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マンデラ小説「M.e」EPISODE2 第4話「J」

【「弟」ジャック・ホワイト編】

∶前回までの「M.e」∶
ジャックは兄の行方を追った時、並行世界にスライドした。仲間のエブリィ・ワンのミッション旅行の破棄提案をするも彼等から古い手紙を差し出され何かが変化した。

■202☓年5月 ボストン■

5月のボストンのローガン国際空港。

澄んだ青空が気持ちの良い。

午後の昼下がり。

匂いも、新鮮な水気を感じられて澄んでいるよ。

こんな素敵な季節はワクワクするね。

沢山の乗降客で賑わっているカウンターロビーも、忙しない感じの中にも温かい空気が纏っていて爽やかな感じがしているんだ。

僕達は、空港2階にあるラウンジの一角の4人用チェアで座ってる。

勿論、エブリィ・ワンの仲間さ。

アミラとアーサーと並んで、僕とポールは向かいあ合うように座っているんだよ。

ボストンは、すっかり寒さも抜けて気持ちの良い気候になってきた。

僕達がボストンに来たのが2月だったんだ。

ダラスと違って本当に寒かったんだよ。

僕は長袖のTシャツを2枚重ねして、アウターにはダウンジャケットを着てたんだ。

ダウンジャケットの2枚重ね?

それは、流石にクール過ぎて僕には出来ないね。

ダウンジャケットなんて、僕は持っていなかったから父さんのを勝手に拝借したんだ。

ポールも伯父さんのを借りてきているし。

アミラは初めて買った白いニットの帽子をとても喜んでいたんだ。

ダラス空港で、搭乗前から被るもんだから変な目で見られても、ニコニコしてお構いなしさ。

冬がある国を訪れた事がなかったので、僕らはテンションが上がってたんだよ。

そんなボストンの3ヶ月間は、僕達にとってクールで夢のような時間だったんだよ。

僕達は凄く変わったんだ。

特に3人は変わったんだよ。

僕が言うとおかしいんだけどね。

本当に風格が出て別人みたいなんだよ。

以前のように馬鹿なやり取りをしてくれるけど何と言うか…こちらに合わせてくれる大人みたいな?

クールに成長したんだよ。

僕?…うーん、先生が言うにはこれからだって…。

うん、何時かに期待するよ。

ボストンが名残惜しくて、僕達はその時の話題が尽きなかったんだよ。

アーサーが僕に拳銃を撃つ真似をしながら言う。

「あの手紙は不思議だったよな」

またあの話だった。

アミラもポールも頷きながら僕の目を覗き込んだんだ。

それは、今年1月のダラスのコーヒーショップ「Alpha」の出来事さ。

僕達のチームは、1年間の休学で研究会のミッションを行う事になったいたんだよ。

でも僕には記憶が2つあって、失踪した兄さんを探す為に、別行動を取らせて貰う提案をするつもりだったんだ。

なかなか言い出せなくてね。

当たり前だよね。 

「僕は昨日、平行世界から来たんだよ。よろしくね」

なんて…真剣に聞いて貰える筈ないしね。

下を向いて言葉を探していたんだ。

その時に、3人から見せられた古い封筒と手紙の話なんだ。

「いや、僕が一番驚いたさ」

肩を竦めて見せた。

向かいに座っていたポールが前のめり気味に

「あれが合図だったんじゃない?もうビックリして会合前に3人で話合ったんだよね」

両手を顎の下で組み真剣な眼差しで僕らを見たんだ。

隣りに座っていたアミラも

「いくら私達が【不思議研究会】だとしても、まさか自分達が巻き込まれるなんてね」

お気に入りの白のニット帽を深く被り目を隠しておどけて見せる。

「先生が言ってたスライド…本当に俺達全員が、全く知らない別世界でも生きていたなんてな!誰にもこんな話できないよ」

僕の隣のアーサーは、手を拳銃に見立て自分のコメカミに当て「BANG」と叫んで目を丸くして皆の笑いを誘い出したんだ。

4人で笑い出したよ。

僕達の仲間はボストンでの体験で本当に成長した。

戦うべき準備も出来た。

先生には、本当に感謝しかないんだよ。

そして僕は、その1月の出来事を思い出していたんだ…。


ダラス州南アカード通りにある珈琲ショップ「Alpha」

僕達のチーム、エブリィ・ワンが以前から決めていた明日からのミッション旅行。

しかし、失踪した兄さんを探す為に、僕だけ抜けるお願いをするはずだったんだ。

深刻な僕と裏腹に、意味深な笑いをしていた3人が持っていた古い封筒と手紙。

ポールが僕に手渡した手紙を読んでみたんだ。

「なんだこれ?」

封筒の中には手紙1枚に大きく殴り書きのように書かれた文字…  

■■■■■■

We are QAnon! 

