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よくある話なのだろうけれど

「30歳になってもお互いに結婚してなかったら結婚しようね」
これは私が言ったことで、相手の答えがどんなのだったか憶えていない。でも、おおむね同意だったのだと思う。

彼と会ったのは、予備校に通っていたときで、進学した大学は遠く離れていた。
大学の生活がはじまってからも、メールのやり取りをした。
大学1年生の夏休み、帰省した時期が合っていたから、彼と会った。
私は、とにかくずっと持っていられるものが欲しくって、でも何をもらえばいいのかわからなかった。
物を欲しがるのは、私の性質で、どの恋愛でもそう。
小さいものでいい。ビー玉とかでいい。

彼は夏休みの課題のために、図書館へ行きたいと言った。ついて行った。
私よりもずっと賢い学校へ進学したのだった。難しい本を読んでいた。

予備校のとき、彼は自分のことを、ある小説の、生きづらい不器用な男の子とそっくりだと言っていた。そう言えている時点で、どこかは器用なのだと思った。でも全部が好きだった。

夏休みに会い、何もなく別れ、そのあともメールのやり取りはあった。
でも、あちらが返してくれなくなって、やり取りは終わった。
私には彼氏ができた。
私は27歳で結婚した。

三日前に、ふと気になって、彼の名前を検索したら、彼の画像が出てきた。やっていることがだいぶ怖いかもしれないけれど、ごめんね。とにかく、彼の面影のある彼の今の画像が出てきて、どうやら仕事を一生懸命しているらしく、働き始めの、しんどい時は知っていたから、がんばってるんだなと、思った。
左手の薬指に、指輪があって、彼も結婚したのだとわかった。

今日の朝、目が覚めたら、直前の夢を憶えていた。
今の私と、今の彼が会うのだけれど、もう絶対に、あの頃には、予備校あたりの頃、そこには戻れないというのが、心に杭が刺さったみたいに、深く痛くわかって、それが悲しかった。





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