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葉桜の公園

春、たけなわであった。
薫風が頬をなでる。
風が心地よい。鳥たちも鳴いている。
ぼくは公園のアズマヤのベンチに腰を掛けていた。
ちゃんとした屋根があるので、日陰もできる。
そこで先ほどまで、本を読んでいた。
コナン・ドイルの「失われた世界」。
恐竜の肩に乗って、春は町々に植物を息吹かせる。
そんな幻想に浸っていた。
正午ごろである。午前中や、午後に比べて、それほど人気(ひとけ)はない。
公園には「ロ」の字型の道がついており、そこをパラパラと、たまに人が通りすぎる。
銀髪のご婦人がジョギングをしている。乳母車を押す母親が、ヨチヨチ歩きの子どもを二人連れている。
ノルディック·ウォーキングの杖をついた老人が歩いている。
そういう人々を観察していた。
しばらくして、中学生の団体が運動服を着て現れた。
公園の一角に濃い密度で固まっている。
若さとは密度なのかもしれない。
中学生は、小高い場所で集合写真を撮ったりしていたが、やがて先生の号令のもと、グループごとに分かれて弁当を食べ始めた。
誰かがスピーカーから音楽を流していて、突然、あたりがちょっとしたお祭り会場のようになってきた。だが、それほどうるさい感じでもなかった。
ぼくは公園でも特等席というか、アズマヤにいるのだが、中学生たちはアズマヤに近づかない。
「あそこに誰かいる」というのを察して、距離を保ちつづけているのだろうか?
彼らは思いの外、大人なのかもしれない。
ウグイスの音楽を聴きながら、
ぼくはそっと席を立った。

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