That's cool! 

Jack

■■■■■■

僕の書いた字だ!

慌てて、一緒に持っていた封筒を表に返し消印を見たよ。

…201☓年5月。

戦慄したよ。だって…覚えが無いんだよ。

僕が彼等に宛てた手紙だったなんて。

5年も前に!?

驚いて大きな声を上げた瞬間…アレがまた来たんだ。

そう今朝も体験した記憶の洪水。

頭痛がして目をしかめたんだ。

手紙を持ったまま天井を見上げていたんだよ。

ハッとしたんだ。

全て思い出したんだよ。

これは確かに僕が書いたんだ。

そうなんだ。

僕達「エブリィ・ワン」が別の世界の「エブリィ・ワン」と重なったんだ。

手紙を持つ3人共も2つの世界の記憶を有していたんだ。

「J」が言っていた「スライド」を僕達は体験したんだ。

まぁ、僕は2度目のスライドなんだけどね。

フッと鼻で笑ったよ。

そう!それはとてもクールな体験さ。

僕らは不思議研究会ではなく「Qアノン」の公式メンバーだったんだよ!

世間を騒がしているあの超有名な「Qアノン」だよ。

凄くクールさ!

何より驚いたのが「Qアノン」はたった1人の人間ではなく組織で活動してたって事。

「Qアノン」のリーダーともコンタクトを取った事があるんだよ!

そして僕達は、世界の本当の秘密を流す側だったんだ!

クールすぎるよ。

僕らエブリィ・ワンは、兄さんと同じくネズミ部屋のメンバーだったんだよ。

兄さんは生きているんだ!

僕は興奮して小躍りして叫びたいくらいさ。

僕は目を見開き、Alphaの天井を見上げていたんだ。

一瞬にして意識がスライドしたんだ。

そうして、目線を下げ3人の顔をそれぞれ見たよ。

ニヤニヤこちらの様子を伺う彼等…。

ニヤニヤと言うより子供達がワクワクしている顔つきに、僕も釣られてニヤニヤしちゃったんだよ。

パーテーションに囲まれた僕らの秘密基地のアジト。

ドッと笑い声の歓声がおきたんだ。

皆で抱き合ったり、まるでパーティーの始まりのようさ。

凄くクールさ。

僕達は「Qアノン」だ!

世界の真実を流す側なんだよ!

叫んだよ!

