼女が再入院した後に治った。中国の伝統的なハーブによる治療を受けたが、出産時に、激しい嘔吐が再発した。

約18ヶ月前、私たちが最初に彼女に会ったとき、彼女は内分泌科に入院していた。

数週間の全身脱力後の病棟で発汗、頻繁な空腹、不眠の症状があった。彼女は甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)を患っているという印象を受けた。

彼女が内分泌外来でフォローアップされたとき、プロピル-チオウラシルとプロプラノロールが処方された。治療の結果、彼女の甲状腺機能は正常になったにもかかわらず、患者 B は重度の吐き気の発作を起こした。

過去5か月間にわたって吐き気と嘔吐が続いた彼女は内科第4病棟に入院し、5ヶ月間で7回、救急室に搬送された。その間、彼女の治療方針に変更はなかった。

検査結果から次のことが示された:軽度の低カリウム血症。そして、尿中にケトンが検出されたが、そのほかに異常な所見は認められなかった。

急性胃腸炎が疑われ、彼女は内科医に入院した。

生理食塩水と電解質による治療後、サプリメントが処方された。彼女の吐き気と嘔吐のほぼすべてのエピソードが週末近くになって起きた。度重なる入院、薬の反応の悪さから消化器科医が私たちに相談にきた。

彼女に初めてインタビューしたとき、患者Bは次の点を気にしていた。

彼女の身体的問題。彼女はアルコールや違法薬物の使用を否定した。内科病棟での最初の面接時には、彼女は自分が気分が落ち込んでいたり、興味が喪失していることを否定していた。また、食欲不振、軽い腹痛、眠気を訴えた。

私たちがより良好な関係を築いてからは、彼女は毎週、自分のストレスがどんどん高まっていることを告白した。

彼女は自分の両親と一緒に住んでおり、彼女の両親は彼女が働いている間、彼女の子供の面倒を見てくれた。

夫は別の街にある会社で働いており、彼女は週末だけ夫と彼の両親と同居していた。週末は彼女が一人で子供の世話をしており、子供のことで夫とけんかすることが増えていた。

精神科外来の診察中に、彼女は、不快な気分、不安、睡眠不足、体の不調、自尊心の低さを訴え、混合不安抑うつ障害と診断された。

私達は1日10mgのエスシタロプラムと不眠症治療のため就寝時に服用されるロラゼパム2mgを処方した。彼女は精神科外来時に簡単な支持的心理療法も受けた。

1週間の投薬後、彼女の緊張は和らぎ、睡眠も改善された。吐き気と嘔吐の頻度も月2回まで低下した。

考察
どちらの患者も明らかな器質的原因がないにもかかわらず、吐き気と嘔吐を繰り返しており、うつ病と診断された。 

エスシタロプラムはどちらの患者に対しても吐き気と嘔吐の頻度を減らす効果があった。

不眠症のために服用したロラゼパムの吐き気や嘔吐に対する効果は限定的だった。ロラゼパムは半減期が12未満の短時間作用型ベンゾジアゼピンのため、日中の吐き気や不安への効果は限定的だと思われる。

精神医学的介入の前に、両者ともはベンゾジアゼで治療されていたが、全く効果は無かった。

簡単な支持的心理療法が治療の成功に貢献した可能性はあるが、最近の研究で指摘されているように、うつ病治療の最初の数週間においては、薬物療法は短期精神療法よりも優れている。私たちは、今回の治療の成功にエスシタロプラムが重要な役割を果たしたと考えている。

吐き気と嘔吐の発生プロセスにはさまざまな受容体、神経伝達物質、および神経経路が関与している。

髄質にある嘔吐中枢が、嘔吐プロセスを開始する。

皮質、大脳辺縁系、迷路、化学受容器、トリガーゾーン、食道、胃、小腸などがこの嘔吐中枢の誘発に関与している。

うつ病と不安神経症は大脳辺縁系に関連しており、嘔吐中枢にも影響を与える可能性がある。

このような、うつ病の経路に基づいて、エスシタロプラムの心因性嘔吐に対する有効性について2つの説明が出来るかもしれない。

まず、両方の患者とも抑うつと不安があり、どちらもエスシタロプラムの治療後、改善した。

このような抑うつの不安の改善には辺縁系からの嘔吐中枢への誘発要因の減少が関与しているかもしれない。

つまり、大脳辺縁系からの嘔吐中枢への入力が減少することにより、吐き気や嘔吐の頻度が減少するものと思われる。

第二に、上部消化管におけるセロトニンの役割を考慮する必要がある。セロトニンは腸管神経系の神経伝達物質であり、一般に、胃腸の運動および感覚機能を調節する主要な候補であると考えられている。

SSRIは消化管に有害な作用を引き起こす。SSRIは、それ自体、吐き気や嘔吐などの消化器系への副作用があり、いずれもセロトニン受容体の刺激によるものと考えられている。

米国食品医薬品局(FDA)の添付文書では、エスシタロプラムはセロトニン受容体への親和性がない、または非常に低いとされている。
したがって、エスシタロプラムは他のSSRIに比べて吐き気や嘔吐を引き起こさないものと考えられる。

二重盲検プラセボ対照試験において、エスシタロプラムの投与は吐き気と嘔吐を有意に減少させた。エスシタロプラムの投与は、化学的および機械的食道感受性を有意に低下させた。

他の抗うつ薬に関しては、三環系抗うつ薬、トラゾジウム系抗うつ薬、の使用は、食道過敏症を引き起こす可能性がある。

心因性嘔吐症の非薬物的治療ついて
非薬物療法は、薬物療法と同様に重要である。
具体的には支持的精神療法、認知行動療法、個人精神療法、集団精神療法、家族療法、夫婦関係療法などがある。

あるランダム化比較試験において、短時間の精神力動的-対人的心理療法を受けた患者は、対照群と比べて良好な回復を示した。

Chengらは、柔軟対処心理療法が機能性ディスペプシア症状の治療に有効であることを明らかにした。

彼らは無作為化試験において、機能性ディスペプシア患者126名を、催眠療法、支持的心理療法とプラセボ併用療法、あるいは16週間の内科的治療に無作為に割り付けた。

催眠療法は、他のアプローチと比較して、短期的または長期的な治療において有意に症状を改善した。

吐き気や嘔吐は不快感を与えるものであり、器質的な原因が明らかでない吐き気や嘔吐を繰り返すことは、患者やその家族にとって大きな苦痛になる。

エスシタロプラムは心因性の吐き気と嘔吐の発作を軽減する効果があった。

このエスシタロプラムの薬理作用は、エスシタロプラムの大脳辺縁系への薬理効果、そして上部消化管におけるセロトニン受容体に対する親和性が低いこと、そして食道感受性の低さが症状改善のメカニズムである可能性がある。

我々の治療結果は、エスシタロプラムが心因性嘔吐症を有する患者の治療に有効であることを示唆している。

ただし、エスシタロプラムの作用機序を明らかにするためには、より大規模な臨床試験が必要である。


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