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散歩とともに


朝散歩に毎日にようにいく。聡は、パジェロJRを長く乗っていたが、車検を機会にクルマを廃車処分した。お金が無いのもそうだが、健康維持の目的もあり、日常的に使う車を無くした。

買い物などは、聡と茉里の二人で、リュクサックに入れて戦後すぐの買い出しの様に、歩いて行く。強いて言えば、米や猫の餌の様に笠ばるものは、大変だが、それも慣れれば、苦にならない。

「車を処分して良かった点が、時間が経つと共に出て来る。健康に良い、歩くとアイディアや着想が浮かぶ。夫婦の仲が良く成る。外気に触れる時間が長いので、風邪をひかないことだな」と聡は、友達や知り合いに鼓舞している。

「欠点は、靴の痛みが早い。これは、タイヤ交換と比較すると、ダントツに靴の方が安く済む」が聡の持論だ。

家を拠点に四方八方に散歩しても、たかが知れているのは、確かだ。天気や時間によって、同じ道、同じ場所でも、ガラッと雰囲気が変わる。スマホのカメラで撮って、SNSに、毎日投稿するだけでも、ルーティンになるだけでも、楽しくなる。

花だけをインスタに上げるのも可能だ。町には、雑草も含めて花が沢山ある。最近は、花を調べるアプリまであるので、花の名前も教えてくれる。雑草と言う植物は無いと言う持論の人がやたらに多いので、出来るだけ調べて載せている。

散歩途中に、友達の家がある。既に、二人の子どもは結婚をして家を出て行った。木本靖夫は、中学、高校、大学を通じての数少ない友達だ。写真部だった木本は、暗室を中学の時から持っている程の写真好きだった。

聡は、大学までカメラもなく、写真とは無縁な学生時代を過ごしていた。そんな二人は、小田急線の車内で、偶然会った。木本は、先物取引の証券会社に勤めていた。
「この仕事は、お客様を儲けさせる仕事だけれど、何人死ぬかわからない程のリスクのある仕事だよ」
と電車の中で話す内容の事では無かったが、二人で会うこともないので、事細かく喋った。それっきり会うことは無かった。

木本は、八王子に居を構えて、結婚生活をしていた。当時は、バブル期で、毎夜、新宿のバーで客を接待していたそうだ。台湾人のママは、退職後も何年か付き合いもあり、聡も招かれた事があった。

「木本さんには、お世話になりっぱなしで、優しい人だよね。楽しいお酒だったのよ」と話してくれた。店を持つまでの苦労話は、一切しない女性だった。いつも明るい性格が、大勢の男達を虜にしたのだろう。

熾烈な競走社会の真っ只中にいたとは思えない温厚な木本だが、退職後は、地域のためにひとはだ脱いだでいた。警察関連やPTA、子供関連の団体の手伝いなどをしていた。その時に、聡と再会した。ネットで活躍していた頃、聡も地元に帰り、木本も実家に帰ってきていた。

二人とも色々な事をし続けたい性分なのだろう。何しろ忙しい。忙しくしていることが、生きてる実感を味わえると言える。二人の共通点は、10才以上年下の妻がいること。聡はバツイチだが、地元の知り合いも多く、中学の同窓会の幹事などで助け合っている仲だ。


そんな折、「木本さん、母親を亡くしてから、元気が無い見たいよ」と一つ年下の前山理子から、居酒屋で飲んでいる時に聞いた。
その居酒屋ですぐに木本に電話をかけた。
「おお、理子と飲んでいるんだけど、来ない」と聡が電話。
「今日は、ちょっと、これからお客が来るので行けない」電話口に出た木本の声は、沈みきったように聞こえた。
聡は、気になって仕方がなかった。土曜日に
買い物ついでに、最近、ハマっている「金宮」と言う焼酎を買って、それを口実に会いに行くことに決めた。
「月末は、家賃を持って来る人などが夜に来るので、出かけられないんだ」と木本の話は、辻褄もあった。しかも、心配していた鬱でもなさそうだ。

「あんたの思い過ごしだよ」妻の茉里の言う通り、思い過ごしだった。
「会ってきて良かったよ。これで安心出来た。人の噂や憶測で判断してはダメだな」と聡は痛感した。

親友というものは、阿吽の心で通じ合うものだ。信頼関係が、中学時代から築き上げた結果だ。どんな事があろうと、支え合って生きようと決心した土曜日であった。

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