そんな時にパーテーションの奥から音がしたんだ。

オーナーのマイクがドスドスと足音を立ててやってきたんだ。

「Hey! お前達!お通夜やめてパーティー始めやがって!」

ハッピー過ぎて、皆でマイクに抱きついたさ。

マイクのお腹の出っ張りは思ったより固かったのにも驚いた。

彼の「鳩が豆鉄砲を食らった顔」ったら…いま思い出してもクスクス笑っちゃうよ。

「おいおいおい」

困惑するマイク。

「やめてくれー」

と哀願するマイクを誰も離さなかったんだよ。

おかしかったなー。

ひとしきり騒いだ後にマイクは開放されたんだ。

ハッピーは誰もを幸せにする。

彼も良くわからぬぬまま、ニコニコしながらパーテーションの奥に消えていったんだ。

僕達は、興奮が収まらないけど倒れたチェアーやデスクを整えて情報の整理をする事にしたんだ。

こう言う切り替えも僕等のクールな所だね。

ジーンズスタイルのアミラが立ち上がる。

短めのボブヘアスタイルが元気に揺れている。

パーテーションの裏側はホワイトボードになっていて彼女が時系列を書き始めたんだ。

まずは、3人共の記憶。

元の世界でも「不思議研究会」としての活動していた頃の記憶。

それは

1年間の休学で行うミッションは遺跡とエリア51の調査ミッション旅行だった。

僕達4人共、それを共有していた事。

そして現在の記憶…と言うか僕達の別世界での過去から現在まで行っていた状況だ。

不思議研究会でチームを作ったのは同じで「Qアノン」から僕らが勧誘され「A」と面談したんだ。

そうして僕等は正式な「Qアノン」メンバーとなったんだ。

ネズミ部屋に入り「Q」の指示で4chや「X」に情報を発信する活動を行っていたんだよ。

そして一番大事な事は「いつ手紙を見てスライドしたのか?」だったんだ。

2つの世界線がクロスし、重なり合った重要な出来事。

話を総合すると。

3人共「201☓年5月」時点に届いていた手紙は読んだずなのに忘れていた事。

3人共、昨日に「急にソレを思い出して」封筒を探す衝動に駆られた事。

昨日とは僕がスライドした時間に近しい事。

3人共、手紙を読んで記憶がスライドした事。

そして3人共、手紙の主の僕には内緒で連絡を取り合い、今日の約束の時間前に集合し情報を共有していた事だった。

で、僕の出方をずっと観察していたらモジモジしていたので「ジャックも同じだ」と感じたので僕に手紙を見せて反応をみたんだって…。

見世物じゃないのにね。

そして、僕は3人の前で昨日起こった事、兄さんの事、そして今の出来事を話した。

休学して行うミッション旅行は「Qアノン」に関係した事にスライドしていたんだ。

皆、興奮してワイワイと話は尽きなかったよ。

楽しかったな。

とてもクールな出来事だったよ。

明日から休学して行うミッション旅行は「J」にお願いして実現した事。

僕達の扱える情報は彼等で言う「レベル2」までしか知らされていない。

「レベル5」が最上位でアクセス出来るのは「J」と「A」だけなんだ。

「Ruler」の本当の真実。※「ルーラー/支配者」

世界の真実の情報を知っていても意味がないんだ。

自分達の目で確認しないと、僕達は前に進めないんだと話し合ったんだよ。

それは「レベル4」情報に当たる。

これまで僕達「Qアノン」での情報戦で戦うべき相手は

【ディープ・ステート、フリーメイソン、イルミナティ、偽ユダヤ財閥、宗教団体】と呼ばれている強固な組織達。

各国政府や財閥企業…何よりメディアは全世界的に乗っ取られているんだ。

メディアに登場する人物達、タレントや皇族、セレブまでもが全員が彼らの仲間で「嘘を」ばら撒いているんだよ。

世界中の人々が彼らの儲けの為にあらゆる「戦争」を仕掛けられて命や財産を盗まれ続けている。

こんな事は絶対に許されない。

そして「Ruler」とは、その強固な組織を纏めた始祖のグループなんだ。

僕達の本当に戦うべき相手は、世界中の人達に危害を加え続けている「ディープ・ステート」と言われる企業や組織や政府では無いんだ。

「DS」を裏で操る「Ruler」を排除しないと何も変わらない。

アイツ等を白日の元に曝す事。

それだけで世界がひっくり返るんだ。

何故か?

「Ruler」は人間では無いんだ。

レプリティアン・ヒューマノイド。

人の形をしていないトカゲ人間。

そんなモノが多数存在している。

世界を支配している「Ruler」がアイツ等が実は人ではない。

トカゲ人間だ。

全世界に発信できれば強固な体制も崩すきっかけになるはずなんだ。

でも誰が信じる?

僕等でも半信半疑なんだよ。

ゲームでよく見るリザードマンが世界の影のフィクサー?Ruler?あり得ないよね…。

だって、実物の映像や画像を見せられても、やっぱり疑念しかないんだよ。

僕達は直接見たり触れたりはしていないからなんだ。

どう見ても知性があるように見えないよね。

ハッキリ言ってただの爬虫類のトカゲだよ。

あのゴッツイ指と爪でスマホなんて操作するイメージなんてないよ。

人間のように嗜好品やモノを嗜む知性なんて皆無の外見だよ。

洋服なんて頭が大きいからTシャツなんて着れないよね。

襟首が破れちゃうよ。

ヘッドホンで音楽を楽しむ姿なんで漫画みたいで想像も出来ないや。

あの出で立ちで、人間の言葉を話すなんてまるでアニメだよ。

知的生物ではないアイツ等が、どのようにして影のフィクサーになっているのかさっぱりわからない。

全く辻褄が合わないんだ。

そんなRulerたるレプリティアン・ヒューマノイドを指して「コイツ等が世界を支配してます」なんて誰が信じるの?

