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俺の風上で納豆を食べるな

夫は納豆が嫌いだった。

だから結婚当初は、納豆が全然食べられなかった。
「食べてもいいけど、俺の風上で納豆を食べるな!」

でも、無理でしょ。
2人暮らしの狭いダイニングテーブルでさ。
朝でも夜でも。
そもそも、この家のどこが風上なわけ?
換気扇から遠いとこ?私、キッチン側に座ってますけども。

てなわけで、何年かは納豆を食べていなかったんだけれども。

でも、今は、普通に納豆を食べている。一緒に。
なぜ食べられるようになったのか。

***

キッカケは旅行。
初めて買った車で出掛けた旅館で、朝ご飯に納豆が出てきた。
彼はそれを、苦虫を噛んだような顔をしながら、「食べれる」と言いながら食べた。

納豆好きの私にとっても、結構納豆臭さが強めの納豆だった。

「よく食べられたね、えらいね」

小学生の子供に対して言うかのようなコメントを投げかけると、彼は言った。

「車のオーナーに相応しい人間になりたいから食べた」

…へ?そんなんで、大嫌いな納豆食べれんの?

私が初めて、油揚げに肉味噌と納豆を詰めて食わせようとしたら、謝りながら食べなかったあの納豆を。

風上で食べてはならない、あの伝説の納豆を。

彼は欲しがっていた車を買った。お金を貯めて、頑張って買った。
納豆を食べられない人間は、オーナーに相応しくないようだ。

いかにも我が夫らしい。

でも、これで今でも「美味しい」と言いながら食べているのが深い(?)
納豆だけは本当に食べなかったのだけれども、もはや、旨味を感じるらしい。

よくある話ではあるけど、この話は、ちゃんと理想と実践が伴っているから、良い話として語れるのだと思う。

こうして今日も、私は夫の風上で納豆を食い、夫は私の風下で納豆に焼肉のタレをかけて食らう。

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