置き物

 雑貨屋できれいな置物を見つけた。それはコップのような形をしていたが、液体を注ぐだけならともかく、これに口をつけて飲むところは想像できなかった。
「あっ、きれい」
 視界を横にずらすと、置物と人間二人のスリー・ショットが目に映った。手前にいた人が、棚に並べられたたくさんの置物や置物でないものの中から、私が見ていた置物の方へまっすぐに近づいてきた。そしてちょうど私とそれとの距離と同じくらいの位置まで来たとき、もう一人に袖口を引かれて止まった。しかし視線は逸らさなかった。
「ん、何?」
「見てる人がいる」
「え」
 その人が私の方を見た。

       *

「……と、これが馴れ初め」
「へー、それで姉に譲っていただいたと」
「いや、実は半分出してもらったんだよね」
「え?」
 私は姉の方を見た。
「なんで?」
「まあ、私が値段見て渋ってたってのもあるんだけど……、なんか、個人情報代だって」
「はあ」
 私は少しその人の方に顔を向けた。
「いやあ、私、他人の家に遊びに行くのが趣味で、ここで譲れば合法的に遊びに行けるかなーって」
「……なるほど」
 このとき、初めてその人の連れの人が私の目を見た気がした。

       *

「……別に普通に友達になればいいのに、おかしいでしょ」
「うーん、まあ、なんとなくわかる気がします」
「ふうん。やっぱり、『気もする』じゃなくて『気がする』なんだ」
「え」
 私は思わず連れの人の目を見た。
「あ、ごめん」
 一瞬目が合って、お互いすぐにコップの方へ逸らした。こういうときに目を見る人と話すのは久しぶりな気がした。
「あなた、あの子に似てるなって。あ、これも失礼だね」
「いえ、大丈夫です」
 本当に大丈夫だったかはわからないが、今は特に嫌だとは感じていない。

 私と連れの人は、カウンター席に一つ間を空けて座っていた。間にいた誰かがお手洗いに行っているとかではなくて、私に端の席を勧めた後、連れの人は一つ空けて座ったのだ。しかも自然に。
 最初は変な感じがしたが、すぐにこの距離感は嫌いではないことに気付いた。ただ、この人は距離感を考えて間を空けたのではなかった。今、間の席には例の置物が置かれていた。

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