マフラーみたいなバスタオル

 私は手先が不器用である。小学生の時の工作で作った作品はうまく作れた試しがないし、いくら定規で入念に測っても必ず1cm以上のズレが生じたり糊付けが甘かったりして、出来上がった作品はどれも不格好だった。
 家庭科の裁縫に至ってはもはや記憶がない。作った物が手元に一切残っていないため、使用されることなど1度もなく闇に葬りさられたのだろう。無論、家庭科や技術の成績はあまり良くなかった。ああいった類のものは頭でどうにかできるものではない。生まれ備わったセンスが左右するものなのだ。
 そんな手先不器用人間の私が、唯一作り上げることができた物がある。それはマフラーだ。こう言うと、大抵感嘆の声があげられるが、棒針などを使って作った訳では無い。あれでマフラーが編めたら不器用であると自称するべきではない。
では、何を使ったのかというと百均に売られている専用のリリアンだ。あれを使ってマフラーを編んだのである。裏の説明を読解する頭脳と毛糸さえあれば小学生でも簡単に編める。編むに至った経緯はありがちなやつで、当時付き合っていた彼氏の為である。為である、と書いたが当時の私はただ彼女っぽいことをしている自分に酔いたかったのだろう。
 大学3年生の春休み、彼氏の家に入り浸っていた私は毎日が暇だった。大学生の長期休みは果てしなく長い。友人と旅行にでも行けばいいものの、当時彼氏大好き脳内お花畑だった私は暇だ暇だと言いつつ彼氏の家に入り浸り、彼氏がバイトに行っている間はAmazonプレミアムでアニメを貪るように観ていた。
 そんなある日、百均にたまたま寄った時にリリアンが目に入り、暇つぶしに半分、上述したように彼女っぽいことをしたいという気持ち半分でマフラーでも編むか、ということになり買うに至った。飽き性の私が珍しく投げ出さずに最後まで作り上げることができたので奇跡の産物とも言える。
 そして時は流れ、彼氏とは別れることになった。別れ話をしている最中ふと、あのマフラーが頭に浮かんだ。私は涙を流しながら
「あのマフラー、使われることもなく捨てられちゃうんだね。」
と呟いた。別れたのは秋頃で、まだマフラーが活躍する時期では無かった。
「ああ....あのバスタオルみたいなやつね...」
電話越しの彼氏が、涙声で呟いた。うん、そうだよ、あのバスタオルみたいな....バスタオル....?は?????バスタオル?????
 私は自分の耳を疑った。涙は一気に引っ込んだ。確か私が作り上げたのはマフラーのはず。それがバスタオルになるなんて一体全体どういうことなのか。
こいつ、もしやタオルのストックがない時にあれで身体を拭いたのか?????
マフラーで???????
吸収性悪くない???????

様々なことが頭をよぎり、確か問い詰めた気もするが彼がどう返答してきたのか不思議と覚えていない。残念ながら、そのマフラーが出来上がった時、写真を撮り忘れてしまった。私は自分が作り上げたマフラーをもう一度見たい。元交際相手の顔だとか現状だとかよりもそちらの方に興味がある。バスタオルのようなマフラーとは。私はもう一度百均に走るべきかもしれない。

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