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Never Never Fear 東京公演


マイクスタンドの真正面、ステージ中央に記された"バミリ"が目の前にある。
手を伸ばせば届きそうな距離。
マイクに乗せないように配慮された小さな咳払いも、微かな息継ぎも聴こえる。


私の席は最前列のど真ん中だった。

開演前、ステージは緞帳で覆われ、始まるまでセットは見えないようになっていた。
私の視界には赤い幕しかない。
目の前に誰もいない。
何にも阻まれることなく、遮るものもなく、クリアな視界であべまを観ることになる。
重厚感のあるこの幕が開いた時、どんな気持ちになるのか想像も出来なかった。


18時を少し過ぎた頃、会場は暗転し、ゆっくりとその幕が中央から開かれていく。
まず見えたのはドラムの関口さんだった。
バンドメンバーが各々の立ち位置で手を振ったり、拍手を促す中、ステージ右側に置かれたキーボードの前にあべまは立っていた。

幕があべまを手放した瞬間、会場からは悲鳴が上がる。

少し微笑んだあべまがキーボードに手を添えるとざわついていた会場が一瞬で静まり、その声に耳を 心を 全身を預ける。

この瞬間が阿部真央のライブならではの緊張感だと思う。
高揚感を必死で抑え、歌を聴く姿勢に入る。
背筋を伸ばして、固唾を飲んで見守る。
その固まった体を一瞬で解きほぐすように「My hair you liked」からNever Never Fearは始まった。

安らぎで会場を包む今までに無いスタート。
あべまのやりたい音楽が詰まったライブになると確信した時間だった。

次にセンターマイクへ移動し、煌めきを引き連れて「Just be alive」へ。
あまりに真正面にあべまがいるから気が動転していてこの時の記憶があまり無い…

そんな中、ハンドマイクに持ち替えたあべまがステージギリギリまで前に来て、正真正銘、"目の前"で歌い出した。
真正面にはあべまの足元。
チャコールブラウンのエナメルパンプス、少し赤くなった足の甲。
ボトムの裾、レースが少しほつれていた。
そんなものまではっきり見える。

顔を上げると、嘘みたいな距離であべまが歌っている。
大好きでたまらない人がそこにいる。

もう息が止まりそうだ。感動で頭が追い付かない。

"もしも君に私が見えて この歌声が届くなら 伝えたい"

この時、あべまが体を屈めて私目掛けて手を伸ばしてくれた。
はっきりと私の目を見ていた。
いつもは目が合った「気がする」だった感覚も、今回ばかりは確信を持って言える。
偶然だと思うけど、歌詞とリンクするその瞬間に。

体感30センチ。
貴方の顔がはっきり見えて、その歌声がしっかり届くこの場所で。

まるでその場に縫い付けられてしまったかのように、身動きが一切取れなかった。
今起きたことを確認するように頭の中で自分に話しかけるも、応答がない。
思考回路がショートするってこんな感覚なんだ。
"あべまがわたしをみた"
これだけが体中をループしていた「Be My Love」。
一生忘れられないあの目線。あべまの丸い瞳の中に私が居た。

3曲目にしてもう腰が抜けそうな程、贅沢な時間を味わえた。

そしてセンターマイクへ再び戻りギターを抱えるあべま。
軽快にかき鳴らして始まった「世界はまだ君を知らない」!

新年度が始まる4月1日、2日と行われたこのツアーに相応しい一曲。
今さっき起きた衝撃でもう胸がいっぱいなのに、「がんばーってるぅ⤴︎⤴??」と客に声を煽ぐあべまの声を久しぶりに聴けて涙が溢れた。

待ってました、と言わんばかりに「君が好きだ!」と応じる会場。
みんなの声に押し潰されそうだった。
背中にものすごいエネルギーを感じ、これら全部をたった一人で受け止めるあべまの包容力を垣間見た瞬間だった。

この高揚感をそのまま維持して始まった「ふりぃ」。
「やっと声が出せるねー!!」とどんどん煽るあべま。

前回の名古屋公演ではあべまもファンも突然の声出し許可に涙と混乱と感動でふわふわしていたけど、今回は声が出せるとわかった上でのライブ。
また違ったパワーがそこには溢れていた。

「聞かせてください!!」
太く響く声に煽られてもう体がどうなってもいいと思うくらい飛び跳ね、腕を上げ、声を出した。
ギターを前後に、首を上下に振って会場を操るように叫ぶあべまが目の前にいるから。
もう何度も言うけど、目の前にいたの。笑
あべまに全身全霊で愛を伝えるには打って付けの席だから、自分がもうすぐ32歳になることを忘れて10代の頃のようにはしゃいだ。

