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Can't Hold Us by Macklemore & Ryan Lewis 和訳と感想

ブログ記事の再掲です


2012年の名曲Can't Hold Usに込められた、自分なりに解釈したメッセージを述べる。

この曲に出会ったのは学部生の時だから、5年位前になる。その時は今回紹介するオリジナルではなくPentatonixというアカペラバンドのカヴァーを聞いてこの曲に出会った。その時は何となく聞き心地がいいな、PTX上手いな、位にしか印象に残らずそのまま忘れていたような曲だったのだが、今年になってからUntil the morning 2というコンピレーションアルバムをほかの曲(Daft Punkの "Get Lucky" や Pharrell Williamsの "Happy" )が目的で購入した際、たまたまこの曲が含まれていることに気が付いた。オリジナルの "Can't Hold Us" に触れるのは初めてだったし、正直な話最初のうちはこの曲を聴いてもアレンジはPTXの方がいいなどと思ったりもした。しかし昔のアニソンを久々に聞いた時のように聞こうという意欲には火がついたので、この火力に乗じてMVを見たり歌っているMacklemoreについて調べたりした。結果的にMacklemoreだけでなくアメリカのヒップホップ史、アメリカにおけるバラエティー番組の有名司会者やローランドTR-808の功績まで調べるに至ってしまった。

そして、今、Macklemoreが歌う "Can't Hold Us" しか聴いていない。一日に30-40回は聴いていると思う。そしてこの曲は紛れもなくMacklemoreの意志そのものを謳ったものであり、この歌はMacklemore(とRay Dalton)こそが歌うに値すると思っている。理由はこの記事を最後まで読めば分かってもらえると思う。

Macklemoreはジャンルとしてはオルタナティブ・ヒップホップに属している。恥ずかしながら告白するとオルタナティブ・ヒップホップというジャンルはMacklemoreについて調べるまで知らなかった(もっと言えばアメリカのラップはすべてギャングスタ・ラップの流れをくむものだと思っていた・・・エミネムとか映画"ストレイト・アウタ・コンプトン"の影響がでかすぎたんだな)。しかしそのオルタナティブ・ヒップホップに組み分けられているアーティストの中には、一度生で見たことがあるブラック・アイド・ピーズや"Feel Good Inc."というスゲーいい曲を出しているゴリラズ、そして自分が中学生の頃からずっと聴いてきた、つまり自分の音楽の評価の軸を作り上げたSOUL'd OUTに強い影響を与えたとされるザ・ルーツの名前が記されていたのだ(今思うにSOUL'd OUTの標語であるBrand-new contemporary hip-hopというのはこのオルタナティブ・ヒップホップの流れを汲むものだったんだな)。このことを知ったとき、ほぼ直観に近い感じで「あ、これMacklemore好きになるやつだな」と思った。

まあ御託は置いといて歌詞の和訳・・・もとい個人的な解釈を書いていこう。

Can't Hold Us (feat. Ray Dalton)

[Verse 1:Macklemore]
Return of the Mack
Get 'em, what it is, what it does, what it is, what it isn't
Looking for a better way to get up out of bed
Instead of getting on the Internet and checking a new hit me, get up

"Return Of The Mack" じゃないがMacklemoreが帰ってきたぜ(*1)  
流れに任せて生きていこう、これが現実だ (*2) そんな感じで
朝起きて最初にSNSをチェックしたり流行りの歌をチェックするんじゃなくて
もっといい方法があるだろ
起きろ!

*1 Mark Morrisonの”Return Of The Mack”へのリスペクトかつ、2005年発売のLanguage From My World以降Macklemoreはアルコール依存症の治療のため第一線を退いていたことを示している
*2 it is what it is は仕方ないという楽観的アメリカ人らしくないあきらめの言葉

Thrift shop, pimp strut walking
Little bit of humble, little bit of cautious
Somewhere between like Rocky and Cosby
Sweater game nope nope y'all can't copy

俺はリサイクルショップ(*3)でノってこう 少し控えめに 少し周りも気にしてな
力も意志も強いロッキーとユーモアと機知にあふれたビル・コスビー(*4)のいいとこどりしたスウェットのラッパー このスタイルは誰にも真似できないね