だから、発信する立場の僕達は「Ruler」の真実を知りたいんだ。

そして、この世界を乗っ取ったとされるアイツ等を僕達の目でキチンと確認したいんだ。

そんな想いを僕達は「J」に懇願した結果…。

無理だと思ったのに、あっさりと許可されたんだよ。

ビックリしたと共に緊張したよ。

だって、実現したらトカゲ人間に接触できるんだからね。

その為に僕達はボストン州で「J」がトレーニングとコーチングしてくれる事になったんだよ。

とてもクールなんだ。

研修が終えればアイツ等に接触できる機会が与えられるんだ。

怖いよりも僕達は好奇心が勝ってるんだ。

別にアイツ等と格闘技で戦う訳ではないのだけれど。

特性を学習しておかないと手を噛まれたら困るからね。

Alphaでミィーティングした翌日…僕達は興奮と共にボストンへ飛んだんだ。

■202☓年 2月 ボストン■

初めて降り立ったボストン空港。

透き通るような青空だ。

空気も新鮮で身体が引き締まるようだよ。

見上げた空は青色。

見下げた路面は白色。

そうなんだよ。

あたり一面雪景色なんだ。

とてもクールさ。

他所の国で触れる雪に僕達のテンションはマックスさ。

ボストン空港にあるタクシー乗り場。

空港の一階で屋根が大きく空を隠している。

暗さと寒さが増して鼻から吸う空気は冷たかった。

アプリで既に車は着ていてドライバーがニコニコと待っていてくれたんだ。

皆、吐く息が真っ白だ。

ゴジラの光線みたいだと、アーサーは自慢の赤毛を振り乱しながら「Gaaa~」と真っ白光線をアミラに発射して蹴りを食らっていたよ。

呼んだ配車タクシーのドライバーは、紺色のスーツスタイルで紳士のようだったんだけど…冷ややかな目が申し訳無かったんだよ。

トランクを開けてもらった。

2人を横目にクスクスと笑うポールと僕は荷物を先に詰め込んだんだ。

アミラはアーサーに荷物を任せて、車の助手席に1番に乗り込んだのはおかしかったね。

綺麗な子だから紳士ドライバーもちょっと嬉しそうなのは見逃さないよ。

皆、テンション上がり過ぎだ。

「エム・アイ・ティーまで」

僕は、ぎゅうぎゅうの後部座席からドライバーに行き先を告げたんだ。

格好を付けた言い方をしたら、両隣のポールとアーサーから脇腹を擽られたよ。

「No~hahahahaha」

紳士ドライバーの指すような冷たい視線に気付いた僕達は、静かにするようになったんだ。

「これがクールだよ」

ポールがポツリと呟いたんだ。

助手席のアミラまでこちらを振り返って睨んだんだ。

また車内がドッと湧いたんだけど…紳士ドライバーの視線は怖さに変わったよ。

車は、雪の残りる街並みを抜け、大きな川を渡った先の交差点で信号待ちした。

行き交う車たちの車窓も真っ白でマフラーも真っ白な煙を上げてるんだ。

寒そうに感じるよ。

川面も寒そうで、風が冷たく吹くのも見て取れたんだ。

僕達は周りの景色に夢中になりオノボリさんだったよ。

真ん中に座った僕は何も見えないんだけどね。

僕等の車も窓の曇りは熱気の証だね。

「で、このまま大学の中に入っていいのかね?」

紳士ドライバーが聞いた。

そうなんだ。

僕達が「J」に呼ばれた先は

【マサチューセッツ工科大学】

通称「エム・アイ・ティー」なんだよ。

3ヶ月の交換留学生と言う制度を「J」が公式に利用してくれたから、皆それぞれの親達にも鼻が高かったんだ。

もうクール過ぎだよ。

僕はスマホを取り出し詳しい行き先をガイドしたんだよ。

だってマサチューセッツ大学なんて知らないんだもん。

そして皆のスマホを予定通り預かって「J」に貰ったBOXに仕舞ったんだ。 

僕達のスマホは対策済みだけど念には念を入れるんだ。

そして到着する前に、車の中で「J」からの贈り物を皆に手渡したんだ。

箱の中身は、シルバーのネックレスとブレスレットだった。

とてもクールでカッコいい。 

箱を開けた僕達は、とんでも無い歓声を上げたんだ。

「大学に入る前に身につけるように」って念押しされてたんだよ。

ワイワイと煩かった僕達。

諦めた顔をした紳士ドライバーは、少しだけ微笑んでくれたんだ。

車は、大学の大きく長く続く壁の横を通り抜ける。

ちらほらと学生らしき人々が垣間見えたんだ。

服装もラフな感じで普通の学生と変わらない。

暫くして指定されたゲートをくぐりスマホの案内場所に停車したんだ。

学校の奥にある場所みたいで、学生達の姿は遠くにしか見えなかったよ。

ドアを開けると、車内の熱気が一気に開放されたんだ。

外の空気が本当に気持ちよかったんだよ。

荷物を下ろすのも忘れて皆で、空に向かって伸びをして、ボストンの空気をお腹いっぱいに入れたんだ。

皆、笑顔いっぱいだ。

その場所は不思議な事に地面に雪が積もってないんだ。

寒いはずなのに日差しが暖かく、少し緑の匂いがしたんだ。

清々しい気持ちになったよ。

僕達の後ろから「ガチャ」と車の音がしたんだ。

ドライバーがトランクをリリースしたんだよ。

皆喜びすぎて、すっかり荷物の事なんて忘れてたんだ。

車の脇で立っていたドライバーがニヤリと笑って僕達の後ろ側の誰かに手を上げたんだ。

僕たちはそれに気づいたんだ。

後ろを振り返ると、白い綺麗な建物の玄関アプローチを見ると、コチラを見ている人影が見えた。

「…おい」

ポールが僕の腕を肘で突いたんだ。

きっと「J」だ!

