見出し画像

【ジャズ】Avishai Cohen Trio

2/21〜23にブルーノート東京で催されたアビシャイ・コーエン・トリオのライヴ。
初日の2/21セカンドステージを観覧した。

概要

◼︎Member
Avishai Cohen(B) アヴィシャイ・コーエン(ベース)
Guy Moskovich(Pf) ガイ・モスコヴィッチ(ピアノ)
Roni Kaspi(Ds) ロニ・カスピ(ドラムス)

2022年5月にリリースされたアルバムSifting Sandsのリリースワールドツアーの一環だ。

https://music.apple.com/jp/album/shifting-sands/1611242368

◼︎ Album Member
Avishai Cohen(B)
Elchin Shirinov (Pf)エルチン・シリノフ (ピアノ)
Roni Kaspi(Ds)

アルバムでは、エルチンがピアノを弾いているが、今回の来日ではガイが代役を務めた。
(代役であるのか、エルチンがバンドを脱退、あるいは、クビになったのか、たまたまスケジュールが合わなかったのか、本当の事情はわからない。)

このアルバムは、2021年4月リリース'Two Roses'の後に発売されたもの。
「一生に一度のプロジェクト」と自身が述べた大作の次作にあたる。

イスラエル人であるアヴィシャイが、2020年以降のコロナ禍でエルサレム近郊の自宅で作曲したものを作品化したものだ。

トリオ形式での前作'Arvoles'(2019年)からはドラマーが替わっている。
若干22歳、稀代の女性ドラマー、ロニ・カスピだ。

「彼女はまだ21歳(アルバム制作当時)ですが、類まれな才能と、強い個性を持ち合わせた新しいスピリットです。」

マーク・ジュリアナをはじめ、数々のスーパードラマーを世に輩出してきたアヴィシャイがこう評する新世代ドラマーは、ドラム業界でちょっとした話題となっている。

演奏

基本的にはアルバムの中から選抜されたセットリスト。

演奏が始まり、まず驚いたのが、音の良さ。
アルバム音源とほぼ同じ音だった。
世界中を回っている彼らは、常に同じ楽器、同じ環境で演奏できるわけではない。
アヴィシャイクラスのミュージシャンであれば、自身のコントラバスを飛行機の席に乗せて運んでいるかもしれないが、少なくともピアノとドラムは自身の物ではない。
そのような中でも、アルバムで聴いていた「あの音色」が見事に再現されていた。
これは、ミュージシャンであるトリオだけでなく、ブルーノート東京の音響スタッフにも賛辞を送りたい。
特にウッドベースは、広い会場であればあるほど、ブイヨンが効いていないスープのような、ローが薄く表面的な音になりがちだが、そのようなことはなかった。
ドラムは、チューニングが細部まで気を配られており、音程感がアルバムに極めて近いものとなっていた。
これは、ロニの調整力だけでなく、恐らくドラムセットを提供したであろうTAMA社の力も大きいのではないか。
ピアノはタッチで勝負するほかないが、ガイのそれは、エルチンの力強くタイトな音色に匹敵する説得力があった。

リーダーであるアヴィシャイは親子ほど歳の離れた二人に、常に目配せしながら演奏していた。
一方、ソロではゾーンに入ったように自身に陶酔し、速いパッセージをヘビのようにしなやかな指で弾きまくった。(時折、ベースの側板を叩いたりもした。)

ガイは変拍子かつトリックの多い難曲を、スピードクライミングのように一瞬の閃きで解釈して登り詰めていった。
エルチンと比べると、音の明快さに欠けるように思えたが、その分、Z世代特有の細分化された符割りが光った。

ロニは終始アヴィシャイに気を遣っているように見受けられたが、隙を見て、瞬発力の高いフィルインで応酬していた。
何よりアンコール曲'Joy'でのフィーチャーソロは素晴らしく、雷鳴のように轟くタムとバスドラム、閃光のように煌びやかなシンバルワークに会場の誰もが魅了されていたように思う。
ロニ目当てだったこともあり、序盤はエンジンがかかるのが遅いな、とやきもきしていたが、文字通り「終わりよければすべてよし。」だ。

ピアノトリオ

私はピアノトリオというフォーマットが好きだ。
勝手な憶測だが、ジャズファンの皆様にもピアノトリオが好きな方は多いのではないか。

ピアノ、ベース、ドラムという三人であり、比較的少数の編成だ。
ソロやデュオを除けば、バンドとしては最小構成となる。

管楽器を入れたカルテットや、大編成コンボに比べると音数が少なく、品数も減らさざるを得ないように思える。

しかし、ピアノトリオは最も「自由」なのだ。

奏者が増えれば増えるほど、各楽器の役割が明確に固定されてしまい、自由を奪われる。
例えば、ベースはよりルートを忠実に示す必要があるし、ドラムはビートを刻み続けなければならない。

ピアノトリオでは、その役割がしばしば入れ替わる。(入れ替えることができる。)
ベースが初めからソロを取り、ドラムはメロディのようにブラシでキャンバスに色を着ける。
そのようなことも実験的ではなく、頻繁に行われる。

このような自由を初めて手に入れたのは、ビル・エヴァンス・トリオではないかと言われている。

先述した役割の交換は、まさにこのトリオの'Portrait In Jazz'に収録された'Autumn Leaves'を意識している。

ミニマルな編成でありながら、無限の広がりを見せるピアノトリオはビル・エヴァンス・トリオ以降、世界中でアップデートを繰り返す。

今日、最先端のトリオが、このアヴィシャイ・コーエンではないか。

ジャズでありながらスウィングビートはなく、変則形が基本となっている複雑な拍子(5拍子、7拍子、11拍子など)は、クラシックとジャズの融合性を感じる。

イスラエル出身の彼らが発する中東的なサウンド(ハーモニーやコードに詳しくはないが)は、マルチリンガルなサウンドが当たり前となっている現代のジャズを最も体現している。

さらに、女性ドラマーであるロニ・カスピも重要な存在だ。
ヴォーカルを除いて、男性中心(実際は異なるかもしれないが、ミュージシャンを眺めると男性が多いと感じる。)のジャズ界において(まして、抜きん出て男性が多いドラマーで)、圧倒的なテクニックと鋭敏なセンスを持ったロニが自然と着座していることが、いかにもダイバーシティーの進んだ現代ジャズらしい。

最も先を走る、最高峰のジャズトリオを体感することができ、実に良いライヴであった。


お忙しい中、最後までお読み頂き、ありがとうございました。

また読みたいな、と思って頂けた方は「すき」ボタンとフォローを是非宜しくお願いいたします。

#jazz #ジャズ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?