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他人のソラニン

「息子さん、何か習い事とかされているんですか?」

飲み会の帰りの電車の中で、一回り年の離れた友人からこんな質問を受けた際、

僕はほぼ条件反射的に

「今はちょっと休んでいるけど、幼稚園の頃からずっとドラムやってるよ」

と答えたのだった。

すると、彼から

「いいっすね~!」

というお世辞なんかじゃない、本当に心の底からそう思っている感じがする気持ちのいいリアクションが帰って来たから、
なんだかすごく誇らしい気持ちになって、思わずデヘヘとだらしなく頬が緩んだのだった。

と同時に、突然、何故だか知らないけど、自分の脳内スクリーンにこれからの息子の

ドラマーとしてのドラマ←

が映し出されたのだった。

それはこんな感じのお話だった。

高校生になった君は仲の良い友達数人とバンドを組もうぜ!って盛り上がる。

このとき、もちろんドラム経験者なんて君の他に誰もいないから、君はきっとみんなから重宝されるに違いない。

で、何事も凝り性の君の事だから、めちゃくちゃ練習して、どんどん上手くなって、気づいたら、バンドもちょっぴり人気が出だして、地元のライブハウスで演奏し始めたりもするだろう。

そして、君は、そこで運命的な出会いを果たす。

そう、自分と同じロック好きの宮崎あおい似の素敵な女の子に、ね。

そして、やがて二人は同棲し始めて、平凡だけど幸せな日々を過ごし始めるんだ。

一方で、君は音楽で身を立てる夢をずっと大事に抱いてもいて、彼女もそんな君の夢をそばにいてずっと応援してくれていた。

でも、その夢はあともう少しというところで叶わなくて、そして、その過程で、現実の残酷さや人間の醜い姿を目の当たりにした君は、きれいさっぱりその夢のことはあきらめて、これからは普通に会社勤めしながら彼女と共に幸せな家庭を築いていくんだ、と決心する。

でも、そんな日々を過ごしていたある日、
君は、急に、

このままゆるい幸せがだら〜と続く

そんな未来がたまらなく怖くなる。

そして、何もかも投げ出して、そんな世界に、思わず

さよなら

したくなるだろう。

って、完全にどっかで聞いた様なストーリーだけど(笑)、そして、今の僕ならそんな君の不安を少しは和らげる言葉をかけられるような気もするけど、きっと僕は君に何も言わずにいるだろう。

なぜなら、正直に告白すると、こんなに年食っているくせに、お父さんだって、ごくたまにではあるけど、ふとそんな気持ちになることがあるからだ。

つーか、ぶっちゃけ、さっきなってた(笑)

まあ、僕の場合は、周りのゆる〜く生きている連中に、自分が心血注いで作った物たちを、軽石みたいに軽く扱われたり、犬のうんこみたいにいともたやすく踏みにじられて、その悔しさ、やるせなさに激しく身悶えた挙句に、

ああ、分かったよ、だったら
こっちから全部ご破産にしてやるよ!

と逆ギレするという

いささか趣が異なる感じではあるけれど(苦笑)

まあ、そんな我ながら大人気ない僕がせいぜい君に言えることと言えば(結局、言うんかい)

お互いにこの世に生まれてしまった以上は、

もう腹をくくって生き続けるしかないよね

ということだけだ。

なぜなら、僕と同じ感性の持ち主で、僕よりもはるかに聡明で心やさしい君は、これからの人生で、たとえ愛する人たちに出会えたとしても(というか君なら絶対出会えるけど)
間違いなく、

この世界にさよならしたくなる

そんな悪い種が幾度となく芽を出すタイプの人間だからだ。

でも、だからこそ、君は

生き抜かなきゃいけない。

そーゆー人間は、

生きててほしい

とか

生きててもいい

とかもはやそーゆー次元じゃなくて、

ぜってぇに

生きなければならない

のだよ。

って、ついさっきまで僕も必死に自分に言い聞かせていたところだ(苦笑)

そして、それでも僕は、心のどっかで、

とどのつまり、それしか正解はないよなあ

と思ってもいる。

だって、かつて赤の他人のドラマを見て涙を流していた青年が、オッサンになって、自分や愛する人たちのことを想って、こんなにも何度も鼻水垂らすくらい泣きじゃくっているドラマなんて、
控えめに言ったって、最高じゃないか。

以上、我ながら、最初に書くつもりの内容とは全く違うものになってしまったことに唖然としている(苦笑)

しかも、喉元過ぎればなんとやら、で、風呂に入って身も心もすっきりした僕は、ソファに腰掛けながら、息子がテレビゲームをしている姿をだらっ〜と見ている、という、まさに

ゆる〜い幸せってヤツ

をめちゃくちゃ満喫している最中である。








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