僕達のヒーローであり憧れの人なんだ。

皆、直ぐに判ったようだ。

寒さで顔が赤くなってた僕達は、さらに頬が赤くなり目を丸くしたよ。

誰も喋らず、急いで車から荷物を取り出し、我先にと駆け足でその人のもとに急いだんだ。

子供のようだったよ。

両手に荷物を持った徒競走だ。

無言で競うように走ったよ。

吐く息がさらに白くなったんだ。

入口の前は石造りの階段になっていた。

5段くらいある階段の上で背の高いモデルのような男性が立っていたんだ。

僕達は階段の前で立ち止まった。

「J」を見上げたんだ。

僕達は皆、キラキラした顔をしているのは見なくても分かるさ。

彼は、グレーのPコートに白色のセーター、タイトなジーンズに裏毛のキャメル色のチャッカーブーツ。

ファッション誌の写真の様に決まってたんだよ。

「やぁ始めまして」

ようこそエブリィ・ワンの皆」

無邪気な少年のような魅力的な笑顔をくれたんだ。

名乗らなくとも「J」だと皆すぐ理解したんだよ。

僕達は歓声を上げたんだ。

凄くクールだ。

僕達は一発で彼の虜さ。


■202☓年5月 ボストン■

ボストンローガン国際空港。

結局、フライトが1時間も遅れてしまったんだ。

僕達は、ようやく搭乗を済ませてそれぞれ席に着いたんだ。

僕の席は窓際だったんだ。

ものすごく嬉しい。

「Q」が用意してくれた飛行機だから勿論フライト料も「Q」持ちだしね。

僕達は別々の座席だったんだ。

意味があるんだろうけど逆に助かったんだよ。

ゆっくりと落ち着いて考え事をまとめる時間を貰えたのでありがたかったんだ。

機内用の珈琲カップに口をつけながら外の風景を見てたんだ。


■202☓年 3月 ボストンMIT■

「先生!どうして私達エブリィ・ワンを受け入れてくれたんですか?」

エムアイティー内にある僕達だけの教室。

アミラが「J」に唐突に聞いたんだ。

それは僕達にとって大きな問題だったんだ。

それについては、事前にいろいろ議論をしたんだけれども答えは出なかったんだよ。

「J」の事は初対面の時から「先生」と僕達は呼ぶようになっていたんだ。

場違いな呼び名なのに「J」はニコニコ受け入れてくれたんだ。

長テーブルに4人で座っている僕達。

「先生」は静かに真ん前まで寄ってきた。

それそれ名前を呼んでくれたんだ。

アーサーの真正面にきて彼に

「アトス」

と優しく声をかけたんだ。

そして横に座っているポールの前に立って

「ポルトス」

語るようにポールに声をかけたんだ。

驚いて見ている僕を「先生」は笑顔で飛ばして僕の横に座っていたアミラの前に立って声をかけた

「アラミス」

3人に「先生」は、本当に優しく尊敬をもって静かに声をかけたんだ。

「君達に会えて光栄だよ」

不思議な光景だったよ。

言われた3人は呼ばれて急に立ち上がり、目を見開いたまま無言で前方を見ていたんだ。

何かを思い出しすかのように。

アミラを見ると涙を流していたんだ。

そして3人の雰囲気が急に変わったんだよ。

何と言うか、逞しい大人のような…そして静かな闘志にあふれたような雰囲気を纏っていた…。

僕は、何故か知ってたんだ。

それは、お伽噺の「三銃士」の名前だった。

アトス、アラミス、ポルトス。

モデルがいる実在の人物達だった。

アトスは「アルマン・ダトス」

ポルトスは「イザック・ポルトー」

アラミスは「アンリ・ダラミツ」