そんな昂ったテンションを落ち着かせるようにアカペラで「for ロンリー」を歌い出すあべま。
アカペラ部分を歌い上げるとギターを軽く叩いてカウントを取る。
それからバンドが加わる一体感が圧巻だったからか、静まった会場にコツン、コツンと響いたボディの音がやけに印象的だった。

この日あべまは花粉に喉をやられていたみたいで、いつもより声が出にくそうだったけど、その枯れた声のせいか低音がいつもより分厚く聴こえた。
for ロンリーなんてまさにピッタリで、本当に男性が恋人を想って切なく歌い上げているようだった。

"大半が下らない すれ違い 思い合うが故の憂さ"

この後、一瞬音がなくなる隙にもコツンと一回ギターを叩いて次のフレーズを歌う。
CD音源には無いこのライブならではの音、動き。
ここだけやたら鮮明に覚えている。
ピックを持った手でボディを叩く姿が熟した果実のように鮮やかで見惚れていた。

そして「じゃあ、何故」に続く。
この流れで会場が一気に12年前に舞い戻ったようだった。
もうそんなに経ったことが信じられないほど色褪せない名曲。
みんなの青春時代に阿部真央がいた。

"君は僕が好きじゃないだけだ"
"君が好きなのは僕じゃないだけだ"


泣き叫ぶように歌うあべまの表情に胸ぐらを掴まれるようだった。

そしてギターを降ろし、少し水を飲んでから軽やかなメロディと共に再びあべまが目の前に来る。
また触れられそうな距離に…!

満面の笑みで「それぞれ歩き出そう」を歌い始めた。

ここでもあべまが体を屈めて、今度ははっきりと力強く指差してくれた。
中央にいる私から順番に左右へ一人ずつ。
また見てくれた……
なんだ今の熱い視線は……
どうしてこんな胸がいっぱいになるのか。
最前列だからもうそれだけで昂るのは当たり前だけど、不意にあべまの視界に入り込んだわけではなく、あべまの意思でこっちを見てくれて、更に手を伸ばしてくれたことが、いつも抱く「目が合った」以上の感動を産んだのだ。
もうここでライブが終わってもいいと本気で思っていた。笑
それだけ胸がいっぱいで苦しいくらいだった。
息の仕方も忘れてしまうほどに、たった一瞬向けられた視線に吸い込まれる。
あべまのファンで居続けて本当に良かった。
人生の半分近く応援しているからこの喜びは尚のこと。
昔の私に教えてあげたい。
もうちょっと頑張って生きてたら、嘘みたいな奇跡いっぱい起きるよって。


会場があったかい雰囲気に包まれる中、バンドメンバーが一旦捌け、ギターを抱えたあべまが一人残る。

「今回のアルバムは家族をテーマに作りました。今のは母親へ向けた曲だったけど、次は息子が生まれた時に書いた曲をワンフレーズだけやります。」

「今の私が歌ったら響き方も聴こえ方も変わるんじゃないかなと思って。」と、歌い出すよう構えたかと思ったら、「いい曲だよ笑」とニヤリとしてからギターを優しく奏で始める。

「背中」だった。

当時は少し不安も残るように聴こえた「母になる」顔のあべまから、包容力と愛情が積み上げられたことを物語るように「母になった」顔で歌うあべま。
曲紹介で言っていた通り、リリース当時とは聴こえ方に変化を感じる。
「貴方」の母親になったことを心から感謝しているように見えた。

私の母も私の柔い背中を見てこんな気持ちを抱いてくれたのだろうか。
そう思ったら涙が止まらなくて、この日初めて私の視界を遮ったものは紛れもなく自分の涙だった。

静まった会場にギターのワダケンだけが戻る。
この時もう覚悟をしていた。

次は「とおせんぼ」だ。

蓋をして、閉じ込めて、無かったことにしていた気持ちを見つけてくれた曲。
何年も絡まったしがらみは鉛のように重く、思想を真っ黒にする。
私は、自分の幸せに勝手に限界を決め、自分の首を自分で縛り続けていた。

