意識高い系横文字はビジネス界の忌み言葉

忌み言葉とは

言霊信仰の一種であり、不吉なモノの名を唱えず、直接的な明言を避ける。そのために使われるのが「忌み言葉」です。

山に入ったら、「熊」と声に出してはいけない。「熊」のことを考えてはいけない。「熊」が現われるから。

「噂をすれば影」とは、「その人の話をしていたら、ちょうどその人が来た」みたいなことを指します(※1)が、似たようなものでしょうか。

ですが、神の名をみだりに唱えてはならないためにあえて子音が伝えられていないテトラグラマトン(※2)や、身近な例では「名前を呼んではいけないあの人(※3)」など、直接的にソレを示す呼び名を避ける事例は多々あります。

「境界」を明確にする役割がある

特に「山」のような我々が住む場所とは異なる世界は、人々は「異界」と見なして別の世界であるように扱います。
別の世界にいるのだから、別の世界の言葉を話すのだと。
山に入る猟師たちが使うマタギ言葉や山言葉などがこれにあたる(※4)でしょう。そうすることで、非日常の世界と日常の世界を区別しているのではないでしょうか。
同様に、海に出る漁師たちも沖言葉と呼ばれるものを使うそうです。

加えて言うなら、山言葉や沖言葉を平時に使うことも良くないとされているそうです。猟や漁に出ていないときには、使ってはいけないのです。なぜなら、日常と非日常の境界が曖昧になってしまうから。

不吉なモノを扱いやすくする

前述のもの以外では、死に関連する言葉は直接的な明言が避けられる傾向にあるでしょう。
貴人に対して使った「お隠れになる」や「去ぬ(いぬ)」のほか、そもそも「亡くなる」も直接的な表現ではありません。
ペットに対して使われる「虹の橋を渡る(※5)」という表現もあります。
そのほか、「遠くへ行った」「天に還った」「先にあっちで飲み会をしてる。俺もしばらくしたら行くわ」といったものも、ある意味では忌み言葉の一種ではないでしょうか。

共通認識が同じであることを確認する

  • 村に伝わる行事の最中は、酒のことを別の名で呼ぶ

  • 神様に名前があるが、言ってはいけない

  • この地域では〇〇のことを△△と言う

などなど。
忌み言葉に限ったものではないのですが、閉じられた共同体においては独自の言い回しが発展し、根づきやすいものです。
言葉づかいを聞いただけで、「その共同体に属しているかどうか」を確認できるという意味合いもあるのではないでしょうか。

意識高い系横文字はビジネスという異界で話される忌み言葉である

  • 「境界」を明確にする

  • 不吉なモノを扱いやすくする

  • 共通認識が同じであることを確認する

意識高い系横文字は、前述で確認した上記の忌み言葉の役割を担っているのではないか。と、いうのがこのページの主題です。

意識高い系横文字とは

ところで この動画を見てくれ こいつをどう思う?

後半、怒涛の横文字いじりがありますね。
「それはいいね!=アグリーです」て……。
意識高い系横文字とは、こういったものを指します。
それ、日本語で言えばいいのでは? みたいなやつです。

アサイン、アジェンダ、コンセンサス、コミット、スキーム、シナジー、プライオリティ、ハレーション……などなど。

アルファベットもありますね。
KPI、KGI、CVR、ASAP、PDCA、OODA……などなど。

ですが、あえて日本語で言える場面でも日本語で言わないのです。なぜなら、忌み言葉だから。

ビジネス横文字で「境界」を明確にする

1on1やキャリア面談で、上司から「キミはどうなりたいのかな?」「何がしたいのかな?」みたいな話をされること、ありますよね。

多くの人のホンネは「何もしないで、たくさん給料がほしいです! 責任がある仕事はしたくないです!」ではないでしょうか。

ですが、ビジネスモードの自分の口からは、なかなかその言葉は出てきません。
「KPIにコミットします!」
ほら、こう言えばホンネじゃないけど、心が痛まない!!!
ビジネスモードの自分なので!
家に帰ったら、ビジネス界から日常に戻って来たので「あ~5000兆円とは言わんけど、毎月500万円くれる石油王がほしぃ~」とか言うわけです。

言いにくい不吉な情報を扱いやすくする

「今のところ、目標達成していません。ですがやり方は見えて来たので、最終的には帳尻を合わせるつもりです。」
なかなか言いにくい報告ですよね。
しかもそれで怒られたら、まるで自分が否定されたような気持ちになるかもしれません。

そんなときは、こう言いましょう。
「KPIは未達です。エクスキューズですが、スキームは見えたのでKGIはコミットできます。」
さらに「プライオリティを上げてPDCAを回します!」などと付け加えておけば、なお良いでしょう。
言いにくい不吉な話もスラスラと言えます。たとえ怒られても、心からの言葉ではないので自分の心は守られる!

