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【玉井詩織さんの舞台】熱海五郎一座「幕末ドラゴン」感想ノート①玉井さんのツッコミとボケ

玉井詩織さんの約1か月に及ぶ舞台の挑戦、熱海五郎一座「幕末ドラゴン~クセ強オンナと時をかけない男たち~」が、6/25(日)、無事に千秋楽を終えた。初の長丁場の舞台を最後まで完走した玉井さん、本当に素晴らしく、頼もしく、誇らしい。心から、おめでとうございます。

「東京喜劇」と題された今回の舞台、実のところ、芝居の最初から最後まで笑いっぱなしである。こんな体験、今までにない。観たのは、計4回。初日5/31(水)夜の部、6/10(土)夜の部、6/21(水)昼の部、千秋楽6/25(日)昼の部だった。舞台に立つ玉井さんを見られる喜び、観る度に得られる伏線やネタの発見、観終わった後も、素敵だった玉井さんを思い出したり、内容をあれこれ考え、次に観る時のポイントをしぼったりするのが楽しかった。

ああ、公演期間、楽しかったなぁ。終わってしまった今、何を書いても、穴埋めにはならないけど、書きたいことならたくさんあった気がする。これから、少し、自分の感想をまとめていけたらいいかなと思う。

三宅さんが語る玉井さんのツッコミ

今回、構成・演出を手がける座長の三宅裕司さんは、記者会見でもラジオでも、毎回、玉井さんがボコボコに一座のメンバーにツッコんでいくのを見どころの一つとして紹介していた。

↓ 例えば、「物怖じせず、おじさん連中にガンガン突っ込む詩織ちゃん」

↓ラジオでも、こんなふうに言っていた。

↓他のラジオもこんな感じ。とにかく、ツッコミ、ツッコミというアピール。

劇中での玉井さんのツッコミ

玉井さんが演じるのは、高齢者劇団シルバーガイズのオーナーの娘、土岐架(ときかける)。劇団員からは「お嬢」と呼ばれる。父であるオーナーが亡くなり、劇団を相続したが、採算が取れず、劇団の解散を通告する。玉井さんは、1幕2場から、早々に舞台に登場する。

「高齢者ばかりの劇団なんて、誰も興味ないんですよ!」の雄叫びに始まり、とにかく劇団メンバーに対して「腹出てる」「関節リュウマチ」「腰治ったの?」「全身が老けてる」と次々にツッコんでいく。開始早々からクセ強オンナ全開なのである。

とにかく全編、激しいツッコミと言っていいが、さらに面白いのは、架のツッコミが、物語の枠を飛び出し、登場人物の役名、演出、脚本、役者の演技など、ドラマ外のメタレベルにまで及び、どんどんツッコんでいくとこだ。初日は、一瞬、何のこと?ってなったけど、なるほどこれが熱海五郎一座流の楽しみ方なんだと知る。

「横須賀流星って役名、ふざけてるんですか?」
ーー小倉久寛さんの役名。確かに、シルバーガイズ全員、ふざけた役名になっている。

「酔っ払った演技で〈酔っ払っちゃった〉ってセリフ言うの最低ですね」
ーー五反田蓮に扮する春風亭昇太さんに対して。

「ちょっと待って! こんないいシーン、ギャグにする?!」
ーー作家・演出家に対して。客席正面向いて言うという。

こういうメタ的なツッコミは、玉井さん持ち前の頭の回転の速さで即興で行われる普段のツッコミの性質と同じだ。

それにしても、架ちゃん、ミュージカル大嫌いと言いながら、シルバーガイズの劇中劇の台本も終わりまでしっかり読んでるし、キツいツッコミを入れながら、よく見てる。もしや、演出家タイプ?ってなる。が、その秘密もあとで明かされる。

タイムスリップしてからも、幕末の京の町でツッコっむツッコむ。自分の先祖である桂早之助(野添義弘さん)にも「くれぐれも、私に恋しないで下さい。単純に好みのタイプではないので」(暗に頭髪への揶揄)と、無駄に切りつける。素敵だ。

しかも、あろうことか、檀れいさん演じるお龍にも、「そりゃあ、若くて綺麗だとは思いますよ。でも、私の娘、なんですか? 殺意が芽生えました」なんて言ってしまうからヤバいでしょ。この辺の玉井さんのセリフの抑揚がたまらない。

ツッコミ一転! 最大のボケ!

