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安吾 風の館に行って来たの記

 2019年3月22日、祝日の次の日だったので、前から行ってみたかった安吾 風の館に行って来た。なぜ祝日に行かなかったのかといえば、祝日に休むのが嫌だというのと、3連休にしたかったからである。

 坂口安吾のことはブラウザゲー『文アル(文豪とアルケミスト)』で知った。
 元々読書は好きなほうだが、『文アル』を始めるまではドイツ・プロイセン史オタクをしていたので、伝記とかばっかり読んでいた。小中学生時代はホームズや半七捕物帳、司馬遼太郎を読んでいたし、高校時代は『空の境界』か、『ブギーポップ』シリーズや『文学少女』シリーズを始めとするラノベを読んでいた。ぶっちゃけ近代文学などは縁が無かったのである。
 しかし『文アル』で「新潟県出身の坂口安吾という文豪が実装されるらしい」と聞いたとき、同年代と比較して出身地への興味が強めなわたしは「これは是非読んでみよう」と思った。(もちろんキャラクターは実装されたタイミングで入手した。)
 正直、「坂口安吾を読もう」という気になったのは、たまたま行きつけの本屋で、当時未だ手拭い柄の表紙だった角川文庫の『堕落論』を手に取ったことがきっかけだ。
「そう言えば『文アル』で実装予定だったっけ……」
と思い、角川文庫のコーナーの前を通りがかったので『堕落論』の水玉柄の表紙を開いたのである。
 『堕落論』の先頭は表題作を差し置いて『日本文化私観』だった。読み始めて1ページ目で好きになった。特に好きなのは以下の文章である。

タウトによれば日本に於ける最も俗悪な都市だという新潟市に僕は生れ、彼の蔑さげすみ嫌うところの上野から銀座への街、ネオン・サインを僕は愛す。

のちに実際にブルーノ・タウトがそういったことを本当に書いたということを知るのだが、この文章のパワーでわたしは角川文庫『堕落論』を買った。精神的に参っていた時期は、表題作の『堕落論』にだいぶ助けられたのを覚えている。『不良少年とキリスト』にあったある文章はその後の人生の指針になったと言っても過言でないと思う。
 他の作品では『夜長姫と耳男』が好きだ。重たい、巨大感情のぶつかり合いがとても大好きである。特に大好きなセリフをここに挙げておく。

「エナコは耳男の耳を斬り落とした懐剣でノドをついて死んでいたのよ。血にそまったエナコの着物は耳男がいま下着にして身につけているのがそれよ。身代りに着せてあげるために、男物に仕立て直しておいたのです」

これを読んだ瞬間「ウワーーーーーー?!!」という叫びを上げるかと思われた程ゾッとした。わたしは学生時代に何かの文章を考える授業で、同級生に「感情表現が重たい」と言われた記憶があるが、このセリフのことを考えると絶対に、永遠に敵わないと思う。
 他には『アンゴウ』が好きだ。推理小説のような物語だが、謎が全て解けたときの感動といったらない。内容やあらすじを紹介したら(上手く紹介できるのかも疑問だ)面白さが半減すると思うので遠慮するが、とても素晴らしい物語だ。みんな是非読んでほしい。

 話を本筋に戻したいと思う。安吾 風の館に行ってきた。
 新潟駅万代口前からはバスが出ており、最寄りのバス停(西大畑)までちゃんと行けるので、遠方から来られる方も安心だと思う。交通系ICカードも使える仕様だ。わたしも初めて行くところだったのでバスを利用した。料金は210円なので、地元民的には普通の料金。
 駅前から最寄りのバス停へは約10分で着いた。目的地は閑静な住宅街とも言うべきところにあった。坂道の上にあるのだが、遠くには繁華街に建つ百貨店のマークが見えたのが印象的だ。建物は旧市長公舎とのことだが、なるほど、古いお屋敷みたいな感じがした。玄関の戸は昔ながらのガラスの引き戸で、開けるとガラガラッと音がする。思わず「ごめんください」という挨拶が出た。戸の音が大きいので、入ると玄関脇の部屋から係の人らしいおばさんが出てきて、施設のチラシや作品の紹介と年譜が書かれた紙を渡してくださった。ちなみに入館料は無料である。ぶっちゃけ不安になるのはわたしだけだろうか。
 玄関の真正面の和室では坂口綱男氏撮影の『安吾のいる風景』の写真展示がされていた。他にも3月なので雛人形の作品の展示があったり(これはもちろん坂口安吾とは関係ない)、多分坂口安吾を撮影した写真の中でも1番有名な、2年間掃除していない部屋の写真も展示されていた。テレビ番組や書籍でも観たことがあったが、近くで見てみると眼光がなお鋭い気がした。どうしよう、眼鏡の反射とかだったら。書いてて不安になってきた。でもあれは絶対眼光が鋭く写っていたと思うので、見る機会のある方は是非確かめてほしい。
 メインの展示室は玄関すぐの廊下の奥だ。行ったときの展示は『安吾って?! Part.1』だった。ホームページで『はじめて安吾にふれる人に向けて、安吾に関する疑問と驚きをお届けする展覧会』とされていた通り、安吾の人となりを紹介するような、初心者向けの内容だったと思う。家系図や名前の由来の紹介、デビューぐらいまでの紹介がパネルでなされ、愛用の品が数点展示されていた。愛蔵の書籍の中に江戸川乱歩の『幻影城』があったのが、個人的に興味深い。また、和室に展示されていた有名な写真の別の角度からの撮影されたバージョンが、でかでかと展示されていた。あれもまた眼光が鋭かったように感じる。みんな見てほしい。それにしても、タイトルに『Part.1』とあるし、一緒に紹介されていた年譜の長さの割には紹介のパネルの内容が物足りないので、また次もあると期待してしまう。
 ちなみに図録等は無い。展示室で出品目録が配布されているだけだった。文学館や博物館に行ったら図録等は必ず買い、お金をできるだけ落としたい人間なのだが、ここまで施設に落とせないとなると不安になる。大丈夫か?
 ところで、玄関脇の係のおばさん達の部屋の逆側の部屋には、坂口安吾がゴルフのスイングをしている写真が飾ってある部屋があり、窓に向かって設置してある机の上には他の施設のチラシと共に記念スタンプが置いてある。2種類あるので、押したい方は是非押すことをおすすめする。
 帰りは近くの繁華街・古町のバス停まで歩いた。古町に来ればバスもかなり便があり、食事が摂れる店もたくさんあるので、休憩にも良いところだ。けれどわたしはそれらを素通りして駅前までバスで帰った。展示が変わったら、また来ようと思う。

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