*3 Macklemoreの全米シングルチャート一位獲得曲"Thrft shop"や名曲"Downtown"など、彼は一言で言えば庶民性を売りにしているラッパーである。詳しくは後述
*4 ビル・コスビーはアメリカの有名司会者、コメディアンであり、黒人であるが人種差別等をネタにした笑いはとらないことが有名。興味深いことに、彼はオルタナティブヒップホップとは別系統をなす、自分たちへの不当な扱いに対する糾弾の意味合いが大きいギャングスタ・ラップのことを明確に非難している。直前にロッキーという白人をもってきて対比させているのはMacklemoreが白人のラッパーであることも関係している あとロッキーもコスビーもセーター好き

Yup, Bad, moonwalking, this here is our party
My posse's been on Broadway, and we did it our way
Grown music, I shed my skin and put my bones
Into everything I record to it and yet I'm on

Yup! "Bad" "ムーンウォーク" (*5) この場所が俺たちのパーティー会場だ  
仲間ならここ、シアトルのブロードウェイにいる (*6) 俺らなりのやり方を貫いてきたんだ
俺の音楽はまさに生き物だ すべての作品に骨身を削って取り組んできた まさに今もそう

*5 マイケルジャクソンへのリスペクト、並びにbadは真にかっこいいという意味、詳しくは後述
*6 地元シアトルが生んだラッパーSir Mix-a-Lotの1988年の曲 "Posse on Broadway" へのリスペクト

Let that stage light go and shine on down
Got that Bob Barker suit game and plinko in my style
Money, stay on my craft and stick around for those pounds
But, I do that to pass the torch and put on for my town

ステージをライトアップしてくれ
ボブ・バーカーの司会のプリンコを彷彿とさせるスタイルでいくぜ (*6)
カネか?俺の船の周りに群がって待ってな
でも俺は金のためじゃなく意志の炎をを繋げていきこの街を盛り上げるためにやるぜ

*6 プリンコはアタック25みたいな一攫千金系番組で、ボブ・バーカーは日本でいう児玉清みたいな人 macklemoreの祖父でもある 本人はステップアップのために祖父の名前を使うことを避けてきた ここで述べているようにMacklemoreはエンタテインメント性を重視している

Trust me, on my I-N-D-E-P-E-N-D-E-N-T shit hustlin'
Chasing dreams since I was fourteen
With the four-track, bussing
Halfway cross that city with the backpack

俺を信じろ 俺の何者にも追従しないという がむしゃらに追いかけてきた夢を
14の頃からリュック一つで4トラックレコーダー(*7)とともに街行くバスの中  曲を作ってきたんだ 

*7 持ち運び可能なカセットテープ用マルチトラックレコーダー。

Fat cat, crushing labels out here, nah, they can't tell me nothing
We give that to the people, spread it across the country
Labels out here, nah they can't tell me nothing
We give it to the people, spread it across the country

金持ちのやつらがこの業界に圧力をかけてるが俺には何も言わせねえよ (*8)
だから俺たちはこの歌をみんなに伝える 国中に広がっていけ
大事なことだからもう一度言うぜ
金持ちのやつらがこの業界に圧力をかけてるが俺には何も言わせねえよ
だから俺たちはこの歌をみんなに伝える 国中に広がっていけ

*8 何度も言うが、Macklemoreは自身でレーベルを立ち上げ、ビルボードにランクインした。詳しくは後述

[Hook x2: Ray Dalton]
Here we go back, this is the moment
Tonight is the night, we'll fight 'til it's over
So we put our hands up like the ceiling can't hold us
Like the ceiling can't hold us

ここに宣言するぞ 今がその時だ
決着がつくまで今夜は戦い続けろ
だから手をあげろ 天井を押し上げるほどに
押し付けられた境界なんか超えてしまうほど

[Verse 2]
Now can I kick it, thank you
Yeah, I'm so damn grateful
I grew up really wanting gold fronts
But that's what you get when Wu-Tang raised you

2nd verseにいかせてもらうぜ
ここまでこれたことにに本当に感謝の気持ちでいっぱいだ
ガキの頃から金歯 (*9) が欲しいと本当に思いながら育ってきた 
Wu-Tang (*10) に育てられれば誰でもそうなるぜ

*9 gold frontsは前歯に取り付ける金色のカバーのこと。初期のラッパーがよく着けていた。
*10 Wu-Tang ClanはMacklemoreの先代の中でもトップクラスに有名なラップグループ

Y'all can't stop me
Go hard like I got a 808 in my heart beat 
And I'm eating at the beat like you gave a little speed
To a great white shark on Shark Week, raw!
誰も俺を止められない
808 (*11) が俺の鼓動を刻んでるかのように激しく
Shark Week (*12) に出てくるホオジロザメが獲物を追いかけるがごとく
ビートに食らいついていくぜ

