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カス嘘ASMRとかいう無量空処

僕は渋谷スクランブルスクエア65階のオフィスで働く25歳のコンサルマン。若手の頃から裁量権の持てる職場で毎日クライアントの要望に応え数字を伸ばしている。社会的貢献を果たすことで†圧倒的†になりたいんだ。

けれど、本当にこんな毎日でいいのだろうか?
働く。成長する。
働く。成長する。その繰り返し。
みんなは知らない、スキルアップの味。
パターン化された"スタートアップ企業"気持ち悪すぎるんだよ。もう全部飽きた。
ツイッターを開く。ん……なんだこのバズツイートは……?


こっ、これは……!?!???!!!
「カスの嘘を流し込まれる音声」……!?!??!!!
どういうことなんだ……?わけがわからない。何が目的なんだ……?その謎を解明するため、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった――。
(ネタバレ注意⚠️)





今日もお姉さんを待ちます。


僕は地方在住の高校生。部活に入らず、かといってまっすぐ家に帰る気にもなれない。なんてことない、普通の無気力な高校生さ。
ある日、なんとなく公園で時間を過ごしていた僕に謎のお姉さんが声をかけてきた。きっかけはそれだけ。
お姉さんはいろんなことを教えてくれる。別に会話をするわけじゃない。ただ、一方的にお姉さんの方から話しかけてくるだけ。僕の方から何か話すことはない。けど、そんな時間がどことなく心地いい。


今日も僕は、お姉さんに会いたくて公園へ向かい、いつものベンチに座る。


「や」
「ここ、座っていいかな」

来た。お姉さんだ。僕はうなずく。


「ありがと」
「よい……しょっと。」
「今朝はすごい雨だったね」

え……?全然快晴だったけど……

「そう?うちの近所は雷も降って大変だったけどな」

そうなんですね。大変だったんだ。

「どう?学校の勉強にはついていけてる?」

まあ、ぼちぼち。ですかね。

「それはよかった」
「お姉さんこう見えても家庭教師の資格もってるから、勉強で困ったときはいつでも相談してね」
「歴史とか得意だよ。徳川将軍も、第31代まで全部言えるし」

そうなんだ。家庭教師の資格持ってるってすごいな。僕とは違って、ちゃんと勉強してきたんだろうな。僕なんて、徳川将軍は第15代までしか知らないよ。

「そういえば、この間神社に参拝してきたんだ」
「お参りすると『◎(二重丸)』をきれいに描けるようになる神社の一つなんだよ」
「学校の先生が行くところなんだけど、私、家庭教師やってるから」



……ん?
『◎』がきれいに描けるようになる神社ってなんだ?普通に練習しろよ。絶対そんな御利益あるわけないんだから。


「もしかして御利益とか、あんまり信じてないタイプ?」
「あのね、全国のパワースポットは消費者庁の管轄下にあるんだよ」
「パワースポットの御利益が嘘だったり、不利益を被った時は消費者庁の消費生活センターからクレームを入れることができるから、覚えておくといいよ」


