見出し画像

【2023年まとめ】文學界noteでよく読まれた記事【BEST10】

 いつも文學界noteをご愛読いただきありがとうございます。
 今年も残すところわずかとなりました。今回は文學界noteで2023年に公開された記事の中から、よく読まれた記事10位までをご紹介します。

※ランキングは、2023年12月20日現在の閲覧数を元に作成しました。



【1位】市川沙央⇄荒井裕樹 往復書簡「世界にとっての異物になってやりたい」

 文學界新人賞ご受賞直後・『ハンチバック』書籍化のタイミングで文學界に掲載された、市川沙央さんと荒井裕樹さんの往復書簡。市川さんが執筆にあたり大きな影響を受けたと語る『凜として灯る』の著者・荒井氏との、社会の「健常者優位主義マチズモ」をめぐる対話です。
 noteで全文公開をしたところ、広く読んでいただきました。市川さんの文學界新人賞のご受賞・芥川賞のご受賞からは既に半年近くたちますが、今でも定期的に「スキ」がついている記事です。

 だからおそらく、『ハンチバック』は私なりの、「モナ・リザ」にスプレーをかける試みだった、という読み方もできると思います。

『ハンチバック』を読んで、作者が障害者だから表立って言いにくいんだけど果たしてこれが小説だろうかね、という気持ちを湧かせるひとも、私に見えないところでは沢山いらっしゃるのではないかと思っています。そのように小説、文学というものの背骨を変形させたことに一抹の罪悪感を私自身、持っているので。

 とはいえプロテストソングがあるならプロテストノベルがあってもいいのだろうし、警察のお世話になるほどの事を起こすよりもよほど穏当ではあるし、2022年に起きていた戦争や暗殺のことを思えば、ペンの力が暴力よりも強く、ペンの紡ぐ言葉の力をもって通じよ、と願えば通じるのだと信じられる社会のほうが絶対に絶対によいはずだと、開きなおる気持ちもまた持っているのです。

市川沙央→荒井裕樹 1通目のお手紙より

 市川さんは〈プロテストノベルがあってもいいのだろう〉とおっしゃっていますが、〈プロテスト〉とは必ずしも崇高な理念だけでなされるものでもないのではないか。どこか〈プロテスト〉そのものを楽しんでやろうという気持ちも必要なのではないでしょうか。ウーマン・リブに集った女性たちも、青い芝の会に魅せられた重度障害者たちも、やはり、どこかで運動そのものを楽しむ気持ちを持っていたのです。

〈プロテストノベル〉。読み返すたびに素敵な言葉だと感じ入ります。あの忌まわしい相模原障害者施設殺傷事件があった後も、なぜか波風さえ立たなかった文芸界に向けたスプレー噴射として『ハンチバック』を受け止めました。どうか「小説」という概念ごと文芸界の背骨を歪ませてやってください。

荒井裕樹→市川沙央 1通目のお手紙より

【2位】市川沙央さん『ハンチバック』試し読み

 第1位に引き続き、市川沙央さんの記事が読まれました。こちらは、文學界新人賞を「ハンチバック」が受賞した直後の、受賞作試し読み記事。

 冒頭がいきなりHTMLタグ、そしてその内容はハプニングバーの潜入記事——という衝撃の書き出しでも話題を呼びました。

 <head>

 <title>『都内最大級のハプバに潜入したら港区女子と即ハメ3Pできた話(前編)』</title>

 <div>渋谷駅から徒歩10分。</div>

 <div>一輪のバラが傾く看板を目印にオレは欲望の城へと辿り着いた。</div>

 <div>どうも、ライターのミキオです。今回は、ハプニングバーの超有名店「×××××」に潜入取材してまいりました。ではさっそくレッツゴー。</div>

『ハンチバック』冒頭より

単行本『ハンチバック』の情報は下記からどうぞ。

【3位】高橋弘希×ピエール中野「ロックバンドは終わらない――邦楽ロック五〇年クロニクル」【対談】

 文學界12月号では、高橋弘希さんの音楽エッセイ『近現代音楽史概論B——邦楽ロック随想録』の発売に合わせて、ピエール中野さんとの対談を掲載しました。こちらの全文公開も、広く読んでいただきました。

