初期映画とは、映画の「誕生」から約10年の間に制作された作品群を指す。このころの映画は、ヴォードヴィルの演目の一つであり、映画それ自体で完結する芸術ではなかった。また、物語性が前提にされていない点も、初期映画の特徴である。映画史家のトム・ガニングはこのころの映画作品を「アトラクションの映画」と呼び、観客によるそのような映画の受容について、次のように述べている。
すなわち「アトラクションの映画」とは、物語の作用よりも「ショックや驚きのような直接的刺激」に対して、当時の人々が映像の快楽を見出していた点を把握するための概念である。
ダイ・ヴォーンもまた、初期映画の物語性ではなく、「動き」にその特性を見出す議論を展開している。ヴォーンは、リュミエール兄弟の手による『港を出る小舟』を取り上げ、初期映画の観客たちは、この映画におけるキャストたちの動きではなく、小舟を取り巻く波などの自然の力に驚嘆していた点を指摘している。
ヴォーンはこのような、撮影者の想定を超えてフィルムに収められた自然の力を、「自生性」と呼ぶ。
これら初期映画に関する議論は、物語性が備えられる以前の映画を劣ったものとしては捉えず、初期映画それ自体が豊かな映像経験であった側面を浮かび上がらせるのである。