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業務スーパーまで


週に一、二回、業務スーパーまで往復6キロの道のりを散歩がてら、買い物に行く。安いこともあるが、他の店にないものも多い。輸入品も多く、雑多なところから宝探しのようなワクワク感もある。「ここにくると、ついつい、チョコやお菓子を買っちゃうな」と敦は、昔の「文化屋雑貨店」的な感覚が好きだった。」


敦は、近くの弥生神社に寄ってお参りしてから行く。急な石段を2回ほど登ると神社がある。中腹には社務所があって、春祭り用の舞台もある。そこに、牛乳のマークの入ったベンチがある。決まってそこで瑠璃子と休む。参礼前に手を洗い口を濯ぎ、身を清める手水舎(ちょうずや、てみずしゃ)もあるが、コロナの時期もあり、水道の蛇口が寂しそうにあるだけだ。

銀杏が色ずき枯葉を石段に落としている。手すりを伝いながら登りきると、弥生神社が現れる。弥生神社は、敦にとっては、生まれた時からの氏神様だ。家の近くに日月神社があるが、中学時代に国道246号線が開通したために、林は開拓され住宅地になってしまいほとんど神社本体だけに縮小されてしまった。東京オリンピックの時だった。石作りの楼門(ろうもん)は、今は壊れかけている状態だ。

一方の弥生神社は、『明治四十二年三月に国分に鎮座の八幡社、上今泉の比良神社、柏ケ谷の第六天社、望地の大綱神社を合祀して創建しました。神社の称号は、御遷座が弥生の季節であり、万物全てが天地の恩恵を受け、栄え行く時であるから、弥栄えに栄え行くようにとの祈りを込めて、弥生神社と定めました。なお新宮地は、風光明媚な現在地を最適地として定めました。』とホームページにある通り、明治時代に合祀した神社だが、ワークショップや講座などを開設した近代的な事業を展開している。

不思議と神社の脇の細い石畳を登ると龍峰寺がある。「神様ばかりのがいる有難い岡だな」と敦が言うと、瑠璃子は「いつも花木がいっぱいある趣味のいいご住職の家族が住んでいるお寺さんね」と感心している。

『龍峰寺は、円光大照禅師によって室町時代初期(南北朝時代)の1341年(南朝:興国2年、北朝:暦応4年)に現在の海老名市立海老名中学校(国分南3丁目)のあたりに創建され、昭和初期に清水寺(せいすいじ)の寺地に当たる現在地に移された。 清水寺は1689年(元禄2年)大松原山上近くに移され、現在は龍峰寺に管理が委ねられている。』と敦はWikipediaに書いてあるので知った。すぐに、「仁王門」があり、一対の仁王像が安置されている。左側が仁王阿形,右側が仁王吽形だと言う。結構、怖い顔をしている。その先に、ひっそりと鐘撞き堂があり、花木が、四季折々に楽しめるように植えられている。敦も瑠璃子も大好きな参道である。手水舎(てみずや)では、竜の口から水が流れ、手を洗って参拝する。冬の時期は、紅葉が紅葉して赤色が鮮やかに寺の壁に描かれている。

白コーデの瑠璃子は、曇天の下、自分で編んだニット帽にニットジャケット、ロングシャツワンピース、生成りのパンツに、厚底の黒い靴で散歩していた。公園を抜け、246号の交差点にぶつかったら、業務スーパーまで246号線沿いの歩道を二人でひたすら歩く。

「今日は、オリーブオイルとメープルシロップ、塩麹、ラム酒、冷凍アサリが欲しいの」
と珍しい食材や手に入りにくい物を業務スーパーで買う。もちろん、安い野菜や肉、牛乳、冷凍うどん、豆腐、納豆など日用品も買う。
「今日は、カレーにする」と瑠璃子が言った。
「もちろん、カレーがいい。昼は鍋焼きうどんにしようか」と付け加えた。
二人のリュックサックいっぱいになるくらい買ってから、また国道を戻る。
「戦後の買い出しみたいだね」とわらう瑠璃子は、戦後も知らないが、おじいさんやおばあさんが見たら、戦後すぐの買い出しみたいに見える。
こんな生活をし始めて年末で3年になる。敦も瑠璃子も歩くことに慣れて来た。
車も自転車もない生活は、慣れると便利だ。歩くことしか選択肢がないから、歩く。嫌なら、歩かなければいい。ただそれだけの選択だった。瑠璃子も息子もスマホを持っていない。別に不便を感じないようだ。むしろ、電話がないからストレスがない。
電子機器も便利だが、反面億劫なことも多い。情報過多になったり、余裕がなくなることもある。

そんなことを考えながら、家路を急いだ。敦は、足腰が悪いので、先に瑠璃子を返す。昼の準備などもあるので、それが一番効率的な動き方になっている。それでも、敦の万歩計アプリは、1万4千歩と記した。ほぼ毎日、1万歩を目標に歩いている。疲れたら、どんな所でも座る。たとえ、ブロック塀の上でも座る。そうしながらも、一万歩は歩く。側から見たら、やっぱり介護だと笑われても歩く。歩くと決めて以上は歩く。それで、どれだけ長い生きできるのか分からないが歩く。楽しいから歩く。
幸せって、そんなものかもしれない。歩ける幸せ。

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