嘘たろ?

彼らの生まれ変わりなの?

記憶があるの?

凄くクールだ!

めちゃくちゃ興奮したんだよ!

それが僕達が呼ばれた「資格」なのか!

でも、僕は…その神聖で大事な出来事なのに…それを壊してしまったんだ。

羨ましかったんだろうね…。

1人興奮した僕は、勢い良く立ち上がった。

「はい!はい!先生!」

興奮からか、顔を真赤にして先生に聞いたんだ。

先生はびっくりした表情で僕を見たんだ。

僕はお構いなしに

「先生! 僕は? 僕は?

やっぱり、僕はあのジャック・バウワーではないですか?

TWENTY FOURの主人公の、あのジャックの生まれ変わりではないですか!?」

鼻息が荒くなった僕…興奮で真っ赤な顔でワクワクしながら聞いたんだ。

とたんに…

教室中に笑いの渦が沸き起こったんだよ。

何故笑われたのか僕にはサッパリわからなかったんだ…。

それまで神妙に立っていた3人も腹を抱えて笑うんだよ。

先生も「お前には負けたよ」と涙を浮かべて僕の肩をバンバン叩いて笑うんだ。

僕はおかしな事はいってないんだけどな…。

「いつかお前も思い出すさ」

先生の笑いは終わりがなかったんだ。


■202☓年 5月 ボストン上空■

飛行機の窓際でそれを思い出したんだよ。

危なく珈琲が台無しになる所さ。

僕は本当に浅はかだったよ…。

クスクスと笑いながら雲一つない空を見上げたんだ。

こらから僕達はアイツ等の総本山のイギリスに行くんだ。

先生が用意してくれたプランに僕達はミッションとして赴くんだ。

ミッションだけど不思議と緊張はしないんだ。

それは先生からアイツ等の対処するレクチャーや訓練をキチンと受けたからだと思うんだ。

怖さよりも使命感が強く感じられるんだ。

アイツ等の、レプリティアンヒューマノイドの情報は暇があれば反復する癖も付いたんだよ。


■202☓年 4月 ボストンMIT■

「現在の地球上の食物連鎖の頂点は何?」

先生の問に全員が正解したよ。

全ての生き物を食べる頂点は、人間ではなく「Ruler」であると。

アイツ等は人間を捕食すると初めて知った時は僕達は驚愕したんだよ。

レベル2の情報だ。

僕達がネットで拡散させたのは「Ruler」は「レプリティアン・ヒューマノイド」=「トカゲ人間」である。

だけなんだけれど見た目が見た目だからか?

人間を食べる!

と憶測が一緒に拡散されていた。

僕達はその現場は見たこともない…見たくはないんだけれどね。

それから先生は「全てをいっぺんに説明するのは難しいんだ」

「neural interfaceでアクセスして貰う」

neural interfaceシステムは勿論知っているよ。

頭にコードを繋げて脳に情報を伝える装置なんだよ。

「俺が説明するよりわかりやすいからね。話しをするのが、面倒くさいからじゃないからな」

先生は笑いながら僕達を案内したんだ。

先生が先頭で僕達は一列に並んでついて行く。

教室を抜けて、校舎の中庭から通って森林がある小山を登ると、とへんてこな真っ白なアーチがあったんだ。

いつの間にかすっかり春になっていたんだよ。

温かい木漏れ日が気持ちいいんだ。匂いが新鮮な木の香りだ。

先生が颯爽と前を歩くんだ。

歩き方さえもクールなんだ。

アーチの手前は階段になっていて、そこを登っていくと真っ白なきれいな小さな建物があった。

小山を利用しているからなのか?