え、そうなんだ。結構ちゃんとしてるんだな。
やっぱりお姉さんは物知りですごいな。ちょっと嘘も交じってる気もするけど、一緒にいると居心地がいい。



~~~~♪(夕焼けチャイムの音)



「あ、もうこんな時間」
「暗くなってきたし、そろそろ帰らないとね」


もうそんな時間か。時間が経つのもあっという間だ。
僕はここでお姉さんと別れる。こんな毎日が、ずっと続けばいいな。




突然の別れ


今日もお姉さんと公園であって、いろいろな話を聞いた。今日はアルバイトの話をいっぱいしてくれた。

蜂蜜はストローで飲むと苦くなるが、居酒屋でバイトをしていた頃、そのことを知らずにはちみつレモンをストローで提供したら店長から怒られた話。
段ボールにバーベキューソースを塗ると、化学反応が起きて固くなるから、焼肉屋さんでバイトしてた頃はビールのポップ広告を補強するのに応用してた話。
日本パフェ協会がパフェの層ごとの厚さを厳密に決めており、協会のルールに違反したパフェを提供してしまうとパフェ販売の権限を剥奪されてしまうため厳密に作る必要があったっていうファミレスバイト時代の苦労話……………。
どれもこれも面白かった。



「どう?」
「バイトに興味出た?」


いや、面白そうだなとは思ったんですけど。僕にはまだ早いかなって。


「そっかぁ……」
「まあ、無理にしろとは言わないけどさ」
「君にはもっとたくさん、自分の居場所を見つけてほしいよ」


どうしたんですか?今日のお姉さん、なんかちょっと変ですよ?


「へ、へん?そうかな」
「あー……」



「分かっちゃうか」
「実は…今日でここに来られるの、最後なんだ」



そんな……
どうやら、お姉さんは引っ越してしまうため、もう会えないらしい。嫌だ!そんなの絶対に嫌だ!


「そろそろ行かなきゃ」
「ここで君と過ごした時間のこと、忘れない」
「それじゃあ……また、いつか」



行かないでくれ!!!!お姉さん!!!!!!




無敵



次の日、お姉さんのことが忘れられずに、いつものベンチへ向かってしまった。
もうお姉さんとは会えないんだ……信じられない。けど、しょうがないことなんだ。受け止めるしかない。
ここにいると、お姉さんと一緒にいた日々を思い出す。名前も年齢も何もわからなかった。けど、忘れない。僕の大切な思い出だ。もう戻れない、青い春。だからこそ、かけがえのない時間だったのだと実感できる。






「や」











「どうしたの?そんな顔して?」





…………………………は?
偽物?他人の空似?
違う……!!まごうことなき、本物!!



「え?引っ越し……?」
「誰が?君がするの?」
「私が……?」
「いや……そんなこと言ってないけど……」



いったい何がどうなってるんだ?
頭がおかしくなる。僕の脳内に溢れ出した、お姉さんとの日々。じゃあ、さっきまでの感情はマジでなんだったんだ?



「あのね、ちょっと聞いてほしいんだけど」






「あそこに電信柱があるでしょ?電信柱ってよく見ると太い釘みたいな棒が何本も刺さってて、あれって工事の時に電信柱に上るためのものなんだけど、あの棒の生成ってランダムだから、たまにボルダリングみたいになって大変なんだよ。八ツ橋は本来鍋に入れて少しふやかして食べるもので、お菓子としてそのまま食べるのは観光客が始めたことなんだよ。モナリザは縦4mあるんだよ。モノレールは緊急時に足漕ぎで進めるようになってるんだよ。塩味の歯磨き粉って麻薬探知犬が間違って反応するから、税関で引っかかっちゃうんだよ。だから旅行には持って行かないように気をつけてね。千利休はノンカフェインのお茶も淹れることができたんだよ。オリーブオイルは牛からもとれるんだよ。もちろん、オリーブほどじゃないけど。テーブルの上の味噌汁がスーっと滑ることがあるけど、お麩を入れると滑らなくなるんだよ。 天狗は肘が弱点だよ。明治時代には学生の間で豹の刺青を入れるのが流行ったんだよ。来年の冬までには、卒業の卒に草冠が追加されるらしいよ。………」






情報がいつまでも完結しない……!?いつまでもカスみたいな嘘を流し続けられる……!?
なんだ……これは……?
じゃあ、なんすか?お姉さんはずっと僕にカスの嘘をつき続けてたってことすか?
これまで語ってきたしょうもない雑学は嘘。別れ際の言葉も嘘。あの言葉もしぐさも全部嘘。
嘘。嘘。嘘。嘘。嘘ばっかりだ。



「ふう……すっきりした……」
「まあ今日はこんなもんかな」


「君には“家族を大切にしろ”とか、“いろんな人と知り合え”とか言ってるけどさ…」
「実は私も、こんな風に好きに話ができるの、君と一緒にいるときだけなんだ」
「それじゃ、また明日。ここのベンチでね!」



嘘なんだろうか。
こんなカス嘘をつき続けられるのは、僕だけだって。
それも嘘なんだろうか。
明日もまたここのベンチって。
それは本当なんだろうか。
分からない。もう何も、分からない。

普通に信じられない。引っ越してもう会えないって嘘。普通つくか?年齢は聞いたことないけど、どう考えても成人してる雰囲気なのに。ライン越えだろ。
もう関わっちゃいけない。あんなクソ女とは。本能でわかる。





なのに、僕はきっと明日もこの公園に来るだろう。


なぜなら、
眩暈がする程、『U R MY SPECIAL』








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