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先生たち 8 のまち先生

何年か前の同窓会にのまち先生がお見えになっていた。物故された先生もおおいのだが、のまち先生は、白髪になられていたが、まだまだお元気そうで、はきはきしたごあいさつをされていた。

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のまちセンセイは中学一年生のときの担任で、保健体育を教える女性教師だった。

当時、センセイはいくつだったのだろう。40歳前後だったろうか。

教師という職業が、生徒のなかにそういう人物像を作らせるのかもしれないが、今の自分よりずっと若かったのに、ずいぶん落ち着いた感じだったなあと思い出す。

もっとも記憶にのこっているのは、このセンセイの、たぶん右だったと思うが、中指の指先がなかったことだ。

そう、爪の部分がまるっきりなかった。

自分の指がなぜそうなったのかをセンセイが語ることはなかった。

センセイの普段の雰囲気は、肝っ玉かあさん風で、細かなことにこだわらないおおらかで強いひとというイメージだった。

しかし、体育の授業中、リレーのバトンの渡し方で、持ちかたはこうで、こう持ち変えて次の人に渡しなさいという説明をしたときは、さすがにみんなの目が気になったのか、中指をバトンの空洞に突っ込んでその欠損を見えなくした。

そのしぐさはセンセイが常にその欠損を意識しているのだということを感じさせるものだった。

生徒はその指先を見て、見てしまったことを悪いと思いながらも、それぞれ勝手にそのいきさつを憶測するのだった。


中学1年の自分も憶測はしたが、それを言葉にすることはなかった。言葉にしなかったからなのか、そのシーンがずっと記憶に残っている。

時が流れ、センセイのあのしぐさは、欠損のある身になった自分にはより身近に思われる。無意識にそうしてしまったセンセイのせつなさが静かに迫ってくる。

読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️