入口の奥にあるエレベーターで結構地下に下がったんだ。

何階かはわからない。数字もないしボタンもない。

先生の手のひら認証だった。

着いたのかエレベーターの扉が開く。

もう僕達は無言だよ。

狭い通路を歩くんだけれど驚いた事があるんだ。

照明がないのに明るいんだ。

たぶん、壁が白に塗ってあるせいだと思うんだけど。不思議な事に明るいんだよ。

先生は突き当りの真っ白の扉を開けた。

その部屋はテニスコートくらい広くって驚いたんだ。

全面真っ白なんだ。

そして何も置かれてはいない。

驚いたのは広さではなく天井なんだ。

天井の高さは16フィート以上あったんだ。

そして天井からオブジェが出っ張っている。

逆三角のオブジェが床にめがけて伸びていた。

まるで逆ピラミッドのような鋭利な形でもあったんだ。

その下にサークルが描かれていて僕達はそれぞれ座らされたんだよ。


■202☓年 5月 ボストン上空■

先生が使う「neural interface」は本当に凄かったんだ。

これまで僕達が利用していた情報データのやり取り、パソコンやスマホ、全てモニターを使用する。

モニターが無いと人間は認識できない仕組なのが現在の主流だよね。

目で見たものを…情報を自分の意識…脳に神経を使って電気信号で伝えるんだ。

でも逆ピラミッド部屋で行うデータのやり取りは別次元だったんだよ。

「モニターと目」は使わないんだ。

ダイレクトに脳に情報を伝えられるんだ。

先生の技術はオーバーテクノロジー過ぎて笑うしかないんだよ。

もう目で見る事は省略されたんだ。

先生は「neural interface」みたいなモノと笑って言ってたんだけど全く違うよ。

直接、僕の意識に情報が乗せられるんだ。

驚く事に、質感や匂いや空気感やら…五感と言われる神経にアクセスするんだ。

映画の体感型4DXを脳に直接届ける感じなんだよ。

例えば、昔に撮られた映像や画像の情報は「見る」だけだっただけれどコレを使うと

僕達がソレを直接その場にいて、見て画像や映像を記録した側になるんだ。

五感を通してダイレクトに「体感共有」するんだよ。

もちろんデバイスは使うんだ。

シルバーの金属製の細い引っ掛けタイプの細いイヤホンみたいなモノを耳にかけるんだ。

これを介して僕達の脳に情報を入力するみたいなんだけど、例のスライドした時に感じられる記憶が流れるのにとても似ていたんだ。

レベル4の情報はここで共有したんだ。

勿論、レプリティアン・ヒューマノイドと遭遇した「映像」による「共有体験」は驚きしかなかったんだよ。

まるで僕達が現場で「トカゲ人間」と相対している感じだったんだ。



■202☓年 2月 ボストンMIT■

初めて来たボストンの出来事は忘れられないよ。

マサチューセッツ大学。

僕達は両手に荷物を抱えて配車タクシーから走って「J」の元に走ったんだ。

嬉しくて嬉しくて、僕達はずっと「J」を見上げていたんだよ。

「ここは寒いから、話は中でしよう」

「J」が魅力的な笑顔を向けてくれた。

大学の校舎を背景に立っていた「J」は本当にオーラがある。

威厳がありすぎて何だか先生に見えたんだろうね。

僕とポールが

「はい!先生!」

とやってしまったんだ。

アミラとアーサーに本気で怒られたんだよ。

「J」はお腹を抱えて笑わったよ。

「好きに呼ぶといいよ」

「Come on」

校舎に入ろうとする「J」の背中を僕達は急いで階段を登って追いかけたんだ。

校舎はそんなに大きくなかったんだ。

他の学生の姿は見当たらない。

「J」に続いて中に入る。

左手は窓が沢山あり木々に囲まれたちょっとした庭園みたいだ。

右手は教室はなくってずっと壁なんだ。

普通の校舎とは違うのかもね。

先頭を颯爽と歩く「J」

イギリス系アメリカ人?

