見出し画像

【玉井詩織さんの舞台】熱海五郎一座「幕末ドラゴン」感想ノート③吉高寿男と三宅裕司の描き出す“玉井詩織”の魅力

ももいろクローバーZの玉井詩織さんが出演した、熱海五郎一座「幕末ドラゴン~クセ強オンナと時をかけない男たち~」(2023年5月31日(水)~6月25日(日))は、三宅裕司さんが座長を務める一座で、前身の伊東四郎一座から数えて今年19回目、新橋演舞場に来てからも9回目を誇る大人気の一座である。玉井さんは今回、ももクロ陣営を離れて、一人で客演を果たしたことになる。

玉井さんやももクロ本体の主要な舞台経験としては、平田オリザ原作・脚本/本広克行演出『幕が上がる』(2015年)、鈴木聡作/本広克行演出『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?』(2018年)、同じく鈴木/本広『ももクロ一座特別公演 大江戸娯楽活劇 姫はくノ一』(2019年)が挙げられる。また、玉井さん個人では、サムライ・ロック・オーケストラ『マッスルファンタジー オズの魔法使い』(2018-19年)、コントでは東京03『FROLIC A HOLIC』(2018年)、『漫画みたいにいかない 第2巻』(2019年)にゲスト出演している。

言ってみれば、これまで玉井さんが立ってきた主な舞台は、ももクロ陣営主導の舞台が中心であり、当て書きではないけど、彼女たちをよく知る運営が制作に携わってきたと言える。ところが今回の熱海五郎一座(吉高寿男作/三宅裕司構成・演出)は、言わば外部の企画。一体、玉井さんはどんな位置を与えられ、どんな評価をされるのだろうか?

と、蓋を開けてみたら、殺陣あり、歌あり、ダンスあり、ツッコミにボケと、大活躍で出ずっぱりの大役を任せられ、本格的な出演となったのは周知の通り。舞台における凛とした出立ち、ツッコミでの声の張り、立ち回りでの四肢の美しさ、目線や表情のキレなどなど、最後のカーテンコールのドレスアップに至るまで、舞台上の玉井詩織さんを存分に堪能することになった。

二刀流の架

そんな中でも、立ち回りは、劇団SET(三宅さん主宰の劇団スーパーエキセントリックシアター)の役者の皆さんによる本格的な殺陣に玉井さんも加わり、かなりの見応えがあった。ちなみに、立ち回りの考案は桂早之助役で出演もされた野添義弘さん。

主に玉井さんは、刀を右手に、鞘を左手に持ち、実戦としては闘いにくいとは思うけど、形としては二刀流の構図になっていて、シンメトリーで長い手足のバランスが美しかった。

途中、架とお龍で息を合わせて立ち向かうとこも、まだ明かされない2人の関係を思うとグッと来る。殺陣の中にも微妙な機微みたいなものを入れてきていて。特にお互い視線を交わすとこなど、琴線に触れてくる。

立ち回りの後半には、架の持っていた刀が飛ばされて、倒れ、ショルダーバッグを盾にしたらそれも飛ばされるという動きもあった。今回見てて思ったのは、立ち回りは相手役の動きに合わせるだけでなく、効果音にも合わせる必要があって、かなり難しそうだということだ。音に合わないとズレたことがわかってしまう。実は自分が見た回で、バッグを少し早く投げちゃったかな…って時もあって、この難しさを知る機会になった。もちろん、歌手として音に合わせるのはライブや音楽番組でも慣れてるはずだけど、舞台の立ち回りの難しさはまた全然違うんだろうなと思う。

京の町をめくるめく彷徨う架

芝居中は、場面転回がけっこうあり、暗転も効果的だった。そんな暗転明けで、玉井さんが舞台中央の最前にいて芝居が始まることが多かった印象がある。

幕末の京都、近江屋の2階にタイムスリップして、架が倒れた状態から目覚めるシーンもその一つ。明けの動きのキレ、倒れた状態から即立ち上がってセリフとか、少しも動ずるところがない。

そして目覚めてからの、京の町へと降り立つシーン。まず、襖を開けて外の様子を確認する(このページのトップ画)。それで弾かれたように、誰よりも先に一目散に階段を駆け降りて、外に出ていく。京の町を行き交う人たち、その間をめくるめく彷徨い、見回しながら、タイムスリップしたことに戸惑いつつも徐々に状況を把握していく。ここで、観客は架とともに幕末の町に降り立つんだと思った。架が起点となって、タイムスリップの状況を展開させるだけでなく、観客も架と一緒になって、この現実を受け入れていく。玉井さんの彷徨い翻弄される芝居は『ドゥユワナ』でも秀逸だったけど、好きな人が多いシーンだと思う。