ビジネスに対する共通認識が同じであることを確認する

先ほど、動画を紹介する前にこう書きました。
”ところで この動画を見てくれ こいつをどう思う?”
これによって、読み手は書き手について、「ある特定の分野に関する知識があるのだな」と分かります。

ビジネスの世界でも同じです。

OODAじゃなくてまだPDCAなんだな、とか。
SEOとかKPIとかは分かるけど、ASAPは知らない感じなんだな、とか。
「フルコミット」とか言っちゃうタイプなんだな、とか。

ビジネスに関する認識がどんなもんかを探るのに、横文字の入れ具合と使い方で図るのがちょうどいいのです。

忌み言葉はコミュニティ運営に役立つ

忌み言葉は、最初は怖れ/恐れ/畏れに端を発していると思います。
ですが、文化として根づいて時代が進んでいくうちに、別の役割も担うようになったのではないでしょうか。
境界を明確にして「どういう場であるか」を整え、コミュニティ所属者たちに帰属意識を高めさせる。

都会で地元の人に会うと、思いがけず地元の方言が聞けてうれしい、みたいな……。
そんな感じ!
インターネットミームもTwitterトレンドや構文も、そんな感じ!
お、お仲間だな! と分かる。
忌み言葉は「言ってはいけない言葉を、それでもなお言わなければコミュニケーションが成り立たない」という場面で生み出されたものでしょう。
元々が円滑なコミュニケーションのためだったと言えば、別のコミュニケーションに関わる用途で活躍するようになったということも言い過ぎではないと思います。
だから、ビジネス横文字は忌み言葉だと言っても、言い過ぎではないのです(暴論※6)。

まとめ

意識高い系のビジネス横文字は忌み言葉である、ということについて話してきました。
だから、なんだという話です。

私のジャストアイディアにアグリーな方は、ぜひステークホルダーとコンセンサスをとり、ASAPでスキームをハックしながらビジネス横文字をグロースさせて意識をアップセルしてください。

【注釈】

※1:「その人の話をしていたら、ちょうどその人が来た」みたいなこと
あるいは、「俺って、霊感? 直感? みたいなのがあってさー。視線を感じて振り向くと、俺を見てる人と目が合うんだよねー。死角からの視線を感じられるっていうかさー」みたいなやつ。
アレは、「視線を感じて振り向いたとき、目が合ったことは鮮烈な記憶なので覚えているが、気のせいで誰とも目が合わなかったことは忘れているので、記憶に残っているのは目が合ったときだけ」という原理のようです。

※2:テトラグラマトン
YHWHやJHVHで表されるユダヤ教やキリスト教の唯一神の名前。子音が伝えられておらず、どう読むのか不明とされています。

※3:名前を呼んではいけないあの人
トム! トムじゃないか!
私は、ハリーが闇の帝王を「トム坊や」と呼んで煽るシーンが一番好きです。

※4:マタギ言葉や山言葉などがこれにあたる
アイヌ語圏との関わりも指摘されているようです。アイヌ語が一部まじるのだとか。
イヌ→セタ、水→ワッカ などは、アイヌ語とマタギ言葉が同じなのだそう。ってWikipediaに書いてありました!!!

※5:虹の橋
ペットの死と題材にした詩に由来するようです。
決して、「北欧神話のビフレストだ!」などと言ってはいけません。
なお、「虹が橋であり、異界(や、超常のどこか)につながっている」という話は比較的よくみられる民話のようです。
ビフレストも世界を渡るための橋ですし。

※6:カッコを使ったセルフツッコミ
これも、古代のインターネットミームの一種です。
(爆)とか(藁)とか(おい)とかですね。
なんなら「意識高い系」も一種のミームです。
というか、「ミーム」という言い方も自己言及的なミームです。
ミーミーだ。ミーミーが来る!(忍殺)

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