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No.50所感=^_^= 人間観察「その3 バスの中~彼女」

彼女には、夏に一度会っている。
小学校低学年くらい。

なぜ、覚えていたかというと、今時の子には珍しく、本を持ってバスの中で読んでいたから。

そして、隣のおばさんとお話している内容が、こまっしゃくれていて面白かったから。
漏れ聞こえてくる話の内容からすると、そのおばさんとは知り合いではなく、偶々バスで隣に座っただけだ。

自分が降りるバス停の話とか、これから行くところとか。
自分の名前や住所こそ言わなかったが、ちょっと心配になった。

が、とても印象的だった。


学校が冬休みの先日、彼女に、再会した。

私は、いつもバスの一番後ろの長椅子の端に陣取っているのだが、一人分だけ空いていた私の隣に、
「いいですか?」
と言って、子供が座った。
礼儀正しい。

リュックを背負って、手には本を持っている。

ああ、彼女だ。

すぐに分かった。

座るとほどなく、彼女はゴソゴソと何やら、探しだした。
最初は、本を手に持ったまま、リュックの中を探っていたのだが、いよいよ見つからないらしく、本をリュックの中にしまって、両手を空け、本格的に探し始めた。
服のポケットというポケット、リュックの中隅々まで、最後にリュックのポケットの中身は全て出したが、お目当ての物は見つからなかったようだ。

探すのを諦めた彼女は、ファスナーを閉めると小さくため息をついて、鼻をすすった。

ああ、鼻をかみたいのね。

私は、自分の鞄からティッシュを取り出し、(外側の袋がしわくちゃだったので)、中身を全て彼女に差し出した。
ーどうぞ。ー

彼女は、どうしてティッシュを探してるのが分かったんだ?と言わんばかりに、もともと真ん丸な目をさらに丸くして、パチパチッと瞬き、ティッシュを受け取りながら、
「ありがとうございます。」
と、言った。

そして、2枚ほど使って、丁寧に鼻をかみ、使っていないティッシュとともに、リュックのポケットにきちんとしまった。

私はそのまま黙って、いつものようにスマホでnoteを読んでいたら、彼女が話しかけてきた。
「お姉さんは、どこまで乗るんですか?」

このお婆さんに対して、お姉さん?!

これは、女の人にはだいたいお姉さんと言っておけば間違いないと、おウチの人に教えられているに違いない。

ー○○だよ・・・。あなたは、その次の△△で降りるんでしょ。ー
その子は、目を真ん丸にして、パチパチッと瞬いた。
どうやら、驚くと、目をパチパチッとするのが癖らしい。

少し間をおいて、
「どうして知ってるの?」
ー夏休みにも、あなたをこのバスで見かけたよ。ー
また、目を真ん丸にして、パチパチッとした。
何ともかわいらしい。

ーキッズクラブに行くんでしょ。ー
パチパチッ
ー前に見かけた時、あなたが誰かにそう話してたでしょ。一人で行けて偉いね。ー
「ほら、ママが書いてくれてるから大丈夫。」
と、交通系カードの入った定期入れの中に、大人の字で「◇◇⇔△△」と、停留所名の書かれたメモが入っているのを見せてくれた。

「お休みになると、生活がだれちゃうから…もう、少しだれちゃってるけど…」
こまっしゃくれた口調がおもしろい。
そして、
「お仕事に行くんですか?」
と、聞かれた。
私は、普通にそうだよ、と答えようかと思ったが、あの「パチパチッ」をもっと見たくなり、彼女が驚きそうな答えをすることにした。

ーそうだよ。大学で先生してる。ー
パチパチッ(少しの間)、
「私は、◎◎小学校の2年◎組なの。先生は、□□先生で、怒るとすごっくこわいんだよ。□□先生、知ってる?」

知るわけない。
子どもは、自分の世界が全てなので、自分が知っていることは万人が知っていると思うのかもしれない。

ー知らないな。ー
「じゃあ、▲△校長先生は、知ってる?」
彼女の通う小学校の校長先生は、偶々知っていた。
ー校長先生は、知ってる。ー
パチパチッ、嬉しそうにニコッとする。

「何年生の、先生なんですか?」
ー大学は、いろんな学年の人を教えるんだよ。ー
パチパチッ
ーそうそう、音楽の先生みたいに。音楽の先生は、いろんな学年を教えるでしょ。だから、1年生から4年生まで教えてる。ー
パチパチッ(少しの間)、

「ふーん。毎日、この時間のバスに乗るんですか?」
ーううん。時々、この時間に乗る。週に1,2回かな。私の授業が始まる時間が毎日違うから。ー
「毎日違うの⁈」
パチパチッ

その後も、私はわざと、彼女にとって想定外と思われる返事をして、彼女の「パチパチッ」を楽しみながら、他愛のない話をして過ごした。

バス停に着き私が降りると、彼女は見えなくなるまで、バスの中からずっと手を振っていた。

小学校2年生にしては、会話を楽しむことができるくらいに、語彙が豊富。
いろいろなことに興味津々で、感受性も豊か。

やはり、子どもが本を読むことは大切だと、実感した。

またいつか、彼女に会えるといいなと思う。

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