人物スケッチ 池田満寿夫
初対面の池田満寿夫は悪酔いこそしていなかったが、昼間っからルフィーノを飲んでいたと本人が言うとおり相当酔っぱらっていた。
当時、彼は四谷三丁目の佐藤陽子夫人?の実家に住んでいた。
佐藤邸を訪問したのは夕暮れどきであった。
勧められるままにわたしも盃をあおったが、初対面という感じがまるでしなかった。
わたしは相手がどんなに偉くても歳の差があっても誰に対しても物怖じせずに初対面から腹を割って応対するという恐ろしい人間(笑)だが、池田もまさに同種族の人間だと想った。
たちまち親しくなれたというわけではないが、彼が予想どおりの魅力的な人物であることは三分もしないうちに十分すぎるくらいわかった。
話はあっちへ飛び、こっちへ飛びでとりとめもなかったが、夕方逢って気がついたときには終電車の時間になっていた。
版画作品も文学作品もどちらかと言えばバタ臭かった池田満寿夫であるが、カラオケは演歌にかぎると断言していたのが面白かった。
池田は西洋美術に憧れ、海外生活も長かったが、結局は自分の属する世代の文化のホモルーデンス(遊ぶ存在)だったのだろう。
わたしも若い頃は、モーツァルトやべートーベン、ショパンに溺れていたはずなのに、こうして年をとってみると、ふと脳裏に浮かぶのはテレサ・テンだったりオフコースだったりする。
人間の深層心理の選択は、浅はかな自意識を遙かに超越しているようである(笑)
写真:© Unknown
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