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あのたび -上海へ2泊3日-

 旅には乗り物が不可欠であるが、いろいろな国で実に様々な船に乗った。ベッドも無い丸3日のオンボロ船から1分の川渡しまで。その8割以上が不快そのものであった。
 まずこの旅のスタートが船であった。神戸を出向し2泊3日で上海へ到着するという蘇州号。
 この船は時間の有り余っている旅行者にはポピュラーな出国法である。片道2万円。閑散期の北京往復が飛行機で3万円程度と比べると格別安いというわけではない。が、こういった船には何かそれなりのモノを背負った似たような境遇の旅行者が乗っている。バックパッカーというやつだ。それが面白い。
 中国西部深淵ウルムチまで行く者、シベリア鉄道でロシアをめざす者、世界一周のスタートだという者、旧正月で飛行機のチケットが取れず仕方なく船でという中国勤務のおじさんもいる。

 「泊まるとこ決まっとるんか?両替してやるで」
などと声をかけられた。
 親切ではあるが短時間で他人を信用してだまされ、出発した途端に一紋無しになっても困るので名刺だけ受けとってハイハイという返事で済ませておいた。ホントは不安で不安でたまらなく助けて欲しいという気持ちでいっぱいではあったのだが。疑念と信用のバランスが旅では難しい。

 食事は船内でも日本円で食べられる。少々お高いのでパンなどを持ち込んで食べていた。4階に電子レンジと冷蔵庫のある給湯室を発見したのでカップ麺など持ち込むのも良いかもしれない。洗濯機と乾燥機は無料で使える。
 寝室は大部屋に枕とマットレスだけの雑魚寝である。その2等クラスの上に運賃の高い上級クラスがある。そんなクラスに乗っているのはいったいどんな人たちか、と見渡すと日本に出稼ぎに来て旧正月絡みで帰国する中国人の団体であった。彼らは1点1元で麻雀に興じる豪遊ぶり。満貫の8000点は約12万円だ!

 海上から星を見ようと甲板に出るが前日からの雨で雲行き悪し。波で割りと揺れるので船酔いにもかかる。やることもなく寝るだけの2泊3日、思えばこれが最高級の船だった…

 両替はどこでできるのか? レートがいいのはどこか? 1ヶ国でいくら必要なのか? といったことは海外旅行がほぼ初めてのボクにはさっぱりわからなかった。

 飛行機で旅行する場合、土日祝日や早朝深夜に関係なく空港に両替屋がある。ボクは陸路と海路でのみ旅をしていたので、国境近くで両替できるらしいという情報を持っているだけだった。東南アジアではドルが通用するというのでドル半分・円半分という感じで所持していた。クレジットやキャッシュカードは持っていない。トラベラーズチェックというのも知らなかった。
 最初の国は中国だけど、日本で両替はしていなかったので1元も持ってはいなかった。いくら金持ちでもその国のお金がなければ食うことも寝ることもバスに乗ることもできない。船の大部屋で一緒になった旅行者は、「きっと港で両替できるよ」と気楽なものだ。
 そのとおり到着した上海の港で両替はできたのだがあまりレートはよくはない。とりあえず二万円ほど両替した。長い旅の一歩目を踏み出した。

中国ルート

(つづく)


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