「丁寧に説明すれば分かってくれる」のワナ~網羅性と作業性~

会社に所属して年次が上がれば、後輩ができることもあるでしょう。そして、新人に仕事を教えることがあるかもしれません。
「丁寧に説明すれば、きっと分かってくれるはずだ。」

見込み顧客に営業をかけたり、知らないお客さんに商材説明をしたりすることもあるでしょう。
「丁寧に説明すれば、きっと分かってくれるはずだ。」

そう思っていた時期が私にもありました。
でも、そんなこと、ないですよね。

指導は網羅的に、回答はひとことで

基本的には、上記のとおり。

「初めて教えること」や「教える時間が、カリキュラムやオリエンテーションとして確保されている」という場合。ある意味では学校の授業を思い出してください。継続的に行ってもらう作業や社員教育などに関わる指導を行う場合は、体系立てて、網羅的に説明するのが良いでしょう。

一方で、「この作業のここが分かりません!」と部下に言われたら、あるいは「ここの意味が分からないんだけど、どういうこと?」と同僚や上司に言われた場合。そんなときは、ムダなことは言わず「このボタンを押せばいいよ」「この数値を参照しているんですよ」と、ひとことでバシッと答えましょう。

ホントは、手順ではなく構造を覚えてほしい

学校の授業でもそうですが、「なんでこんなに丁寧に、歴史とか背景とか教えるんだろう」と思うこと、ないでしょうか。

それには理由があります。

かつて、こんなことがありました。
私は、スプレッドシートとかを整理して、「データを貼り付けるだけでサマリーが作れる」とか、そういうものを作るのが好きです。自分が作ったシートを共有して、チームの作業がいい感じになると、めっちゃ脳汁が出ます。
いつものようにシートを共有して、使い方を説明したんですが……。

どうしても、シートをうまく使えない人がいました。その人は、問題が起これば「どうすればいいですか?」と質問もできるし、教えれば教えたことはできるようになります。でも、「このパターンの不具合ね。なら、このまえ教わったアレを応用すれば解決だわ」みたいな、応用がまったくできない人でした。
Aの問題で質問し、A’の問題で質問し、A”の問題でもまた質問し。
「それ、全部Aの応用でできるから!」と、思ったものです。
そうなってしまった原因は、手順で覚えていたからにほかなりません。

作業ベースの回答は、いつまでも何度でも教えないといけない
Aの問題が起こったとき、「このボタンを押せばいいから」と、教えるのがベストです。
『指導は網羅的に、回答はひとことで』の原則に従うのなら。

ですが、根本の原因は解決していません。すなわち、作業者が「網羅的に理解できていないこと」は、解消されていないのです。そのため、似たような問題であるA’やA”が起こっても、自力で解決できません。

ここでいう「Aの問題」とは、「セルが右に一つズレてしまった」のようなものです。「A’の問題」は「セルが下に一つズレてしまった」で、「A”の問題」は「セルが右に二つズレてしまった」です。
「この作業は、セルの基準点を合わせ、相対的な座標をもとに自動計算するのだな」と、本質的に作業を理解していれば、Aの問題を解決した時点で「A’やA”が起こっても、基準点を合わせれば解決できるな」と分かるはずです。

すなわち、「このボタンを押し、次にこのボタンを押す」といった「作業」ではなく、「このボタンを押すことで〇〇が起こる。ということは、次に△△が必要なはずだから、次はこのボタンを押すのだ」というように「構造」で覚えていれば、分からなくなったときにも問題を解決しやすくなります。

そして、ほとんどの人は分かってくれたのですが、何名か、何度説明しても、ついに最後まで分かってくれなかった人がいました。

「口頭の説明をメモらせるのって、実はめっちゃ不親切じゃない?」説

ですがここで、すべて口頭の説明で「構造の理解まで」してもらおうと考えていたことに問題があるのでは、と考えるに至りました。

「メモとれ」って仕事ではよく言うし、自分でもメモとっていたし、自分が説明しているときはメモとってほしいって思いますし、メモとってなくてミスったり分かんなくなったって言われると「おいおい、自業自得! 無能!」って思っちゃいます。

でも、メモとらなきゃいけないくらいの、そんな大事なこと、あらかじめまとめて、マニュアル化して渡しとくべきじゃない? と思います。
なんなら、自分が当時メモったやつ、コピーしてあげればよくない? と。

メモしろ! って、実は、教える側の態度として、めっちゃ不親切なのでは???
「メモらなくて困るのは、オマエなんだぜぇーっ!」ってことでしょ? 悪では???
やられたらムカつかない???

