米国カリフォルニア州で豚肉価格高騰 アニマルウェルフェア規制 詳細

アニマルウェルフェア
米国カリフォルニア州で動物虐待防止法が発効
 
アニマルウェルフェアと聞いて、単純に動物愛護だと思われる読者もいらっしゃると思う。少し状況をご存じの方だと、母豚の妊娠ストールや採卵鶏のバタリーケージ(従来型鳥かご、約470㎠)を思い浮かべると思う。どちらの飼育方法も企業としては、できるだけ安全で安定的に少ないコストで大量生産できるような仕組みとして欧米で開発され、今では我が国の食肉や鶏卵生産では一般的になっている。
 
ところが、最近の欧米諸国においては、コストが高くなっても飼育している家畜の飼育方法に動物愛護の枠組みをはめていく動きが徐々に浸透してきているようになってきている。
 
例えば欧州においては2012年から鶏のバタリーケージは禁止されケージフリー以外の養鶏は禁止されている。しかしながら、ケージフリーといっても実際には平飼いが全てではなく、EU指令(EU基準)でサイズなどが細かく規定された改良型ケージ(エンリッチケージ:広めの鳥かご、750㎠以上)の使用は認められているのである。
 
アニマルウェルフェアを追究するには、その歴史的背景や欧米の文化、菜食主義者(ベジタリアンやヴィーガン)の考え等々を知る必要があるが、それについては興味がある方々が独自に調べていただき、本稿では、畜産ビジネスの観点から最近米国で大きな問題となっているカリフォルニア州における畜産物のアニマルウェルフェアに関する法制度の中で豚肉を例にとってその影響の解説を試みたい。
 
 
2018年11月6日にカリフォルニア州で家畜虐待防止法提案12(Animal Cruelty Law Proposition 12)の賛否を問う州民投票が実施された。その結果は投票した有権者の63%の賛成により可決された。この法律の重要な項目は、肉用子牛(ヴィール)、繁殖母豚(サウ)、採卵鶏(レイヤー)は、「移動の自由」、「ケージフリーの設計」、「指定された最小床面積に関する特定の基準」で飼育することが義務付けられたことである。

これによってカリフォルニア州で販売される子牛肉、豚肉、鶏卵は、他州で生産されたものであっても、Prop.12に規定された広さの飼育場で飼育された家畜の産物であるものが義務付けられ、適合したものには認定団体による監査が行われ認定証が交付されるとの事である。なお適合しないものを販売して法律に違反した場合には刑事罰が科せられる可能性があるとされている。
 
この法律は、ベジタリアンなどを中心とした動物愛護団体が、「小さい籠の中で羽を広げることが出来ない採卵鶏」や「狭いストールの中で振り向くことが出来ない繁殖母豚」が可哀そうだということから長年にわたり運動を展開し、動物愛護に関心のあるカリフォルニア州民がこぞって賛成投票したことから成立したと考えられる。
 
その後、生産者に比較的受け入れやすかった鶏卵と子牛肉に関して の規定は 2022 年 1 月 1 日に発効し実施されているが、豚肉に関しては、カリフォルニア州法が、アイオワやネブラスカ、ミネソタなどの他州の養豚生産者にも影響を及ぼすことを問題とした全米豚肉生産者評議会(NPPC)、北米食肉協会(NAMI)などによって、連邦最高裁に差し止めを提訴されたため一時保留されていた。
 
最終的には2023年5月11日に連邦最高裁(SCOTUS)がProp12の有効性を示す判決を出したため、2024年1月1日に施行された。
 
現行とProp.12で規定されたストールサイズは表1の通りである。
イメージしやすいように坪当りの母豚頭数も計算したのでご覧いただきたい。

ここから先は

2,477字 / 2画像

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?