背の高さは僕より大きいかも。

僕達4人は「J」の後ろを並んで歩いてるんだ。

会えた事に緊張して皆無言なんだ。

おかしいよね。子供みたいだったよ。

ポールが自分の頭と前を歩く「J」の頭の高さを手のひらで比べておどけた。

凄く背が高いんだよ。

かっこいいんだ。

笑いをこらえるのにアミラは僕を叩いた

理不尽だよね。

廊下は急に寒さがましてひんやりしていたんだ。

照明は無くて、廊下の左手の窓から気持ちの良い日差しが照らしてくれるから明るいんだ。

一番奥の突き当りの部屋に案内されたんだ。

ここが教室だそうだ。

入った向かい側の全面がビックリするくらい大きな窓なんた。

暖房もつけてないのに驚くくらい温かいんだ。

いや暑いくらいさ。

僕はダウンジャケットを脱いでお気に入りの二枚重ねのTシャツ姿になる。

みんなも上着を脱いだんだ。

教室はそんなに広くなくかった。

大学らしく、教壇に向かって下っていて教壇が何処からでも見られるんだ。

教壇の後ろにはボードがあるようなんだ。

「ここは君達が自由に使ってくれて構わない」

いつの間にか「J」が教壇に居たんだよ。

僕達は荷物を抱えてワラワラと降り教壇の前の椅子に座ったんだ。

銀髪のクールな「J」が続けて言う

「始めましてだね。俺が君たちが言う「J」だ。」

彼が首を傾げて何故かニヤついたんだ。

不思議に思っていると。

「君たちに言うことがあるんだ。
俺はJではないんだよ…。」

え?さっき「J」って言ったよね?

困惑する僕達は顔を見合わせたよ

彼は下を向いて頭を振って笑った。

「サイトの「HERO/J.com」の「J」を俺の名前だと皆で勘違いしてるようだが…HEROの方が本当の俺の名前だ」

「え?そんなんだ?」

「やっぱヒーローなんだね?」

「はい!先生!では、Jって何ですか?」

「HEROはHEROじゃないの?」

彼は教壇で爆笑してたんだよ。

そして魅力的な爽やかな笑顔を見せながら

「あー、やっと言えたよ。…間違って呼ばれるのは慣れたけど、リアルで会う人達にキチンと俺の名前は伝えたいんだよ」

笑って言った。

「じゃJって何?」

アミラが直球で聞いた。何故かアミラの顔が赤かった。

「JapanのJだよ。僕が日本人だからさ」

僕達は凄く驚いたんだよ。

また顔を見合わせんだ。

どう見てもイギリス人かアメリカ人だ。

しかも背が高い。日本人は小柄でメジャーリーガーの大谷選手のように6㌳2.8を越える人は少ないはず。

彼は、僕らより背が高いく余裕で6㌳を超えていたんだよ。

銀髪で目の色がグリーンなんだよ。

嘘をついている様子もないのは皆理解していた。

ただただ驚いている僕達に彼は

「あぁ…すまない。コレとコレかな?」

髪と目を指し示した。

「君達も既に知ってるよね?周波数だよ。それを変えてあるので見え方が変化してるんだよ。いいかい?」

そう言うと、彼は教壇に両手を付いてこちらを見て動かないんだ。

でも一瞬なんだよ。

一瞬で彼の髪の色は黒色に目の色はブラウンに変わったんだよ!

僕達は椅子から立ち上がり驚きのあまり動かなくなったんだ。

皆、口を開けっ放しだったよ。

眉毛の色も黒色に変わって顔立ちはそのままなんだけど、確かに日本人のそれだったんだ。

彼は続けて言う。

「本当の名前は「J」では無いけれど、Qアノンを率いているリーダーとして認識してくれてかまわない」

まだ無言の僕達に

彼は一瞬でまた銀髪のグリーンの目に戻したんだ。

「俺の名前はヒロシと言う。

英語圏では通りにくいのでヒロと略している。

そして本名はヒロシ・シンジョウ。

シンジョウ・ヒロシと言う。」

僕達は呆気に取られすぎて何故か拍手してたんだ。

「ようこそ「Qアノン」へ」

彼の少年のような無邪気な笑顔が弾けた。

■■■■next

第5話↓

https://note.com/bright_quince204/n/n6d95afc46b94

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