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絵本の技法から

オンライン受講している「絵本探求ゼミ」の第3回では、絵本に使われる技法についての学びを元に受講生が絵本を持ち寄った。

グループワークの後、シェアタイムで紹介した『おーい、こちら灯台』(評論社)は、ミッキー講師(東洋大学文学部国際コミュニケーション学科准教授 竹内美紀先生)の解説のもと、詳しく検証する場をもつことができた。

絵本『おーい、こちら灯台』

当日の検証や意見交換などをふまえ、改めて「技法のデパート」のような作品を読み直し、まとめた。
近隣図書館には原書絵本の蔵書もあり、原書版についてミッキー講師より多くの助言を頂けたことは幸運だった。

絵本『おーい、こちら灯台』(ソフィー・ブラッコールさく 山口文生訳 評論社 2019年)

絵本『Hello Lighthouse』written and illustrated by Sophie Blackall Publisher: Little, Brown, and Company  2018

とても小さな島にすっくりと建つ灯台。灯台を取り巻くダイナミックな海洋の大自然と、そこに暮らす灯台守の誠実な暮らしが描かれる。美しく、細部にまでこだわりが伺える作品。
2019年コールデコット賞受賞


絵本の技法から作品の魅力を考察する

【判型】
・縦30センチ 横18.5センチ 縦長の判型
→灯台という縦長の形状にフィットした判型である
→見開き左ページ同じ場所に同じ大きさの灯台が描かれ、灯台の役割としての不断の安定感が伝わる

【タイポグラフィー】
・円形の枠のページでは、大きな円を囲むように言葉がぐるりと配置される
→異時同図となっている場面では時間の進む様、時計のイメージにも通じる効果

・「おーい! ……おーい! ……おーい!」の部分は、一言ずつ改行されてずらして配置され、風の強い場面では風に舞うように配置されている
→ずらして配置されることで、灯台から遠くへ向けての呼びかけとして感じる。Hello!(おーい!)という言葉は灯台の擬人化に通じる。

・原著では、数多く登場する「Hello!」(おーい!)という呼びかけのうちほんの数カ所、Hello,Lighthouse! やGoodbye,Lighthouse!  及び Hello?がイタリック体となっている。
→ストーリーに合わせて特別な意味が読み取れる。イタリック体のセリフは発話者が別人(灯台ではなく人間)なのではないか?しかし、翻訳本ではフォントに変化がないため、「おーい!」の発話者が一層曖昧になっている。このイタリック体のセリフに気付いてから、タイトル「Hello Lighthouse」が、「おーい、こちら灯台」と訳されているのも気になってきた。

・「らせんかいだんを、かけあがっては、 かけおりる」は動作をイメージするように言葉が段をあげたり、さげたりして配置される
→よく見ると everywhere も  e v e r y w h e r e と広く配置されていて面白い

【裁ち切り】
・長いらせん階段の上下を断ち切ることで長さを強調している

【枠・ビネット】
・周りがロープ模様の円形ビネットを効果的に配し、灯台守の生活の一コマ一コマを描き出している
・出産間際の奥さんが大きな円形の枠の中に何人も描かれ、時間の経過(異時同図)や閉じられた空間の濃密な空気が伝わる
→円形の理由として、灯台の内部が円形であり、敷物やベッドカバーなどにくり返し円形(放射上の色分け)がモチーフとしてくり返し登場する

【フリップ】
・ラスト手前の見開きは、右ページを広く広げられる仕様になっていて、広げるとこれまで見えていなかった対岸の町が現れる
→まさにパノラマ効果で水平線の端に岩肌の土地が現れ、一軒の家から灯りが灯台へ延びている。フリップをとじて最終ページには文字が無く、読者の納得と余韻を最大限引き出す終わりとなっている。

【見返し】
・表表紙、裏表紙見返しは共に作中登場する「灯台日誌」を開いた状態と重ねて描かれている。
→物語に重なるアイテム描写は余韻を増幅し、読者の発見の喜びにも繋がる

・表表紙見返しでは、灯台守の暮らしに登場したアイテムが描かれ、裏表紙見返しには作者による「灯台について」という説明文が活字で書かれている。
→作者の制作のきっかけを知ることで作品の捉え方も深くなる
※灯台のモデルがカナダ ニューファンドランド島の灯台と記されていた。
バナー画像はモデルとされる灯台。フィクションではあるがリアリティを感じる感動に繋がった。

原著に見た編集者の存在


原著では、裏表紙見返し右下に ABOUT THIS BOOK として、
The illustrations for this book were done in Chinese ink and watercolor on hot-press paper. This book was edited by Susan Rich and designed by David Caplan and Nicole Brown. The production was supervised by Erika Schwartz, and the production editor was Jen Graham. The text was set in Bulmer.
というクレジットがある。

実は、翻訳版には省かれているが、原著にはタイトルページに美しく配された献辞がある。

For Susan Rich―editor, friend, beacon of light
(編集者であり、友人であり、導く光―スーザンリッチへ捧ぐ)

ここまで美しく緻密に作り上げられた絵本は、多くの人の手がかかっていて、特に編集者スーザン・リッチの手腕のほどが献辞からも伺える。
スーザン・リッチが女性イラストレーターをサポートするサイト「Women who draw」で作品作りについて語っていて興味深い。


作者 ソフィー・ブラッコールに注目

さて、絵本探求ゼミでの課題から少しはみ出てしまったが、これまで翻訳絵本の対訳について一冊丸々読み比べたことが無かったので、とても面白い経験となった。
学術的な論考には遠く及ばないが、一冊の翻訳絵本から世界が広がり、本国カナダの出版社のサイトや前述の女性イラストレーターのサイトを覗いたのも収穫だった。

また、海外作家の情報はyoutube も有効なソースで、今回は作者ソフィー・ブラッコールの次作についての本人トーク動画が面白かった。作家のインスパイアに触れる貴重な動画。
コールデコット賞を二度受賞している人気作家にこれからも注目したい。
Sophie Blackall presents FARMHOUSE (2022/7/12公開)


ソフィー・ブラッコール 公式サイト
https://www.sophieblackall.com/

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