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はじめて漫画を息子に読み聞かせたときの話

ある晩、いつものように息子とお風呂に入っていたときに、彼から思いがけない本音を告白されて、思わず動揺してしまった。

そして、その僕の姿を見て、息子がさらに落ち込んでしまっている様子が手に取るように分かった。

こんなとき、動揺や不安を隠せない自分はつくづくダメな親だなあ、と思った。

でも、ダメな親なりに、子供を心配したり、何かできないかという気持ちもあって、このときは、以前から彼が興味を持っていたらしい僕が持っている漫画を一緒に読んでみることにした。

その漫画を書いた漫画家はドラえもんなど日本の漫画に憧れて、タイで初めてプロの漫画家になった人で、日本でも個展を開いたり、キャラクターグッズを販売してたりするから、知っている人もいるかもしれない。

かくいう僕ももうかれこれ20年近く彼のファンである。

風呂上がりに、僕たちはお互いになんとなく落ち込んだ気持ちを引きずったまま、早速、彼の漫画を開き、ページを読み進めた。

いくつかの短編を読んだあと、僕が大好きな作品が出てきた。

それは風船みたいな形の顔に目が無数にある宇宙人が主人公の話だった。

まず、この主人公を見るなり、かわいい、と言ったのがいかにも息子らしいと思った。

その宇宙人はまだ子供で、訳あって、ひとり地球に漂着していた。本人はなぜ自分がこんなところにいるのか理解できていない様子だったけど、すごく頭の良い子だったから、自分で壊れた宇宙船を治して、それに乗って、無事、自分の星に帰れたのだった。

しかし、彼が戻ったときには、すでにその星は滅びていて、廃墟の中にたくさんの死体がうず高く積まれているだけで、生きている仲間はひとりも見当たらなかった。

そんな中、彼は必死に母親を探して、ついにシェルターの中にいる彼女を見つける。

しかし、このとき母親はすでに死んでいて、その死んだ彼女の代わりに大きなスクリーンに映し出された生前の彼女が彼に語りかけてきた。

「あの壊れかけの宇宙船でここに戻ってこれたのね。やはりお母さんが思っていたとおり、あなたはすごい子だわ」

「実はこの星は核戦争が起きてしまって、滅びる寸前なの」

「どうにかあなただけでも生き延びて欲しかったから、あの宇宙船に乗せて脱出させたのよ」

「他に素敵な星を見つけて、そこで、どうか幸せに暮らしてね。あなたならきっとできるわ」

「そして、お母さんはいつもあなたのそばにいる。寂しくなったら目をつむってごらん。いつでも会えるから」

当然ながら、主人公は、この突然の悲しい出来事をどうしても受け入れることが出来ず、

「お母さんは、僕の本当の凄さを分かってない!今からタイムマシーンを作って、お母さんを助けに行くからね」

と言って、必死にタイムマシーンを作り始めるのだけど、残念ながら、結局、その試みは失敗に終わってしまう。

そして、失意の底に沈んだ主人公が思わず天をあおいで目をつむった瞬間、確かに目の前に母親の姿が現れた。

「母さんに、会えた」

と言いながら、彼は無数にある目から涙を流していた。

その姿を見た息子が

「彼は目がたくさんあるから、きっとたくさんお母さんに会えたよね」

と優しい声でつぶやいた。

実はこの漫画のセリフを読み上げている最中、僕は涙をこらえるのに必死だった。一方、聞いている彼の方も、あからさまに泣いたりはしてなかったけど、ときおりティッシュで鼻をかんでいた。

お互いにとても心細い気持ちで、寄り添うように読んだ漫画に、思いがけず少し心が救われたような気分になった。

この色々と壊れかけてしまった世界で、どうしたら君が幸せに生きていけるのか

今はただそればかり考えている。

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