"求めなければ寂しくもない"
まさにそう思いながら私は大人になった。

CDで聴くだけでも心がはち切れそうになってしまうのに、ライブで、しかもこんな席で聴くことになるなんて、覚悟していないと身が持たない。

あべまの歌声と共に、蓋をしていた記憶を辿る。
帰りたくなかったあの家にあべまが手を引いてくれているようだった。

私の母は子どもみたいな人だったから、私と兄は大人になるしかなくて、「今から死んでくる!」と泣き叫ぶ母親に「そんなこと言っちゃダメだよ」と宥めるのが小学生の私の役目だった。
そんな関係はもちろん歪み、気付けば20年以上母と目を合わせられずにいた。
恨み 蔑み 憎んでる方が楽で、「お母さんが好きだった」というこの気持ちにずっと蓋をしていたけど、それを開けてくれたのがあべまだった。
そこに触れるのはもうものすごく痛くて苦しくて、気付かない方が良かったとさえ思った。アイデンティティが崩れるから。
乗り越えないでほしいと叫ぶのは必死で生きてきた胸の中にいる当時の私だろう。

でもあべまが開けてくれたから、その純真無垢な言葉を信じて、自分で決めた限界を壊してやろうと思った。
今のあべまが本当に美しいから。
不思議とリンクする彼女との歩みに何度も勇気を貰ったから、未熟だった両親を認め、心から許したかった。

最近のあべまを見ると、「宇宙兄弟」のある台詞をよく思い出す。

『人に見られる事をするには見えない踏ん張りが必要なの
苦しくて 苦しくて大変な演技ほど美しく見えるの』

今のあべまが過去のどの時よりも輝いて美しく見える訳はこれだと思う。
人知れず踏ん張って、苦しみに耐え抜いて、与えられたものや求められるものを壊してきた結果が今の阿部真央だ。
月並みな言葉で表すのが申し訳ないけど一皮も二皮も剥けた今のあべまは本当に凛として美しい。

私もそう在りたくて、苦しいけど自分の中に眠る核に触れられた。
本当はこんなこと誰にも知られたくないけど、愛情たっぷり育てられたと言いたかったけど笑、こんな過去もまたあべまの曲に心酔できる大事な私の歴史だ。

あべまが、幼い頃に離婚した両親を想って当時の気持ちを呼び起こした時、どれだけ痛い思いをしたか環境は違えど私にはわかる気がする。
だからこそ余計に、"とおせんぼを少し許して"と唄い震える声、歪んだ顔、控えめに前に出した両手がこの心を掴んで離れない。
今にも壊れてしまいそうな儚さ。
大人に気を遣ってきた優しい幼女がそこにいた。
切なさと安らぎを運ぶノスタルジックな世界観に呑み込まれていた。

どっぷりと浸かったこの世界からまだ抜け出せそうにないと再び覚悟したのは、続いて歌われたのが「Sailing」だったから。

ボーンと反響するように鳴るピアノの音と共に、「とおせんぼ」からここまであべまが貫いたピュアな愛をまざまざと見せつけられる。
あべまの内側に脈打つものをこんなにも見られるなんて。
底知れぬ表現力にただ脱帽する。
私は凄い人を好きになった。
この想いが何度、自分に自信をくれただろう。
何度も間違えてきたけど、あべまを好きになったこの感覚だけは正しく、そして誇らしく思える。
最近は「Sailing」を目の当たりにする度にそう感じている。

次にキーボードへ移動し、あべまのピアノソロ。
新鮮な景色だった。静かに切なく奏でていく。
「Who Am I?」を彷彿とさせる演奏だったけど始まったのは「Don’t you get tired?」だった。
これもまた掠れた声が相まってすごくかっこよかった!
鋭い低音が胸を貫く。
音がどんどん重なり厚みを増す中、照明があべまをかたどるように色付いた。
演出全体でサビを盛り上げ、ステージにいるあべまが宙に浮いてるように見えた。

そんなバンドと光とあべまの歌声に酔いしれていると、シンバルがパーンと弾ける。

まさかの「immorality」!!
何か憑依したかのように手拍子を促すあべま。
会場が一気に熱くなるのを感じた。
"愛していない 愛していない 愛していない"からの照明は圧巻。
無数のシルバーの光が暴れ回る。あべまも頭を振り乱して音に身を委ねる。
「この時間だけここをダンスフロアにしてほしい」
武道館の時の声が頭をよぎった。

興奮冷めやらぬまま、続いて歌ったのはなんと「春」。
もうこんなの誰にも予想できないよ、、
あまりに怒涛の流れだったから「最高、最高、最高」と思わず声に出して連呼し、ガッツポーズしていた。笑