 同世代にして、埼玉県育ちでもある、という共通点をもつお二人が、九〇年代~二〇〇〇年代を中心に、邦楽ロック五〇年の歴史を語りつくします。

 高橋 時雨を最初に聴いた時の印象を思い返してみると、ジャンルとしては一応、ギターロック、オルタナティブロックとして聴いていました。あの時期って、インディーでもメジャーでもギターロックバンドってけっこうたくさんいたじゃないですか。

 中野 多かったですよね。

 高橋 そうした中で、時雨は他のバンドたちとは全然別物に聴こえた。で、なぜ違うと感じるんだろうと考えてみたんですけど、それはドラムによるところが大きいんじゃないのかと思い至って。というのは、中野さんはツインペダルを使うじゃないですか。ツーバスのドコドコした音を出せるペダルですね。時雨は、最初のドラマーの人の時からツインペダル、ないしはツーバスの音は入っていたんですか?

 中野 入ってないですね。だから、元の曲のシングルで叩いていたところに、「ここ、ツーバス入るっしょ」って、置き換えられそうなところにツインペダルのフレーズを足していったんです。時雨に「テレキャスターの真実」(『#4』収録、二〇〇五年)という曲があるんですけど、それがたぶん僕が加入して最初の頃に作った曲で、その辺からツインペダルを前提にした曲作りになっていきました。

 高橋 中野さんのドラムゆえに、時雨は他のギターロックバンドと一線を画する存在として僕の中に入ってきたんだと思います。要は、ギターロックなのに、ドラムにメタルを感じた。メタルのドラムでギターロックをやっているバンド、という印象を持った。

 中野 それは完全に正解だと思います。ルーツがビジュアル系で、時雨をやる前にやっていたバンドではSlipknotのコピーとかをやっていたので、メタル色が色濃く出てしまっていたんでしょう。

対談本文より

 もちろん凛として時雨についても熱く語る、高橋さんの『近現代音楽史概論B——邦楽ロック随想録』の情報はこちらから。

【4位】蓮實重彥「ある寒い季節に、あなたは戸外で遥か遠くの何かをじっと見すえておられた」【追悼 大江健三郎】

 2023年3月3日、大江健三郎さんがお亡くなりになりました。4月に発売された文學界5月号では大江健三郎さんの追悼特集を組みましたが、その特集の中からnoteに転載した、蓮見重彦さんの追悼文がよく読まれました。

 一つの時代が終わった、とつくづく思わずにはいられない。子供心にも戦前のこの国を多少とも知っており、「戦後は終った」といわれた1960年代にあなたがその才能を遺憾なく発揮された途方もない世代の終焉である。その時代をともに生きていられたことを、この上なく幸運なことだったといまは自分にいい聞かせることしかできない。わたくしたちは、中国大陸への理不尽な軍事侵攻が活況を呈しはじめたころ、そんな事態はまったくあずかり知らぬまま、侵攻しつつあるこのちっぽけな島国に、みずから責任はとりがたいかたちで生をうけた。早生まれのあなたとわたくしとは、年齢では一歳違う。学年で言うと二年の差があるが、ほぼ同時代人といってよかろうかと思う。

追悼文の冒頭より

【5位】吉本ばなな「思想だけが人と人を繫ぐ――『小説家としての生き方』を語る」【特別インタビュー】

 文學界11月号掲載の吉本ばななさんのインタビュー記事です。最新作『はーばーらいと』や、『小説家としての生き方 100箇条』などについて、お話を伺いました。

 ――『はーばーらいと』はスリルに満ちた救出劇、脱出劇でもあるんですが、おそらく多くの人が想像するであろう展開とは異なるものが書かれていると思います。例えば、ひばりの脱会手続きを取ろうとするつばさに対して、宗教的コミュニティは妨害工作のようなことはしないんですよね。

