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学んだことを、そのまま患者さんに押し付けてはいけない。

週末は、東京で「機能解剖から考える摂食嚥下・構音につなげるための座位姿勢の評価と介入」のセミナーを行ってきました。

参加された方からのご感想も続々と頂いておりますので、ご意見やご質問などにお答えしながら、セミナーを通じて伝えたいこと、感じて欲しいこと、そして考えて欲しいことを書いていきます。

また姿勢の見方を学んだからといって、そのまま患者さんの姿勢を無理やり直したらダメですよ!というお話。


ー目次ー

1.姿勢は個々人の運動の特徴が現れる

2.左右対称が良い姿勢ではない

3.見た目だけの修正では、患者さん自身の再現ができない

4.「知識増やそう症候群」という過ち

5.学んだことを、そのまま押し付けてはいけない。


1.姿勢は個々人の運動の特徴が現れる

今回は主に座位姿勢の評価を骨の位置関係から進めていきました。まず骨のランドマークから、左右の非対称性を見ながら、筋の状態を予測します。その筋の緊張や柔軟性を触診にして評価し、もし筋の緊張や硬さがあれば、その影響が目的とする動作を阻害していないか?を次に考えていきます。

普段の臨床では、問題となる動作を直接確認していくことが多いと思います。しかしADLの自立度の低い患者さんの場合には、問題となる動作を何度も繰り返すには患者さん自身の疲労や恐怖感、セラピストの介助負担から困難な場合も少なくありません。その場合には患者さんの日常的な座位や立位などの姿勢から、動作への影響を予測していくことも大切です。

そして利き手、利き足があり、自分の日常生活において使いやすい身体の使い方(利き手をより使いやすい姿勢に)や日常的な癖(足を組むときは右脚が上、自転車をまたぐ時は左脚から、腕を組む時は…あぐらをかく時は…横を向いて寝る時は)が定着しています。そのため、逆に左右対称な姿勢で普段からいることの方が不自然な訳です。

日常生活全般を私たちは左右対称には行いません。そしてそれに即した筋のつき方(普段使っている筋は太く、強く。使っていない筋は弱く、細く。伸び縮みする筋は柔軟性を持ち、伸び縮みしない筋は硬く)や身体の使い方(構え)をしていきます。

そして上記のパターンというのが、動作だけでなく姿勢にも現れています。

私たちの介入の目的は、転倒することなく安定し、目的動作を効率的に遂行するための姿勢制御・動作能力の再獲得になります。ただ静的姿勢を真っ直ぐに直すことではありませんよね。

目的とする姿勢制御・動作を阻害している要素を見つけるために、姿勢の非対称性が身体や筋肉の使い方を予測していくヒントになります。


2.左右対称が良い姿勢ではない

姿勢を評価していく際には、いわゆる肩峰や骨盤の上前腸骨棘などのランドマークを基準としていきます。参加者の全員が何らかの左右の非対称性があります。それでも日常生活には大きな支障がなく過ごせていますよね。つまり姿勢を左右対称にしていくことがセラピストの介入やポジショニングの目的ではありません。

内臓は左右均等に臓器が存在している訳ではありません。また左右の筋のつき方も違うため、そもそも体の重さが左右均等ではないはずですね。

今回のセミナーでもデモンストレーションを行いましたが、骨盤の非対称性を修正することで発声の改善がみられましたが、肩甲骨の位置を左右対称に強制的に修正することで、逆に発声がしにくくなりましたね。

姿勢の非対称性を評価していくことは大切ですが、そこで見つかった左右非対称な部分をただ見かけ上(骨の位置関係だけ)対称にすれば良い訳ではなく、非対称である理由や目的は何なのか?を考えていくために骨の関係性を見ていくことが大切です。

骨の左右非対称性や、筋の硬さ、太さの左右のアンバランスにも理由があるはずです。ただ全ての筋を個別に触りながら、硬さ・太さや柔軟性を評価しなければ分からず、それは時間も労力もかかります(ボトムアップ評価)。

だからこそ、まず骨アライメントを観察していく(絵に描く)ことで、そこに筋を肉付けしていくことで大まかな筋の状態を推測するプロセスをスムーズにしていくことができます。トップダウン評価ですね。


3.見た目だけの修正では意味がないし、患者さん自身での再現ができない

上に書いたように、見かけだけの骨アライメントを徒手的に、そして強制的に修正するだけでは、デメリットもあります。

では逆に、骨アライメントを徒手的に修正することで、動作の改善がみられた場合、セラピストが他動的に直すことを繰り返せば、自然と学習していくものなのでしょうか?(たまにもの凄く自分の身体の変化に気づける人ではそういったこともありますが…)