「春」
この言葉から連想される多くの淡い期待を裏切るような、赤黒い感情が激しく渦巻く悲しい曲。
11年前、高く結ったポニーテールを振り乱し歌うあべまと、短く切り揃えた金髪を揺らす今のあべまを照し合わせるように聴いていた。
こんな痛々しい感情を曝け出して歌う姿がまた見られるなんて。
息苦しそうに、傷口を自らこじ開けるように歌う姿に目を奪われる。
若さ故の恋愛の苦味を切実に言い得た表情だった。
もうこんな思いをすることはきっと無い(と思いたい!笑)けど、あの時の幼さや愚かさが私を大人にしたことに想いを馳せていた。
あべまの曲と共に歳を重ねてきた喜びを実感する。
まるで周年の記念ライブのような体感だった。

「もう少し体を揺らして楽しみましょう」
「みんながどんな風に体を揺らすのかここから見ようと思います♪」と言って始まったのは「I Never Knew」。
楽しげにあべまは歌うけど、私はこれを聴くといつも胸が締め付けられる。
あべまが自分を壊してきた背景が詰まっているように感じているから、この日も涙無しでは聴けなかった。
ステージ前方に出てきてステップを踏みながら観客へ様々なアプローチをするあべま。
この時もまた目を合わせてにっこりと笑ってくれた。。

肌の質感、左腕のほくろ、ボトムのレースから透けて見える白い足、広く開いた胸元はハイライトに汗が混じったのかキラキラと発光している。
画面越しでは伝わらない、目の前にいるあべまの人間らしい姿。
フィルターも介さずダイレクトにくるそれらに、ただ立ち尽くし見惚れていた。
まるで子どもが初めて与えられた絵本に夢中になるように。


"面倒な嘘も 要らぬ遠慮も 愛受け取ること怖がる癖も そんな自分も許したいと思う"

そう歌いながら自分を抱き締めるようなジェスチャーをした姿に涙が溢れる。
弾けるように笑うあべまとは裏腹に私はひたすら泣き濡れていた。

続いて、「新曲やります♪」とツアータイトルにもある「Never Fear」を披露。
「サビのダンスは恥ずかしいから小さくやります笑」と言って観客を笑わせ、宣言通り、パワフルな歌声に反して控えめに踊っていた姿がいじらしくてキュンとした。

会場が明るくなるとバンドメンバー全員の顔もよく見える。
みんなが口角をニッと上げ、あべまを見守る穏やかな空間がとても優しかった。
キーボードのミトさんとドラムの関口さんはライブを通してずっと笑顔だったのが特に印象的だった。
あべまはもちろん、バンドメンバーもこの場を楽しんでいることがよくわかる。それはもう良いライブになるのも当然だと思った。

そして「READY GO」へと続く。
何かが見えてるかのように視線を一切そらさず、一直線を見つめて歌うあべま。
最前列、マイクスタンドの真正面にいる私にはあまりにも迫力がありすぎた。
この曲に込められたメッセージが一言一句そのまま胸に突き刺さる。
タオルを握る拳に思わず力が入っていた。

そんな体が緩んだのは、「まだ僕は生きてる」のクラップ音が聴こえてきてすぐのことだった。
バンドメンバーが手拍子を促し、会場が一体となる。
ステージ右袖にいたマニピュレーターの前田さんも両腕を上げ、少し体を左右に揺らし手を叩いているのが見えた。
反対側を見ると袖にいたスタッフさん達もみんな笑って手を叩いてる。
ああ、本当にこの場にいる全員があべまの声に身を委ねているんだ。
そう実感して多幸感溢れるこの瞬間を丸ごと記憶すると、この時心に決めていた。
この席じゃないと見えない景色。
私が見た阿部真央のライブの最高の瞬間。

"今が最低だと思うのなら 今こそ周り見渡す"

こんなリズミカルで楽しげなメロディに、あべまは苦しさから抜け出すヒントを紡ぐ。
あべまのこういう音楽にきっとここにいる全員が救われてきたんだろうな。あべま自身も含めて、全員。
そう感じられる程の一体感だった。


そして次に歌われたのは「Believe in yourself」。
この日は何度も周年ライブを彷彿とさせる瞬間があったけど、この流れはもう、まさにそれだった。

あべまが一節「Oh~~Oh~~」と歌い上げるだけで、力が漲る。
この感覚にいつも鳥肌が立つ。
歌詞のない、いわゆるフェイクにまでこんなに気持ちを乗せられるって一体どういうテクニックなんだろう、、
思わずそんな野暮なことを考えてしまった。
あべまの歌は言葉にならない「Oh」や「Ah」にも強さ、弱さ、らしさ、切なさ、愛や嫌悪まで込められているように思う。
そういう曲が幾つもある。
Believe in yourselfの出だしの一節はその中でも群を抜いてパワーのある「声」だと感じていた。