*11 808はRoland TR-808、通称ヤオヤと呼ばれる80年代伝説のリズムマシン。ヒップホップを語る上でこの機器は必須で、これを題材に映画が作られたほど。Suchmosの "808" もこのことを示している。さらにheart beatと併せて、オルタナティブ・ヒップホップで知られるKanye Westの "808s & Heartbreak" へのリスペクトも込められている
*12 ディスカバリーチャンネルの人気番組

Tell me go up, gone, deuces, goodbye, I got a world to see
And my girl, she wanna see Rome, Caesar'll make you a believer
Nah, I never, ever did it for a throne, that validation comes
From giving it back to the people, now sing a song and it goes like

進みゆく俺に声援を送ってくれ ここに留まらずにまだ見るべき世界があるんだ
なんか彼女はローマを見たいとか言ってるしな カエサル (*13) は実際すげーよ
あ、でも俺はカネや名誉のためにやってるんじゃない それに縛られずみんなと共にいることで自ずと評価されるのさ
だから歌おうぜ

*13 世界に影響を与えた野心家。実際すごい。

'Raise those hands, this is our party
We came here to live life like nobody was watching'
I got my city right behind me, if I fall, they got me
Learn from that failure, gain humility, and then we keep marching, I said

その手を高く上げていこう これは俺たちのパーティーさ
誰も他人の機嫌を伺う必要などないんだ
この街と一緒に俺は立っている だからトチっても支えてくれるんだ
失敗から学んで謙遜しながらみんなで進んでこうってことさ

[Bridge x2]
Na na na na, na na na na
Hey-ee ay-ee ay-ee ay ay-ee ay-ee, hey
And all my people say
Na na na na, na na na na
Oh-oh-oh-oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh-oh
And all my people say
Mack-le-eh-eh-eh-eh-more!

[Hook x2: Ray Dalton]
Here we go back, this is the moment
Tonight is the night, we'll fight 'til it's over
So we put our hands up like the ceiling can't hold us
Like the ceiling can't hold us

彼は独自レーベルMacklemoreでアメリカアルバムチャート2位(デビューアルバム"THE HEIST")、シングルチャート1位を獲得したが、彼は自分のいる場所が"THE HEIST"だと認識していない。彼はこれからも更なる高みに挑戦するという気概にあふれている。このことはこの記事の一番最初で紹介しているミュージックビデオにて、常に移動し続けるTHE HEISTの旗からもその意志を見て取れる。そしてその一方で、彼をこれまで支えてきたシアトルという街とその人々、そして彼を生み出したヒップホップカルチャーに対するリスペクトを忘れていない。"Can't Hold Us"の歌詞の中で、彼は勝ち取ったものを独占するかのような表現は用いていないのである(myではなくourを用いている)。誰もが憧れるアメリカンドリームを成し得ながらも、それを自分一人で勝ち取ったものだと誇示しない、その謙虚さがカッコいいのである。

昔の自分はまだ歌のメッセージ、言わんとするところなどを気にせず、聞き流した時の耳ざわりだけでかっこいいか、そうでないかを決めていた、今になって振り返ると噴飯ものの浅はかさである。このブログで今まで述べてきたように、楽曲の良さはノリの良さやサビのポップさだけで語られるものでは絶対にない。もしあるとすればそれは商業的に成功するか否か、それに於いてのみである(そしてそれはMacklemoreが言っているように大手レーベルの意向により決定される)。重要なのはその歌に込められたメッセージや意志、魂といった類のものである。確かにこれを重視したり、理解したりするということは、一般市民が人生における個性的な目的を持ちづらく(現代の日本ではアメリカンドリームのような人生の理想は鼻で笑われてしまう。同一化された、取り換え可能な歯車になることが社会の要求なのだ。いつから理想は叶わないものの代名詞になってしまった?)、流行り物、流行りの考え方が意図的に作り出され、無責任な第三者の評価が跋扈するような現代社会では難しいかもしれない。孤独かもしれない。周りからはBADな評価を受けるかもしれない。だからこそ惑わされずに立ち向かうべきなのだ。『目標もなく流されてラクに生きるより、大きな理想を持ち、その実現のために実際に動く方が、本当の意味でBAD(かっこいい)』(マイケルのココロ--FOREVERLANDさんのBADのメッセージより)のである。

Macklemoreが"Can't Hold Us"壊そうとしている"The Ceiling (天井) "のもう一つの意味は、こういった社会の枠組みのことなのだ。この曲は常に上を目指し前進し続けるMacklemore自身のアンセムであり、カヴァーなど必要のない歌なのである。

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