骨を動かすには筋活動が必要です。健常者であれば、骨の動きを助けることでその動きが再現できるよう自身の筋活動を試行錯誤しながら修正していけることもあります。しかし脳卒中などで思うように身体を動かすことができなくなった場合には、骨を動かすためにどこを使ったら良いのか?が分からなくなったり、動かしたい部分が動いているという感覚をつかめなくなってしまうことがあります。

そうした方にはただ獲得して欲しい動きを他動的に骨運動を行うだけでは、自己にて再現が難しくなることがあります。

リハ室ではそうした方に、鏡を見てもらいながら自己にて視覚的にモニタリングしながら姿勢や動きを修正してもらう場面も目にします。

視覚情報を手がかりにて姿勢や動き方を修正できたとしても、それが視覚情報でしか修正できないとしたら、普段の鏡のない生活への汎化は難しくなります。やはり自分の身体感覚を使って自己修正できるよう導くことが大切になります。

ただ人によっては、姿勢の修正も本来使って欲しい患側ではなく、健側を使ったり、本来不要な部分を過度に使って代償的に姿勢を修正することもあるので、セラピストが身体に触れながら、どこを使っているのかを評価していくことも大切です。


そのためにハンドリングが活用できます。ご興味のある方は以下の記事もお読みくださいね!

触れたいセラピストと触れられたい患者さん:ハンドリングを考えてみる。


4.「知識増やそう症候群」という過ち

臨床で悩み、その悩みを解決するために知識を取り入れ、それでも解決しなければさらに知識(あるいは手技)を取り入れ、また上手くいかなければさらに知識を…

という「知識(手技)増やそう症候群」に陥ってはいませんか?


新たな知識や技術を学ぶことで、

・見るポイントが増える

・考えるポイントが増える

・解釈の自由度が拡がる

・介入のレパートリーが増える

といったメリットはもちろんあります。


しかし、副作用として

・専門用語を連発したくなる(発言やカルテ記載)

・根拠はないけど、セラピストとして一皮むけたと感じる(気のせい)

・後輩に、お前らの知ってること知らないんだぜオーラを出すようになる(気のせい)

・学んだ知識や手技が、誰にでも通じる/当てはまると信じてしまう


学びは大切です。でも学ぶことは目的ではないはずです。


例えば、いまアメリカで大活躍しているメジャーリーガーの大谷選手、すごいですね。

では大谷選手が普段やっている練習法をあなたが手に入れたとします。

同じ練習をしたら、あなたは大谷選手と同じようにメジャーリーグで活躍できるようになりますか? → A:なれる  B:なれない


なれると思ったアナタ…


アメリカへいってらっしゃい!


普通は、「無理にきまってんじゃん!!」


ってなりますよね。ではなんで無理なんでしょうか?


5.学んだことを、そのまま患者さんに押し付けてはいけない。

前章では大谷選手と同じ練習をしたら大谷選手のようになれるか?を例にしました。

セミナーに参加してあなたが、講師から学んだことや気づいたことをそのままあなたの担当しているセラピストに同じようにやったとしましょう。

もちろん、これまでとは違った反応が得られることもありますが、講師と同じように上手くはいかないのではないでしょうか?

講師よりも上手くできたのなら、それは素晴らしいことです。

人によっては全然反応が悪いこともありますよね。

だからといってそれを患者さんのせいにしてはダメです。


・患者さんごとに抱えている問題が違う(見た目の姿勢や動作パターンは似ていたとしても)

・あなたと講師や他のセラピストは手の大きさも力も体格も喋り方も外見も違う

この2点は確実に違います。患者さんの求めていることも、あなたが患者さんに与える影響も違います。たとえ表面上は一緒であっても。

料理教室で習ったレシピ通りに作ったとしても、あなたの家族が薄味派か濃い味派かによっても、同じものを提供しても反応は異なります。


薄味好きな家族に、料理教室で習ったからと濃い味を押しつけても家族は喜ばないことでしょう。もしかすると濃い味の魅力に気づくきっかけになることもありますが。


患者さん主体であるか?


これが常に臨床の軸であるべきです。どんなすごい先生が言ったことでも、エビデンスレベル高い知見でも、目の前の人の問題解決につながらなければ、あなたの解釈や介入を修正するか、捨てて新しいものを再度考えるべきです。


学びによって得られた知識や経験は1つの軸や視点、ツールになります。新しい武器や道具を1つ手に入れた状態ですね。


でもその武器の扱い方を間違えればむしろ悪い影響を与えるかもしれません。

そしてその影響が良いか悪いかは、患者さんと同じ瞬間を共有しているあなたにしかできません。


武器(知識や技術)を買って増やすだけではただただ身動きが取れなくなるだけです。

今のあなたが扱える武器を洗練するだけでも対応できる患者さんの幅は拡がります。

武器の使い方を磨くためには、毎日の試行錯誤の中での実体験でしか身につきません。口だけヤローにならないように。何事も身をもって体験をし、自分の頭で考える、という当たり前のことが一番大切じゃないかと思うわけです。


終わり。

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