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デエサの森のどんぐり豚 スペインのイベリコとフランスのビゴール

南欧(スペインとフランス)の豚の品種 

写真:デエサ(イベリコ豚放牧地)出典:農畜産業振興機構

ヨーロッパには高級銘柄ポークがある。有名なものは、スペイン原産の「黒い豚」イベリコ豚、羊のようなハンガリーの国宝マンガリッツア(希少種でハンガリー・ドイツ・オーストリア等の高級料理店で使用されている)、フランス原産のノワール・ド・ビゴール(“ビゴールの黒”と呼ばれ、生ハムが有名)などがある。ハンガリーのマンガリッツアは一時期日本の高級レストラン等で人気が出たが、ハンガリーで家畜伝染病のアフリカ豚熱(ASF)が発生したため2018年月以降輸入は停止された。
今回はこれらの欧州産の高級銘柄豚の説明だ。

スペイン:イベリコ豚Cerdo Ibérico

スペイン原産の純血種のイベリコ豚は、四肢が黒くなる傾向があるため「パタネグラpata negra:黒足」との別名がある。
イベリア半島西部の“西洋ヒイラギ樫やコルク樫の森”(Dehesaデエサ)で放牧されドングリ(Bellotaベジョータ)の実や牧草・木の根などを食べて育つのがイベリコ・デ・ベジョータ(ドングリ豚)である。毎日10~15㎏のドングリを食べると言われる。
濃赤色の肉色とオレイン酸が豊富なため低い温度でも溶けやすいきめ細かな脂肪が特徴。飼育期間は平均16カ月前後と長い。日本国内での流通価格は、国産の白豚よりかなり高いものの、優れた食味からホテル・レストランなどで安定的に売れている様である。

イベリコ=どんぐり豚ではない 

イベリコ豚にはスペイン政府の認定規格があり、純血種(イベリコ・プーロ)とイベリコ種50%以上の交配種(主としてデュロック種との交配)が認定されている。実際のところ、交配種が多く流通している。
政府認定規格では、月齢、体重、飼育方法やどんぐりを飼料として与えたかどうかで、以下のように3種の表示が異なっているので注意していただきたい。また、どんぐりで飼育したイベリコ豚が有名だが、穀物を飼料にしているものもあるため、イベリコ豚=どんぐり豚ではないのである。

1)イベリコ豚の種類と表示

イベリコ豚 出典:Wikipedia Carlos urbina ibéricos en Extremadura (España)

イベリコ・デ・ベジョータIbérico de Bellota(どんぐり放牧飼育):
イベリコ豚の中では最高品質の規格である。 ベジョータ(Bellota)とはドングリの事である。 12ヶ月齢程度のイベリコ豚(体重92~115kg程度)を10月1日から12月15日までに樫(オークやコルク樫)の林で放牧(モンタネーラMontaneraという)を開始し、どんぐりの期間10月~3月の60日以上の放牧で体重が最低46kg増加するまで肥育。 枝肉の最低重量は交配種で115kg、純血種で108kg。最低月齢は14か月。 これらの基準を満たしたイベリコ豚には“Bellota”(ベジョータ)の表示がある。なお、ハモン・イベリコ(Jamón Ibérico生ハム)には規格を示す色別の品質表示タグが付いており、100%イベリコ純血種のベジョータには黒いタグ、交配種には赤いタグがついている。
なお、「パタネグラpata negra:黒足」の表示は、ベジョータ規格の100%純血種にのみ使用可能であり、「デエサDehesa:どんぐりの森」や「モンタネーラMontanera:放牧期間」の表示は、純血種でも交配種でもベジョータであれば可能となっている。

イベリコ・デ・セボ・デ・カンポ Ibérico de Cebo de Campo
(どんぐり・穀物放牧飼育):

ベジョータに次ぐ高品質の規格である。デエサ(ドングリの森)に放牧され、どんぐりなどの天然飼料とともに穀物も補完飼料として与えられ、屋外または部分的に屋根のついた農場(1頭あたり100平米以上)で肥育されたイベリコ豚。最低60日は屋外飼育され、枝肉の最低重量は交配種で115kg、純血種で108kg。最低月齢は12か月。生ハムには、緑色のタグが付いている。

イベリコ・デ・セボ Ibérico de Cebo(穀物飼育):
イベリコ豚生産量の9割がこのセボと言われている。高品質ではあるが、放牧せずに農場(1頭あたり2平米以上)で穀物肥育されたイベリコ豚(ピエンソとも呼ばれる)。ドングリは飼料として与えられていない。枝肉の最低重量は交配種で115kg、純血種で108kg。最低月齢は10か月。生ハムには白いタグが付いている。

2)フランス原産の豚

 ビゴール豚Noir de Bigorre

ビゴール豚 出典© Roland Darré — Photographié par l'auteur 2009

フランスの南西部スペインとの国境にあるピレネー山麓ビゴール地方で飼育されるフランス原産の黒豚である。1970年代から80年代にかけては、生産性が悪く、脂肪が多く歩留まりが悪いことなどから飼育農家が減少し、絶滅しかけ純血種は81年には34頭の母豚と2頭のオスのみとなった。 
その後、一部の生産者の努力によって、現在では年間5,500頭以上生産されるようになった。 一説によるとピレネー山脈にいた原種豚が、北側のフランス側で飼育されビゴール豚やバスク豚となり、南麓のスペインで飼育されているのがイベリコ豚となったと言われる。 
1ヘクタールに25頭以下という飼育数で放牧され、飼料は、ライ麦、大麦などの穀物や樫やナラなどのドングリや栗などの木の実や牧草・木の根などである。
一般的な白豚(LWD)に比べ増体が遅く(450g/日)、飼育期間も12か月と長い。肉質の特徴としては、歩留まりが悪く(脂肪が多い)、肉色が濃いなどイベリコと似ている。

バスク豚Porc Basque 原産国:フランス

バスク豚 出典:©Eponimm, Pie noir du Pays basque - Salon de l'agriculture 2010

大西洋に面しピレネー山脈を挟みフランス南西部からスペイン北東部の国境地帯がバスク地方である。
バスク豚は、フランスのバスク地方(標高800m程度)の高原の銘柄豚で、屋外で生まれ、生後2ヶ月は母乳飼育、その後12~14ヶ月までは穀物のほか、どんぐりや、ぶなの実、栗、植物の根などを飼料として放し飼いされる。
生産量は年間2000頭と非常に少ないが、フランスの美食家の間では有名な銘柄豚である。日本でも少量輸入されている。

今回取り上げた銘柄豚以外にも欧州にはベルギーのピエトレン種、イタリア・トスカーナ地方原産のチンタ・セネーゼ種など様々な品種の銘柄豚がいる。機会があればこれらも取り上げて説明したい。

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