怪鳥A(モンゴノグノム)

空中にたくさん浮かぶ蓮の花が咲いては枯れ、咲いては枯れを繰り返していてアホらしい。
頭がビーカーの男は蹲踞の姿勢でこちらを向いている。
「こちらにお掛けなさい」
天狗の面の形をした椅子を手でゆったりと示す。
座ろうとすると天狗の鼻が肛門に当たったので、すぐにまた立ち上がると、
「大丈夫。そのまま座ってみなさい」
恐る恐る再度腰を落としてみると、天狗の鼻が尻の加重に合わせて引っ込んでいく。
「ほらね、言ったとおりでしょう」
うるせえ。なんなんだこの椅子は。
ビーカー男の後ろでは、巨大な象がペガサスに角で刺されて、ぱおーんと喚いている。ビーカー男はお構いなしといった様子だ。
「ところで本日、ポイントカードはお持ちでせうか」
「は」
「ポイントカードは、お持ちでせうか」
「いや」
「では、クーポン券はお持ちでせうか」
「クーポン券」
「ええ」
「持ってないですけど、持ってたらなんかお得なんすか」
「正解です」
ビーカー男はたおやかに拍手しはじめた。
「なんすか」
「引っ掛からなかったですね」
突如としてあらわれた牛頭と馬頭も拍手に参加しはじめた。
「は」
「もし持っていると答えていたら、汝の四肢を切断していたところでした」
順調に殺意が育まれている。
「それでは早速、どちらを選びますか?」
そう言ってビーカー男は、金ピカのローブの懐からおもむろに赤いパプリカと黄色いパプリカを取り出し、こちらに差し出してくる。
「パプリカすね」
「そのとおりです」
「パプリカ」
「で」
「でって」
「どちらを選びますか」
「なんなんすか」
「だからパプリカですってば!」
ビーカー男の荒げた語尾に合わせて牛頭が銅鑼を打ち鳴らす。びっくりしてビーカー男を見ると、ビーカーの中の透明な液体に、何やら黄色い粒が浮いているのがわかる。
「ああ、この液体は、アクエリアスです」
「アクエリアス」
「昔から、母に健康のためにとアクエリアスを与えられて育ちました」
「そうですか」
ペガサスが床に散乱したクロワッサンを踏みしだきながらこっちに向かってきたかと思うと、ビーカー男の横に糞を垂らして去っていった。
「それで、どっちにしますか」
「選んだらどうなるんですか」
「それは、あなた次第です」
「嫌ですよ」
「え」
「なんか選んだことで嫌なこととか起こったら嫌ですもん」
「そりゃないぜこの期に及んで!」
牛頭がまた銅鑼を打ち鳴らした。天井に描かれた雲が真っ二つに割れた。
「その銅鑼、やめてくれませんか」
「承知しました」
ビーカー男が指をパチンと鳴らすと、牛頭の首がぽーんとふっ飛んで、聖なる泉に落下した。馬頭は牛頭の胴体をお姫様抱っこしながらミニチュアの地獄の門を潜っていった。
「それで、赤パプリカか黄カプリカか」
「今、カプリカって言いましたよね」
「言ってません」
「言いましたよね」
「言ってません」
「絶対言った」
「言ってません!」
馬頭がヴィブラスラップを打ち鳴らした。ペガサスの糞の上で盛んに交尾をしていたハエが2匹とも絶命した。
「てか、コーン浮いてますよ」
「え」
「頭にコーン浮いてますよ」
「これはこれは」
ビーカー男がコーンを取り出そうとして頭を傾けると、アクエリアスが一気に溢れ、そのまま蹲踞の姿勢からバランスを崩して転倒した。
「大丈夫すか」
返事がないようなので、立ち上がってビーカーを思い切り踏み潰した。


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