深夜の吐露

 昨夜1時頃、深夜にも関わらず私はスポンジ片手に台所に立っていた。何故か。理由は明確で、私のとある悩みを解消するためである。あまり詳しく書くと身内に非難されそうなのだが引越し時にどうせバレるので、書いたとしても何ら支障はないだろう。
 実は台所の流し台の錆が、かれこれ二年以上落ちないのだ。地味ではあるが深刻な悩みの一つである。皿や手を洗う度にきったない錆が視界に入り、否応なしに私のテンションは急下降する。気分が落ち込んでいる時などはもう最悪で、錆を見ただけで涙が出そうになるのだ。錆に左右される私の情緒の脆さも深刻だが、どれだけ擦ろうともとにかく落ちない錆のしつこさも同様に深刻である。
 劣化による僅かな錆なら致し方ない。だが哀しいことに、我が家の錆は家主である私の怠惰で形成されたものなのだ。というのも、二年程前に、水切りのトレー部分を無くし(気がついたら無くなっていたのだから何とも不思議である。)代用品としてアルミ製のシートを敷き、その上に水切りを置いていたわけなのだが、そのシートに水が滲み、流し台に張り付ききったない錆が出来てしまったのだ。
 インターネットで調べたところ、クエン酸と重曹を混ぜてスポンジで擦れば簡単に取れると書いてある記事を見かけたので速攻で百均に行き道具を買い揃えチャレンジしたわけなのだが、いくら擦れど量を増やせど錆が落ちる気配はなく、スポンジと錆が奏でる不協和音が耳にこだまし、私は手を止め諦めた。
 それから今の今まで、錆に情緒を左右されながら生きてきたわけだが、もう一度試したら取れるのではないだろうかという期待が突如浮かび上がり、深夜にも関わらず私は台所に立った。
 適当な量の重曹を吹きかけ、その上から粉状のクエン酸を振り掛け数分放置。今日は諸事情で元々テンションが低かったのだが、憎き錆を見た瞬間、苛立ちやら哀しさに拍車がかかり膝から崩れ落ちそうになった。
 放置している間、琉球音楽をYouTubeで聴いていたのだが、どれだけ気分が下降していたとしても、琉球音楽を聴けば不思議と気楽になれるというプチライフハックを見つけた。錆で落ちたテンションを琉球音楽で取り戻した奴などこの世で私しかいないだろう。自分の情緒が心配である。
 沖縄の青い海と空、陽気な島人が頭に浮かび上がり気分は上昇。いざ錆を落とそうとスポンジ片手に勇んだはいいがやはり落ちない。しかもなんだか前回よりもしつこさが増している。先程まで脳裏に浮かんでいた沖縄の美しさやら陽気な島人は消え失せ、不快さ倍増しの不協和音が部屋に響いた。
 もうこのまま放置するしかないのだろうか。とりあえず、情緒を安定させるために私は今からまた琉球音楽を聴く。

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