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メモリアル花火

昼過ぎ、電車を乗り継いで50分くらいの場所にある病院に行く。

最近の息子の様子を話して、先生に彼の薬の量を調整してもらうためだ。

月2回の通院で、去年の7月から通い始めたから、もう30回くらいは通ったのかな。

最初は上限量の100mgから始めて、それから減らしたり、増やしたりを繰り返して、気づいたら、すでに一年以上が経過していたと言うわけか。

でも、今日、ついに先生の口から

「もう薬をゼロにしてもいいですよ」

という念願のあの一言がもらえたのだった。

その先生の発言に続いて、

「初めてここにきたときは息子さん車椅子だったですものね。本当に良くなってよかった。お父さん、お母さんが頑張ったおかげですよ」

などと看護師さんが軽々しく優しい言葉なんてかけてくれるから、不意にあのときの諸々が蘇ってきた僕の視界はみるみるうちにぼやけてしまった。

そして、声を震わせたまま、僕は

「これも先生たちのお陰です。本当にありがとうございました」

と深々と頭を下げた。

と同時に、実は、いわゆる松岡修造系のエキセントリックなキャラクターの先生のこと、家では3人でむちゃくちゃからかってんだけど、それについても

ごめん!

とこちらは声に出さずに謝った。

病院を出ると、秋らしい薄色の青空が広がっていた。

僕は大きく口を開けて、秋風を思いっきり肺に吸い込む。

ひんやりと心地よい風が全身を通り抜けた。

そして、秋空を見上げながら、妻に電話した。

妻「長かったわね…」

僕「うん、長かったなあ…。でも今までずっと彼のそばで頑張ってくれて本当にありがとね」

妻「…。」

妻「ところで今晩、近所で花火大会があるみたいだけど、どうする?」

僕「もちのろん!みんなで見に行くよ!」

この僕らのメモリアルデイをきっと世界も祝福してくれているはずだから。

3人で花火を見上げる姿を想像する。

たまらなくなる。

さあ、急いでウチに帰ろう!

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