そんなテンション高いツッコミのオンパレードののち、芝居の終盤に待っていたのが、なんと玉井さん渾身のボケ! 四方八方にツッコミまくった架ちゃん、あれだけ人にツッコミ入れてきた人が、最後の最後に、最大のボケ。

江戸時代の人たちに、自分たちのミュージカルを見せるため、お龍と架も加わって、稽古するとこで明かされる架の演技力、が、まさかの棒読み!!!

「まてー おんなひとりにー」

架がミュージカル嫌いなのは、数年前に喉の病気でその道を諦めたからだと語られるが、しかし、実はそれが単なる実力不足だったというオチ!

もう、ここほんとに、脚本家に最大の拍手を送った。一番笑った! それで、これ言った後の架ちゃんの得意げな顔! 唖然とする周囲の面々の中で、一人だけすごく自信を持っちゃてる図。もう可愛らしいし、めちゃくちゃ面白かった。初日の感想アンケートに「ここは玉井さんの素ですね」と書いてしまった。こういうの、玉井さん大得意だという意味で。

三宅さん、宣伝だと、玉井さんのツッコミばかりに触れて、ボケについては何にも語ってなかったのに! こんな最大のボケを隠していたとは! もしや全ツッコミがこの最大のボケに落とすための振りだったのか?!とすら思えた。これを任されたのは大きかったと思う。玉井さんの真骨頂、ボケの上手さ。拍手!

ツッコミとボケの進化

ただ、初日、ちょっとだけ残念に思ったのは、玉井さんの本作におけるツッコミが、ツッコミを受けたメンバーのリアクションとセットで笑いを取るスタイルだったこと。だから、会場の笑いが起こるのは、玉井さんのツッコミに相手が返す時であって、玉井さんに対してではなかったことだ。もちろん、笑いを呼び込む引き金役で、それがないと展開していかない重要な役目だけど、できれば、玉井さんにも大爆笑を全身に浴びさせてあげたい、と思った。

ところが、3回目に観に行った時、劇場の変化に驚いた。しょっぱなの老人いじりから、玉井さんのツッコミだけで大爆笑が起きている! 玉井さんが、ツッコミを進化させていたのだ。より軽快にバッサバッサとツッコんで、振り切った感じがあった。自ら笑いを呼び込むようなタメを作って、行き急がない感じ。気持ちゆっくりめに客席に少し目をやりながら、わかりやすくツッコんでると思った。玉井さんが自分のセリフでお客の大爆笑を全身に浴びている。キレまくっている! 最高に気持ち良かった。

棒読みのボケも、さらにコミカルになっていたし、ボケ後の得意げなとこもより悦に入っていた。棒読みシーンは、6/8(木)昼の部のカーテンコールで玉井さんが一番苦労したところだと言ったらしく、ここも日々修正を加えていったんだなぁと思う。また6/9(金)昼の部のカーテンコールでは、三宅さんが玉井さんは我々にしかわからないくらいの細かな演技の修正をしていると言ったそうだ。玉井さんの日々の努力、鍛錬、それを支える負けん気、向上心にはいつも打たれる。

そもそも、玉井さんの身体能力は高いので、コミカルな動きも身体感覚でわかってるとこがあると思う。未来に帰る時のタイムスリップで、シルバーガイズの面々と、そのまま固まって、舞台の袖にはけていくとこなども、地味だけど、面白いなぁ、上手いなぁと思った。

あと、早之助の切腹を止めるために、早之助役の野添さんに蹴りを入れるシーンもそうだ。これは千秋楽のカーテンコールで、2人で面白くするために相談したと言っていた。

きっと、他にも、表には出てこない工夫や経験がたくさんあって、この公演を通して玉井さんが獲得したであろうものを想うと、計り知れないと思う。今秋の明治座座長公演がますます楽しみでならない理由だ。

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