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茶色のあいつ

 我が家には猫が2匹いる。1匹は、数ヶ月前に保護した子猫。もう1匹は私が高校1年生の時に、姉が愛護団体から引き取ってきた猫。今回は先住猫について書いていく。

 先住猫はMIXの茶トラ。我が家に来た時はとても小さくて、ちょこまかちょこまかと部屋のあちこちを行ったり来たりと忙しなかった。母が留守の間に、油の張った中華鍋に足を突っ込んで油まみれになったと聞いた時は、思わず笑ってしまった。(鍋は床に置いてあり加熱はしていなかったため、怪我を負わずに済んだのは幸いだった)
 我が家には他に動物がいなかったため、茶色のこいつは姉や母からの愛情を独り占めにしてきた。ニャーと鳴けば夜中であろうと餌を用意してもらえるし、ドアの前に座り込んで上目遣いに見つめれば、いとも簡単に開く。就寝場所は母の布団。寒ければ、我々を差し置いて暖房の前に陣取る。何か病気を抱えればすぐに病院へと連れて行かれ、普段以上に献身的な世話を焼かれる。
 つまり、たっぷり、いやたっぷりどころかどっぷり浸れるくらいの愛情を注がれて育ってきたのだ。無論、事故や野良猫との接触を避けるため勝手な外出は御法度で、外に出る時は母親が抱っこするのがお決まりである。まさに箱入り坊ちゃんである。
 そんな坊ちゃんが1度、勝手に外出をした際、野良猫に額をぶたれ、頬が腫れた状態で帰ってきたことがあるらしい。(もちろん病院行きである。)野生には野生なりのルールがある。我が家の箱入り坊ちゃんはそんな掟を知る由もなく、いとも簡単に野良猫の怒りに触れてしまったのであろう。強烈なビンタをかまされたわけだが、それで懲りないのが奴の性分で、今でも尚、玄関の扉が僅かに開くその瞬間にチャンスを見出そうと目を光らせているそうだ。
 今現在、我が家に来て6年も経つわけだが、子猫の時のような忙しなさはさすがに見られなくなった。が、毎年帰省する度に、突然テンションがぶち上がり、馬のように部屋を駆け回ったり、外にいる野良猫に反応して下っ腹を揺らしながら1回の洗面所やら2階を行き来している(そこが野良猫を見る丁度良いスポットなのだろう。)姿を見ると、中身はまだまだ若造だなと感じていた。
 が、保護した子猫が我が家に来た時、茶色のこいつは特に反応することもなく、子猫のいる部屋を忙しなく行き来している我々に興味を持つことも無く、母の布団の上でスヤスヤ寝ていた。部屋の隙間から一瞬、子猫の姿が見えた時も、奴は動揺することなく興味なさげな表情でその場を離れた。姉曰く、どうやら昨日の夜、子猫のいる部屋の前で何度か鳴いたりもしていたようだが、すぐに飽きて立ち去ったらしい。
 これは予想外だった。もっとしつこく追求したりだとか、わざと気を引こうとするようなことをするのではないかと思っていたが、この6年間で坊ちゃんには肝が座っていたようだ。あっぱれである。
 子猫に病気がなく、無事に我が家の一員になったあかつきには是非、兄貴らしい振る舞いをしてくれることを願う。

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