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阿部 華奈絵氏~ 街の不便屋が灯す「地域福祉×焚き火」~


インタビュー・文:くつべらマン

東京都三鷹市のとある場所で、毎月開催される「焚き火イベント」がある。このイベントの火付け役となった阿部華奈絵(あべかなえ)さんは、児童養護施設を利用している/していた若者に向け、相談支援ガイドブックを発行する有志団体「ゆでたまご」の設立者だ。

大人も子どもも関係なく、皆で楽しむ場を作り続ける阿部さんは、なぜ焚き火で地域につながることが大事だと考えるのか?

Q.1)自己紹介と現在行っている活動やお立場について教えてください。

A.1)はじめまして。阿部華奈絵と申します。今は仕事を4つやっていて、行政書士事務所の補助スタッフ、小中学校におけるICT(情報通信技術)支援員として授業のサポートスタッフ、生活介護のスタッフ、大学にて多世代交流スペースの管理人(非常勤職員)をやらせて頂いています。

色んな仕事をやっていますけど、本業は「自分人生を生きること」とかドヤ顔で言っています。みんな一人一人が自分の人生が本業なので「自分の人生を最後まで使い切れる」ような働き方をしたいなと思っています。

私は子どもの頃からキャンプとか自然の中での遊びを仕事にしたいという夢を持ち続けています。なので、自分の夢を叶えるようなことをしたくて「焚き火イベント」をしています。

アウトドアの「何もないところから自分で遊びをつくり出す」っていうのが凄くいいなって思っています。何でもモノを与えられてしまうと思考が停止しちゃうというか・・・私が子どもの頃は近くに川があったので、自分自身で遊びを考えて編み出したことで遊んだりしていました。

その時の経験が大人になってからも凄く役に立っています。自然体験って凄くいいな、可能性を感じるなって思って。

それに、人に何かを伝えるってことが凄く好きなので、人とコミュニケーションをとりながら自分の好きな自然の体験を共有できたらと思い立って「焚き火イベント」をやり始めました。

今、人生で一番楽しいのは焚き火をやっている時ですね。

自分が好きなことをして、それでみんなも楽しくなるって凄くハッピーなことだと思っています。私は、自分一人で楽しむよりも「みんなで楽しむ」ことをやるのが好きなのです。

この社会ってすごく孤立する人が多いと聞きます。でも、本来なら人と繋がれる場は、もっと多く存在していたんじゃないかなって思うんです。


私自身は、児童養護施設出身者です。施設を卒園して社会に出た時に、「孤立する」ということを経験しました。「自分だけが孤立しているのかな」って10代の時は思っていましたけど、20代になって色んな人と関わるようになって、色んな世代の人が孤立しているなと感じました。

なので、私の中で「孤立」をキーワードとして地域福祉活動に取り組んでいます。

私は「便利になったから人は孤立したのではないだろうか、逆に不便になったら人同士は繋がるんじゃないか」と考えました。なので、敢えて地域に不便な場所をつくろうと思い、焚き火のイベントを開催しています。

そして、「手間が掛かることに価値がある」と思って活動しています。一人じゃなくて、みんなでコミュニケーションを取りながらやるのが大切ですね。

Q.2)この焚き火のイベント会場について教えてください。

A.2)私は、今まで住まいを転々として色んな地域をまわってきました。でも、コロナが到来した頃から外へ出られないなら、地域という規模で活動してみようかなと思うようになりました。その時は、三鷹に住んでいて、地域で街づくりに関わり始めて、「地域には色んな人がいて面白いな。その人達が繋がるきっかけになる場所を作れたらいいな」という思いが沸きました。

その流れで「焚き火をやりたい」と色んな所で言っていたんです。

「今どき焚き火なんて難しいよ」と言われている中で、「じゃあウチでやりなよ」と、ある社長さんが言ってくれたのです。

そこで、私の一つの夢が叶ったのです。現在、活動を始めて3~4年目ぐらいなんですけど、毎回参加する人もいれば、たまに参加する人もいます。毎月1回のペースで一年中やっているので、気付いたらいっぱい集まっていました。「自分がやりたい」って理由もあるけれど、三鷹は農家が盛んですし、「その月ごとの旬の野菜を焼く」っていうのがまた良いんですよね。

