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65 問題は起こるが解決もする (前編) KL→ペナン島

 日本語学校の非常勤センセイは夏、冬、春にそれぞれ2週間ほど休めるところが何よりも良い。  
 2008年の春休みにマレーシアへ行った。10年ぶりぐらいに訪れたクアラルンプールは空港から鉄道で直行できたり、モノレールみたいなので市内を楽に移動できたり、" KL "とおしゃれに略されていたり、でもアジアのカオスはしっかり残っていてすごくいい感じだった。

 何の計画も立てずに来たので、とりあえずチャイナタウン近くのゲストハウスにチェックイン。それから、さてどこへ向かおうかと巨大バスターミナル、ブドゥラヤでチケットブースをぶらぶら見て回り、マラッカかペナン島か迷った末、ペナン行きの窓口のお姉さんとふと目が合って、ペナンに決めた。

 勧められるままにゴージャスなナイトバスを予約。20時発ってのはちょっと早くないかと思ったけれど、まあマレーシアのバスシステムは完璧だし、昔クアンタンに4時だか5時だかに到着したときも利用客で賑わっていて、食堂や売店も営業していたから、ペナン島なら尚更いつ着いても不便はないだろう。

 という浅はかな思い込みとバックパックを背負って、翌日、バスに乗り込む。
 それはもう想像以上に豪華で、足台は自動で上がり、背もたれは自動で倒れ、ほぼ水平に寝られた。スペシャルパーソナルシステムとかいう個テレビで映画(インド、マレー、香港、中国)とミュージックビデオが見られる。ヘッドフォンは高音質。このままこれに乗って帰国したいぐらいだ。

しかし・・・

 ほんの数組の乗客を乗せ、ゴージャスバスは定刻に出発し、市街地をぶいぶい飛ばし、がんがん進み、あれ? 気づいたら橋渡ってるやん。もうペナンちゃうん。

 そう、もうペナン島だった。渡ってすぐ、真っ暗な空き地で降ろされた。いや、目が慣れたら空き地じゃなく静まりかえったバスターミナルだった。0時半。
 どどどどどうしよう・・・
 同乗の皆さんは迎えの車やタクシーに乗り換えている。隣席だった中国人のおじさんが、「ジョージタウンへ行くといい」とタクシーに話をつけてくれ、とりあえず中心地コムタに向かう。が、着いて軽く絶望した。コムタも寝静まっている。
 明かりがついているのはセブンイレブンとドライブイン風の中華食堂、少し離れてトレイダース・ホテル(高級)だけである。
 中華食堂のおばちゃんに「朝までいていい?」とすがってみたけれど、「ここは1時半に閉めるのよ」と気の毒そうな顔で「あそこにホテルがあるけど?」とトレイダースを指す。
 う〜ん・・・予約なしでこんな時間にこんな格好で行って泊めてくれるのか、それに予算が・・・一応クレジットカードは持ってるけど・・・
 
 1時半を目前に逡巡し、暗い外を眺める。と、駐車場と思っていた食堂の隣は、タクシーの営業所のようだった。事務小屋に明かりがついて、人がいる。鎖を乗り越えて窓越しに" タクシー乗りたい "のジェスチャー(どんなんだ)をすると、夜勤らしきおっちゃんが出てきて「深夜料金になるよ」と言いながら、1台出してくれることになった。テリマカシ〜 テリマカシ〜 
 チュリアまでお願いします。

 考えてみたら、バスターミナルから直接、安宿街のチュリアへ行けばよかったのに、真っ暗なターミナルでパニックになり判断を誤ったようである。
 ドライバーは「マレーシアは安全だから大丈夫だけど、よその国でこんな時間にひとりでいてはいかんよ」と静かにわたしを諭した。もっともでございます。気をつけます。

 暗い道をしばらく走り、やがてぽつぽつとカフェやゲストハウスの明かりが見えるエリアに入った。「宿は決まってるのか」と問われ、目星をつけていたスイスホテルと答える。
 果たしてスイスホテルは、おお、電気がついている。レセプションにおっちゃんがいる。
 何度もお礼を言って料金を払うと、ドライバーは「空き部屋があるか、待ってるから聞いてこい」と言う。くーーーーっ どこまで親切なの。

 タクシーを降りて建物に駆け込み、レセプションに立つ、と、同時にカウンターに鍵とレシートが出され「35リンギッ」と無表情で告げられた。あああっ 泊まれるのだ。タクシーに向かって、OKのジェスチャーをすると、プンとクラクションを鳴らして発進していった。ありがとう、ペナンのドライバー。

 何の交渉もせず自動的にあてがわれた15号室は狭く、ベッド置き場という感じだったが、奥に取ってつけたような(増築したようである)きれいなバスルームがあり、お湯が出た。カミサマ、テリマカシ〜
 脱力していたらドアがノックされ、出ると、さっきの無愛想なおっさんがタオルと石鹸をぬっと差し出した。おお、サービスの良い宿である。

 そんなわけで午前2時、温かいお湯を浴び、石鹸とタオルで本日の失態を洗い流し、清々しい気分でベッドに入ったのであった。
 ペナンの皆さま、ありがとうございました。

インドも味わえる♪

後編へつづく

 

 

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