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Bonsai

高校に入学して間も無くの初めての体育の授業だった。
Boys は武道、Girls は舞踊

最初の授業だから教室での講義。

ジャージを着た白髪頭のヒョロっとしたおじいさん先生が
自己紹介の後、いきなり、でものんびりと

「お前らはなぁ、ボンサイなんや。」と言った。
クラス全体、鳩が豆鉄砲を喰らったような雰囲気。

私はすぐ熱くなりやすいタチだったので
「初めて会ったおっさんに何が分かるん?失礼なやっちゃ!」
と心の中で毒吐いた。

その心を見透かしたように、続けて先生が言った。
「ボンサイ言うても、凡才やのーて、盆栽の方な。」

????? 益々分からん。。。。

「お前らはな、ほっといたら今頃、大きな大木になってたかも知れんねん。
せやけどな、大人がチョンチョン、チョンチョン、切るねん。
伸びようとしている、その芽や枝をな。

そうすると、小ぢんまりと綺麗なんは出来るけどな、
おもしろないねん。ホンマの美しさやないねん。
そこんとこ、きーつけな。」

そこからの先生の授業は最高に面白かった。
舞踊と言いつつ、要するに表現の授業だ。

バスケットコートになる広い体育館で
クラス全員の前にポツンと一人で立ち
みんなの視線が自分にしか集まらない中
「〜をします。」と言って何かをやる。
小道具も大道具も音楽も何も無い。
想像、イメージ、アクション、が全てだ。

評価は先生の叩く太鼓の音と回数。
初めは皆、恥ずかしさと何をどうすれば良いか分からず
0.5とか良くても2.0とか。音も弱々しい。

私の番。恥を捨て、意を決して「サルをします。」と言った。

私は猿。陽だまりで暇そうに毛繕い。
離れたところに飼育員さんがテーブルの上にバナナを置いた。
おっ、なんか美味しそうなにおい。そろり、そろり、と取りに行く。
でも、罠があるかもしれない。用心深く、何度か行ったり来たり。
そして、バナナを取った瞬間、元の位置へ猛ダッシュ!
周りをキョロキョロ。バナナを奪われる危険がないのを確認してからの
安心バナナタイム。うまっ!

大きな太鼓音が5回炸裂!!!
見てた皆もキャー!やら拍手喝采やら。

それからの体育館沿いの校舎で授業を受ける
全ての一年生女子達はどんな授業中であろうと
聞き耳のアテンションは全て太鼓の音。

昼休み、トップニュースは
「今日、7回鳴ったよね!すごい!誰が、何したん?」

ホンマ、楽しかったな〜。

先生は、私達が二年生の頃に癌が再発し
三年生の頃には時々休職され
私達が卒業してから間も無く
亡くなられた。

ご葬儀に参列したGirlsは皆大泣き。

ボンサイ講義は先生の若者たちへの遺言だったのかな、
と今になって思う。

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