会場の熱気が最高潮に達したところで、「次の曲で最後です。」と言って「Not Unusual」が始まった。

用意された椅子に座ろうとはせず、立ちながらキーボードを弾き歌っていたのは、きっとずっと立ちっぱなしのファンを想ってのことだろう。
あべまのそういうところが好きだ。

もうこの頃には喉の不調なんて忘れるほど、張りのある伸びやかな声がよく出ていたけど、この時もまた低音がより力強く、色濃く聴こえ、後半の高音とのコントラストが際立って全身に快感が走った。


そして、あべまとバンドメンバーはステージを捌け、会場は暗転。
すると、不揃いに鳴る手拍子を遮るように始まった「あべま!おー!」コール。
久しぶりの阿部真央ライブのアンコール。

まだまだ終われるわけがない。

その気持ちに応えるように、あべまとバンドメンバーはグッズのロンTを着てすぐに再登場した。

「アンコールありがとうー!」
「じゃあもう少し歌います♪」

アンコールの一曲目は「どうしますか、あなたなら」
次は「モットー。」だった。
新年度にぴったりの応援歌が多かった今回のツアー。
どこまでも勇気をくれて、そして寄り添って、最後には必ず背中を押してくれる。
そんなセトリだった。

声が出せるようになってから初めてのモットー。
会場中、エネルギーが満ち満ちていた。

「自分を知らんぷりするのは楽だけれど???」

久しぶりに聴けるあべまの煽り。
日々の鬱憤を吐き出すように全員で叫んだ「違うだろ!!!」

あー、ずっとこれがしたかったんだー!
あべまのパワーに引っ張り上げられるように声高々と熱唱できる。
最高に幸せだった。

我を忘れて飛び跳ね、声を出し、やり切ったと思えるほどもう楽しくて仕方なかったけど、アンコールはまだ終わらない!

なんと、「I wanna see you」で締め括る。

自分のどこにこんな体力が残っていたのか、アイワナが鳴ったら不思議とまだ飛べる。
もうすぐこの幸せな時間が終わってしまうことを噛み締めながら、笑って泣いて「Oh!Oh!」と歌っていた。

「今日は本当にありがとうございました!」と、再びあべまとバンドメンバーが捌けるも、もちろんまだまだまだ帰れない。

待ち望んでいる曲があるから。


今度は数量限定のパーカーに着替えたあべまが一人で登壇。

「ダブルアンコールありがとうー!」
そう言うとすぐに観客から「パーカー可愛い!」「欲しかったー!」と声が上がる。

「そうだよね。物議を醸したこのパーカー、買えなかった人ごめんね。」と、再販のお知らせがすぐにできなかった旨を話し始めた。

「さらっと言うけど、私、独立するんですよ。笑」
「正確には、今日、4月2日。独立したんです!」

会場からどよめきや、祝福の声が上がる。

「ありがとうございます。だから、権利とかいろんな問題があって再販するとかすぐ言えなかったんですよー!」

ファンになるべく心配かけさせないようにする為か、笑いながら、とても軽いテンションで独立を発表したあべま。
予想外の話にもうパーカーの事なんて正直入ってこない。笑

「独立」
その単語で私の頭はいっぱいになっていた。

「音楽コンテストでヤマハさんが見つけてくれてデビューに至って、今こうしてみんなと出会えているから本当に感謝している。」

「15年を経て、卒業って気持ちかな。」

「今からそのデビューのきっかけになった曲をやります。」

そう言って「母の唄」を披露する。

あべまの清々しい表情は、決断したその先を物語っているようだった。
この日何度も抱いた記念ライブのような感覚は、あながち間違ってはいなかった。
あべまにとって記念すべき日だったんだ。
随所に散りばめられたエールはあべま自身にも送られるものだったのかもしれない。

阿部真央の終わりと始まりの歴史的瞬間をこの特等席で味わえる充実感を胸にしっかり抱き留め、いつも以上に心して聴いた母への愛。

まるで自分だけに歌ってくれていると錯覚するほど、ギターを叩く手が真正面に見える。
いつも聴くそれとは比にならないほどビリビリ痺れる。苦しいくらいに痺れる。
感無量だ。
これ以上の喜びは無い。
心からそう思った。

最前列のど真ん中。

すごい席を引き当てることが出来たのは、何度打ちのめされても心は折れずに生きてきたご褒美だと思っている。

生きてて良かった。

この先行く道ももう決まっている。
迷うことなく軽やかに第二章を歩んでいくあべまの背を追いかけ、支え、守り、愛していく。

幾度となく勇気をくれたその背中を、今度は私がそっと押してあげるんだ。

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