「努力家な詩織ちゃん」

一方、歌とダンスのシーンは、まるで水を得た魚。一気にクセ強オンナ・土岐架から玉井詩織が降臨する。特に、春風亭昇太さんと2人で「龍馬を探せ」をデュエットするシーンは、公演期間の終盤から大きく変更されて、ほぼ玉井さんの独壇場に変わっていた。いつものライブ同様、満面の笑顔で歌って踊るから、会場を一気に引き込む吸引力がある。公演中も日々台本を書き換えていたという三宅さんがこの形に行き着いたのも必然だったのかもしれない。三宅さんが最初『ももクロちゃんと』(テレ朝)に出演して玉井さんにオファーした時から、その後の稽古と本番を経て玉井さんがどのように化けたのか、三宅さんの中での玉井さんに対する見立ての変化にすごく興味がある。

歌と言えば、舞台の歌唱指導をされた、ボイストレーナーの漣さや香さんが、初日開幕直前にインスタで玉井さんについて、こう紹介して下さっていた。

主役でゲストキャストの
ももいろクローバーZの
玉井詩織ちゃん💓

芝居にも歌にもとっても熱心で
昨日はリハーサル前に
ボイトレをしました。
疲れてるはずなのに
ほんとに努力家な詩織ちゃん。

もうほんとに可愛くて
めちゃくちゃ良い子で
なんて素敵な女の子なの?
と言いたくなるほど
素晴らしい方です✨

漣さや香さんのインスタ、2023/5/31より

情景が目に浮かぶようで、ヒシヒシと伝わる。「努力家な詩織ちゃん」、初日を観ただけでわかった。単に勘が良いだけでは立ち行かない大舞台だったと。

芝居中に垣間見える“玉井詩織”

歌とダンス以外に、実は劇中で突如、“玉井詩織”さんが現れて「あっ!」と驚くシーンがある。玉井さん演じる土岐架が自分のスマホのロック画面を見せるところ。ステージ脇の縦長スクリーンに映し出されるその写真がなんと、玉井さんの12カ月連続ソロ曲配信プロジェクト「SHIORI TAMAI 12Colors」の8月の画像だという驚き!

衣装の関さんのインスタのアザーカット、2022/10/6より

これには思わず吹き出した! 自分の写真をロック画面にしてる架ちゃんっていったい…(クセ強…)。玉井さん本人では絶対あり得ないギャップに笑ってしまった。客席にいた無数の熱海五郎一座ファンの皆さまに、惜しみなく玉井さんを見せびらかすスタイル、嫌いじゃない。ちなみにこの画像、「SHIORI TAMAI 12Colors」サイトトップの画像を使っていて、全12枚どれでも縦横比的にぴったりなので、公演日ごとに別のに変えても良いんじゃないか?!ってずっと思ってた。

ところで、本公演のパンフレット。作家の吉高さんが玉井さんについて、次のように形容している。曰く「多才で蠱惑的な玉井詩織さん」と。「蠱惑的」って、明らかに「SHIORI TAMAI 12Colors」の5月曲「Spicy Girl」のテーマ「自由奔放で蠱惑的な女の子」から来てる。

言ってみれば、「蠱惑的」な玉井さんも、玉井さんが演じている玉井さんの一つなわけで、だから、その形容を使う作家さんにとっての“玉井詩織”さんは常に“玉井詩織”を演じている多才な玉井詩織さん、ということになるんだろうか。アイドル15年もやってるというだけでかなり高い演技力があると言っていいし、胆力だってある。そこに更なる鍛錬と稽古が集中的に加わったんだから、とんでもないことだなと思う。

ちなみに、ソロ曲「Spicy Girl」は、ジャケット写真とTEASER映像の公開が5/13、楽曲配信が5/20で、舞台の初日が5/31だから、なかなかに最新の玉井さんが盛り込まれてたことになる。

吉高さんによる土岐架像

さて最後に。玉井推しが必ずや衝撃を受けたと思われるラストシーン。そして追い打ちをかけるように投下された吉高さんのツイートがこちら。

正直いうと、このツイート後、2回見たけど、結局わからずじまいだった。この話題自体あまり盛り上がらなかったのは、あれだけ分かりやすく作られたストーリーにもかかわらず、この答えが明快な形では描かれてなかったからじゃないかな。

前回②でも書いたように、本作ではお龍の父親、すなわち架の相手を問わない作りを意識的に行なってると思ってる。つまり、この「幕末ドラゴン」は母系の物語なんだと。だから父親を問わないんだろうなと。そもそも原始日本は母系社会だったんじゃないか?!って飛躍をもって、架さんの相手は実態のない概念に一票。

いや、もしかすると、『となりのトトロ』の作者がサツキとメイの結婚相手や子供の数を頭に入れつつ、彼女たちの子供時代を描いたのと同じことが『幕末ドラゴン』の作者にも起きたのかもしれない。架がどんな相手とどうやって知り合い結婚したかという想定は当然おありなのだと思うし、架のことを先の先まで作り上げていらっしゃるのだろうと思うと、それはそれで興味深いし、ありがたい。いつか、吉高さんが造形された土岐架の人物像や、それを骨肉化した玉井詩織さんの土岐架について、どこかで教えていただけたらいいなと思う次第。

(あ、ついでにこの御仁がどこでどう絡んだかという点も含めて教えていただければ……笑)

玉井詩織さんのインスタ・ストーリー、6/6より
(土岐架演じる沖田総司?)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?