「丁寧な口頭の説明」が害になるとき

・人間の集中力は、最大でも15分しか維持できない
・興味がないことには、そもそも集中できない
・「興味をもて」という命令に従うのは不可能

人間の集中力の維持時間は、長くても30分が限界だといわれています。しかも、30分間ずーっと、最高のパフォーマンスを発揮しつづけるのは不可能です。だいたい15分くらい、最大のパフォーマンスを維持できればいいほう。体感は5分か、体調により3分くらいです。

そして、興味がないことは覚えられません。興味がないので。そして、「興味をもちなさい」と言われても、無理です。興味がないので。そして、多くの人は自分がこれから担うべき仕事に対して、積極的に興味をもっているとは限らないものです。

丁寧に説明することで時間がかかってしまうと、肝心の一番教えたいことを教えている最中に、相手の集中力がもっとも低い状態になっている、なんてことになりかねません。

特にそれが、口頭での説明である場合は集中力の低下が顕著です。メモとるにしても「聞く+理解する+記憶する+メモを書く」を、同時にやらなければならないので、脳にとって大きな負担になります。集中力が切れやすくなるのも、仕方ないことでしょう。

興味度で教え方を分けるのもアリか

興味がなければ集中できないこととまったく逆で、興味があることであれば、めちゃめちゃ集中力も続くし、メモもガンガン自発的にとると思います。

最近、導入しはじめているのが「相手の興味度に合わせて、説明を変える」という方法です。

『指導は網羅的に、回答はひとことで』
これを鉄則としつつ、興味度を加えて以下のように分類します。

・作業内容に興味がない人に指導する場合
・作業内容に興味がある人に指導する場合
・作業内容に興味がない人の質問に回答する場合
・作業内容に興味がある人の質問に回答する場合

作業内容に興味がない人に指導する場合
恐らく、もっとも難しいのがコレ。興味がないから集中してもらえない、だけど、なるべくなら網羅的に教えたいからです。

・参照できる事前メモや手順書を用意しておく
・ビジュアルを使って、文字情報ではなく画像情報で覚えてもらう
・実例や実作業をその場で体験してもらう
・説明する順番をあらかじめ決めておく
・理想の説明順は「目的」→「結果」→「手順」→「手順の詳細」

最低限、上記を用意しておきます。口頭だけの説明で構造まで理解してもらおう、というのは、説明者が不遜なだけです。これ以上は詰め込まないようにします。歴史的背景とか過去の担当者がどうだったかとか、そういう話はしません。

作業内容に興味がある人に指導する場合
「作業内容に興味がない人に指導する場合」と同じ内容に加えて、以下を追加で説明します。
・なぜこの作業をやるのか
・この作業がどのように活きるのか
・この作業を行うようになった背景

いくら興味があるといっても、全部を網羅的に説明するのは無理です。相手の興味度が高いようなら、第2回、第3回と何回かに分けて説明するのも良いでしょう。
網羅的に説明できると、相手の理解度が段違いに高くなり、作業の精度や粒度が上がります。質問や疑問の質も向上します。

作業内容に興味がない人の質問に回答する場合
基本に忠実に『ひとこと回答するのみ』です。
できれば作業ベースで。「右上の赤いボタンを押せばいいよ」とか「全部画面の数値をコピーしてから、値貼り付けしてね」とかです。

この場合も、「事前メモ」「手順書」「ビジュアル」をどこかにまとめて用意できていると重宝します。
「メモの3ページを見てください」「図2でいうところの〇〇です」といった、共通認識をもったうえでの説明が可能になるからです。

作業内容に興味がある人の質問に回答する場合
こちらも、『ひとこと回答するのみ』が基本になります。
作業内容の質問は大抵、けっこう切羽詰まってどうしようもないときとか、タスク途中とかに手を止めて聞くことになるので、長々と説明すると作業ミスにもつながりかねません。
基本はひとこと、もしできるなら補足的にもうひとことで終わり。ただし、そのあとに別の時間をとって、少し突っ込んだ説明を行うと良いでしょう。
興味がある人が行う作業への質問は、予期せぬ事態や例外処理への質問であることが多く、作業内容のブラッシュアップに対するヒントが隠れている場合もあります。
説明するだけでなく、対話し、こちらも教えてもらう、くらいの気持ちで臨むと、なんだかいい話とかが聞けちゃったりします。

ボドゲのインストと広告&営業に似てるなって思った

ボードゲームのルール説明に応用できる場面
私はボードゲームを趣味で行うのですが、ボードゲームのルール説明のことを、なんか「インスト」っていう文化があるんですよ。あの世界には。

この、「丁寧すぎるがゆえに集中力が失われてしまう」とかって、まんまルール説明で頻繁に起こることだよな、って思いました。

ボードゲームのルール説明には、「作業内容に興味がない人に指導する場合」の事例が活用できる気がします。
「説明を聞いてる時点でそのゲームに興味あるんじゃない?」と思うかもしれませんが、そうとは限りません。
聞いてみて判断しようという人、それほど乗り気じゃない人、いろいろいらっしゃいます。もっとも難しいパターンで考えとくと便利かなって思います。

