『大企業病』という流行り病
時は20XX年
猛威を奮った新型ウィルスが終息しつつある中、この国を別のウィルスが確実に蝕みつつあった。
そのウィルスは、一般的に「大企業病」と呼ばれているもので、一度このウィルスに罹った人間は一人の例外もなく、
ダサいことをまるで息を吐くように平気で言う人間
になってしまうというとても恐ろしいウイルスだ。
もちろん僕自身も罹っていて、ただ他の感染者と異なりまだ自覚できているのは、おそらくまだ軽症だから、かもしれない。
しかし、それは、決して楽しい状況ではない。
周りのダサい感染者のダサい発言にいちいちムカついてしまうし、その果てに、きっと自分も完全に感染してしまう、という不安に絶えず怯えているからだ。
感染の進行を抑える唯一の方法は、
非感染者との接触
しかない。
そして、まさに昨晩、非感染者の二人と約5時間、第一種接近遭遇を果たした僕は、
改めて自分が大企業病の保菌者であることを自覚すると共に、飲み会の席にも関わらず、
武勇伝、愚痴、他人の悪口•陰口、言い訳などなど
いわゆるダサいことを本当に一言も発せずに、その代わりに、目をキラキラと輝かせながら、
自分の仕事にかける純粋な想いや
悔しい思いをバネに自分の夢を叶えたエピソードを
語ってくれた二人の姿を見て、僕の心の中にヘドロのように溜まっていた
存在の耐えられないダサさ
がどんどん解毒されていくのを感じた。
そして、
僕たちは幸せになるために働いているのだ
という当たり前に気づく。
翌朝、二日酔いの頭を抱えながら、家を出る。
そして、いつものように、イヤホンを耳につけて、スマホのサブスクの再生ボタンを押す。
僕が大好きなあの曲が鼓膜に流れ込んでくる。
「まだ手遅れじゃない」
一言そう呟いて、桜の花びらが舞い散る肌寒い春の町を、駅めがけて僕は駆け出した。
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