 吉本 もっと面白い書き方があることはわかっているんです。初恋の相手がヤンキーになっていて、「俺、今はもう全然興味ねぇや」と思っている。彼のお母さんも「関わるのはやめときなさい」と止める。その状況が覆っていくのが、たとえば韓流ドラマじゃないですか。すっかり忘れていた初恋の気持ちが再燃して、今の彼女と別れてひばりを取る……そんなふうに書けば盛り上がるし一般ウケするんだけれども、それは他の人に任せて、自分は自分の得意なことをやろうと思いました。

 ――ストーリーが大事だ、という考え方を取るならば発想がそちらに進むけれども、と。

 吉本 私は今まで一度も、ストーリーを意識して書いたことはないんです。私の特色だと思うんですけれども、書き始めた時からずっとテーマだけを書いているんですよね。それは考え方、生き方っていうことだと思うんです。今回であれば、「思想だけが人と人を繋ぐ」ということ。結局この作品の中で一番強かったのは、家族の絆とか恋愛感情ではなくて、思想なんですよね。つばさやお母さんの思想と、ひばりさん個人の思想がフィットして、繋がって生きていくことができるようになった。そのことが書きたかっただけなので。これに限らずなんですが、もしかしたら私の作品は小説と呼ばれるものからはこぼれ落ちるものなのかもしれません。「小説家」とは違う、名前がない職業に就いているのかも。

インタビュー本文より

【6位】円城塔✕千葉雅也✕山本貴光|GPTと人間の欲望の形【鼎談】

 ChatGPTをはじめとする生成AIも、この一年間を通じて大きな話題であり続けたトピックでした。文學界では8月号で、円城塔さん、千葉雅也さん、山本貴光さんにご登場いただき、ChatGPTなどについてお話いただきました。

【7位】乗代雄介「それは誠」【創作】

 文學界6月号掲載に掲載された、乗代雄介さんの「それは誠」試し読みがランクイン。修学旅行で東京を訪れた4人の高校生たちは、自由行動の一日を使って、とある場所を目指す——。先生にもはもちろん秘密の、小さな冒険を描いた中編小説です。

『それは誠』は既に単行本が発売になっています。詳細・ご購入はこちらからどうぞ。

【8位】菊間晴子「『受胎小説』の引力——『ハンチバック』論」【作品論】

 8位には、『犠牲の森で 大江健三郎の生死観』で東京大学南原繁記念出版賞受賞作をご受賞された、菊間晴子さんによる『ハンチバック』論が入りました。掲載は文學界9月号です。

【9位】岸政彦|ギターは個人に寄り添ってくれる、どこか寂しいもの【特集 作家とギター】

 文學界2023年4月号の特集は「作家とギター」。特集の中では、6人の作家にご自身とギターについて語っていただきました。その中から、岸政彦さんのインタビューをnoteに掲載しました。

【10位】“your true colors shining through”――川上未映子『黄色い家』を読む|柳楽馨

 2023年2月に発売になった、川上未映子さんの長篇小説『黄色い家』。文學界4月号では、柳楽馨さんに書評を寄せていただきました。

 この冬休みに『黄色い家』を一気読みするのも楽しそうです。

 ちなみに、同じく文藝春秋から刊行されている文芸誌「別冊文藝春秋」では、川上未映子さんのインタビューが掲載されています。こちらもぜひ、合わせてお楽しみください。

最後に

「文學界」は2023年9月号から、電子版の発売もスタートしています。もし気になる記事があれば、ぜひ雑誌を買っていただけたら嬉しいです。
※下記はKindle版のリンクです。

今年も一年間、「文學界」をご愛読いただきありがとうございました。
どうぞよい新年をお迎えください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?