ボードゲームのルール説明なら、必要なものがある程度はそろってる
・参照できる事前メモや手順書を用意する
→【説明書がある】
・ビジュアルを使って、文字情報ではなく画像情報で覚えてもらう
→【盤面がある】
・実例や実作業をその場で体験してもらう
→【盤面を使えばできる】
上記は、もうそこにあります。だから、用意すべきは以下です。
・説明する順番をあらかじめ決めておく
・理想の説明順は「目的」→「結果」→「手順」→「手順の詳細」
これも、ルール説明のやり方、みたいなのでいろいろ考察されています。ゲームの種類によりますが、だいたい、以下のような順が良い、とされています。

1.世界をひとことで紹介
2.何をすると勝ちなのか、何を目的とするゲームなのか簡単に紹介
3.いつゲームが終わるのか、どうなったら終了なのかを説明
4.個人ができることの概要を説明
5.個人ができることの詳細を説明
6.FAQを紹介し質問に答える

2~4の順番で多少のバリエーションがありますが、それほど大きく変わることはないでしょう。むしろ、ゲームによって説明順でしっくり来る来ないがあるので、2~4の順番を適宜入れ替えるといった対応をすることが、「説明する順番をあらかじめ決めておく」で行うべきことです。

食いつきがいい人がいる場合は、さらに追加で世界観の補足とか、このゲーム作者のあるあるとか、そういったトークをはさむと盛り上がるかもしれません。ただし、全員が興味をもってくれていないな、という場合には、興味があんまりなさそうな人を待たせないようにしましょう。

広告&営業に応用できる場面
先日、うちに営業的なものをかける人が来ました。とても丁寧に順を追って説明してくれて、正直説明はめっちゃうまいのですが、私の感情は以下でした。
「長い。で?」

興味がない相手に、丁寧な説明はまさに悪手。

そして、今回の丁寧か簡潔かの判断って、広告や営業の手法にそのまま当てはまるよな、って思いました。
「作業内容に興味がない人の質問に回答する場合」の事例が活用できる気がします。

「全然、作業の質問じゃないし、なんなら回答も関係ないじゃん」と感じるのも、ごもっともです。
ですが、人は常に、ニーズとウォンツをもっています。それに回答する、という形式を意識するのです。

回答を見せると質問が浮かんでくる
例えば、ひとこと「たった3ステップでメディア認知度アップ」とか「オールインワンの化粧ジェル」とかを伝えるとします。
すると、これを見た人は「お、そういや、オウンドメディアの集客が弱くて困ってたんだわ!」とか「あー、そういえば化粧品選びのめんどくささ、なんとかならないかな、って思ってたんだよなぁ」とか、思い出します。

すなわち、勝手に見せている広告や勝手に話している営業が、「オウンドメディアの集客を増やせないか」「面倒じゃない化粧品はないか」といった質問(その人が常にもっていたニーズ、またはウォンツ)を解決する回答になりえるのです。
回答を提示することによって質問を想起してもらう、という手法です。逆説的ですね。

ですが聞き手は、解決策がなんであるか、どんな構造であるかについては、まったく興味はありません。
だからこそ、簡潔に、なるべく『ひとこと回答するのみ』で伝えるわけです。
可能な限り簡単だと感じられるような、作業ベースで伝える点も同じです。「なぜ、これをすると認知度向上になるのか。それには、インターネット黎明期の歴史から振り返ってみねばなるまい。そもそも、軍用のイントラネットが……」みたいなお話は、不要なのです。

なお、回答を提示してもニーズやウォンツがマッチしていなかった人は、「そういえば!」とはなりません。ですが、そのような人はもともとターゲットではないので、問題ありません。

まとめ

・指導か回答か、興味があるかないかの4パターンで対応を決めよう。
・基本は、指導するときや興味がある人には詳しく、そうでないなら簡潔に。
・説明だけじゃなくて、似たような事例に応用できそうだよね。
・例えば、ボドゲのインストとか、広告とか営業とか。

実は最後にちらりと話した、「めっちゃ話がうまい営業さんが来たけど、全然買う気にならなかったよな、なんでだろうな?」っていう疑問からスタートして、この内容をまとめ始めました。
(↑もっとも不要な、この記事の歴史と構造のお話)

でも、なんか趣味のボドゲの話に無理やりくっつけたりしつつ、ちょっとだけ「うまい説明」に関する整理ができた気がするのでうれしいです。

この文章を機に、みなさんが説明するってことがうまくなったり、「なんであいつの説明はヘタなんだろう」ってことを分かったりして、いい感じになったら、さらにうれしいな、と思います。

(あんまり、いつもみたいなクリエイター向けの内容じゃなかったな。)
それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。
クリエイターじゃない人にも、なぜか良きクリエイターライフがあらんことを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?