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あの青春の.3

 このシリーズも早3回目。どこまで書き残せるのか楽しみでもあり若干の恐怖もある。今回は2つ。
「5/18 今日は部活で声を出してがんばれました。ハードルではなんとか飛べました。本当の話なので聞いてください。今日10:00くらいに母の車に乗り道路を走っていたら子猫が丸まって睡眠していました。可愛かったです。」
 実は睡眠の睡の字を書き間違えていたのだがこの世には存在しない漢字で書かれていたため再現できなかった。そして跳ぶ、を飛ぶに間違えている。本当に驚いているのがこの漢字ミスの多さである。小学生の頃から漢字は得意だと自負していた分、かなりショックである。この一年後に私は漢検準二級を取ったわけだがどんなイカサマを使ったのだろうか。部活で頑張ったと書いた次の瞬間、何の脈絡もなくハードルについて書かれているがこれは体育の時間の話である。私はかなり身体が硬かったため、ハードルを飛ぶ時のあの動作が非常に苦手だったのだ。なんとか跳べたとは書いてはあるが、記憶の中ではハードルをなぎ倒しながら走っていた気がする。そんなことよりも次の文章以降が一番気になる。
 「本当の話なので聞いてください」
 この文を読んだ瞬間思わず絶句した。あまりにも唐突すぎる。こんな切り口で書くことが許されるのは心霊番組へ送る手紙くらいだ。そして母の車に乗り道路を走っていたら…とあるが、この文章をそのまま解釈したら無免許運転である。中学生にしてお縄案件である。しかも10:00と書いてあるが学校はどうしたのか。白昼堂々、学校をサボり無免許運転とは罪のミルフィーユ状態である。
 恐らく夜の22時に母と車で出掛けていたら寝ている子猫を見かけましたよ、というのが真意なのだろう。日記を読んでいて感じるのは、当時の私の文章は全体的に言葉足らずで誤解される危うさを大いに含んでいる、ということだ。よくもまあ何も起こらずに生きてこれたものである。
「5/22 今日練習試合がありました。防だんガラスに激突してビックリしました。ケガはしたけど生きてて良かったです。」
 これに関しては今でもよく覚えている。恐らく生涯忘れることはないだろう。練習試合先の学校が改装したてでかなり綺麗だったのだ。体育館も同様だった。その体育館には外と中の境界が分からないくらいピカピカに磨かれたガラス戸があった。試合中に、僅かに開いていたそのガラス戸からボールが中庭へと出て行き、私はそれを猛ダッシュで追いかけたわけなのだが、全て開いている状態だと勘違いしそのままガラス戸に激突したのだ。
 ものすごい音が響いた。一瞬で体育館は静寂に包まれた気がする。隣のコートにいたバスケ部ですら手を止めていた気がする。気がする、というのも、体が受けた衝撃がでかすぎて一瞬聴力が機能しない状態&意識が朦朧としていた可能性もあるからだ。そのくらい、ダメージがでかかった。幸いにもガラスは防弾ガラスで割れることなく済んだのだが、猪の如く突っ込んだ私は跳ね返されそのまま床に倒れ込んだ。気を失わなかったあたり、さすが体が丈夫なだけあるなとは思うが、さすがに膝とおでこは腫れた。後に聞いた話だが、当時、チームメイトは衝撃的すぎて笑いを噛み殺していたらしい。少しは心配したらどうなのかと一瞬思ったが、私が逆の立場だったら笑いを堪えきれる自信はない。
 この後、病院に行くでもなくベンチで負傷部を冷やし、数分後に試合に出されたのだからもはや一周回って笑えてくる。無論、足元がおぼつかず、うまくプレーできずにすぐ下げられたのだが、いくらなんでも鬼畜すぎる。
 こういった過去の失敗談やマヌケな話は、笑い飛ばせる今この瞬間が存在するからこそ、できるのである。防弾ガラスにぶつかっても尚、軽傷で済み生き延びれた自分を褒めてやりたい。

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