時間は2時間と短いんですけど、社長さんのご厚意で、レンタル時間を超えても「使っていいから」って言ってくれることが多いんです。だから「2時間できっかり終わらせなきゃ」じゃなく、ゆるっと開催することができています。

チャレンジするのってとても大切なことだと思うけど、チャレンジする人が凄いんじゃなくてチャレンジできる環境がいいなって思います。私自身が凄いんじゃなくて、こうやって焚き火のスペースを貸してくれる人の存在があったり、集まってくれる人の存在があるからこそ成り立っているので、そうした環境に凄く感謝しています。

Q.3)チャレンジといえば、阿部さんは当事者活動や、有志団体「ゆでたまご」での活動もしていますよね?

A.3)そうですね、今でもちょくちょく「ゆでたまごのガイドブック知っていますよ」という声を頂いたりするので、活動して良かったなって思っています。

ゆでたまごでの活動の時に「児童養護施設出身者」といって活動していたから、どうしても「児童養護施設出身者」ということが先走ってしまうんです。それが嫌になったというのもあって、ゆでたまごより「焚き火」の方を知ってもらいたいと思っています。

「児童養護施設出身者の阿部華奈絵だけじゃないんだ、私は私なんだ」って。「本業はあべかなえという人生を生きること」なので。その夢に向かって今もやっているという感じですね。

Q.4)地域で活動すると、色々な立場、考えの人と関わることになると思いますが、人と関わる上で大切なことは何だと思いますか?

A.4)まずは「否定しない」っていうこと。

後は子どもに対して、子ども扱いは極力しないように、「年齢とか関係なく尊重する」ってことは極力意識しているかな。

そうすると、関係性がより良好になると思います。

難しいと感じるのは、「人との距離感」ですね。距離が近すぎても、遠すぎても良くない。当たり前のように人に何かをお願いするっていうのは、相手にとても負担がかかってしまうので、まずは敬意を持って。「親しき仲にも礼儀あり」という言葉を、実践できているかどうかはちょっと難しいですけど、できるだけ意識して行動するようにしています。

Q.5)今後どのような活動をしていきたいと考えていますか?

A.5)今後は街の「不便屋」ってことで、三鷹に限らず各地に不便な場所を作りたいです。その不便の手段の一つとして、焚き火。ただ焚き火をするだけじゃなくて、防災と絡めて実際に火を起こしてその火を初期消火することもやってみたいです。防災をいかに日常に落とし込むかっていうテーマで取り組んでいきたいです。それには焚き火の有用性は高いと思っているので、各地で「焚き火と防災」というテーマでやっていけたらいいなと考えています。

私自身が色んな街づくりに関わるような活動をしているので、そこで繋がった人たちに「焚き火をやってみないか」と提案して、「うちでやってみようか」っていうのを各地で増やしています。

種まきじゃなくて火種を撒いていくみたいなカンジですね。各地をいい意味で炎上させていく、地域を盛り上げていくってことができたらいいなって思っています。歩く着火剤みたいな感じですね。

Q.6)阿部さんにとって、地域に繋がるってどういうことですか?

A.6)「孤独感が無くなる」ということだと思います。何かがあった時に頼れる存在がいるっていう安心感はすごく大きいです。私も昔は、一人で居てもみんなで居ても、常に何かこう孤独感というものを感じていた時があるんですけど、こういう繋がりができてから孤独感ってものが無くなりました。

大勢で居ても、一人で居ても全然寂しさを感じなくなったいう感覚があります。それはやっぱり地域の繋がりの良いところだなって思います。

繋がりというものは目には見えませんが、「あ、明日は誰々さんと会えるな」とか街中で声を掛け合うみたいなそういう関係性って素敵だなって思っています。

私が色んな活動を始める一番最初の原点が「孤独死をしたくない」と思ったことなんです。ある時、「私は孤独に誰にも気付かれずに死んでいくのかな・・・」っていう恐怖を感じたことがあったんです。その時に今から自分で繋がりをつくっていれば、10年繋いでいけば、10年の付き合いを構築することができるのです。

じゃあ、今から繋がっておこうって。今では色んな繋がりや付き合いがあって、良好な関係性ができてきたかなって思っています。

今後も地域との繋がりをつくり続けていこうと思っている阿部さん。今日も彼女は自分らしさを大切にしながら地域の方々と関わり合い、どこかで火種をまいている。

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