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あなたの恐竜のイメージを変えてしまうかも・・・ 『羽毛恐竜完全ガイド』見どころ紹介

Author:山﨑優佑

 3月14日に発売された『BIRDER SPECIAL 羽毛恐竜完全ガイド』では数多くの恐竜の研究者が執筆していて,私も参加しました。著名な研究者ばかりの中でおそれおおく感じる一方,この本に関われたことをたいへん光栄に思っています。今回は購入を検討されている方に向けて,この本の魅力の一部を紹介していきましょう。

一変した恐竜たちのイメージ

 発売前からSNSなどですでに情報は発信されていましたので,どこかでこの本の表紙を見た人もいるかもしれません。

表紙はあの有名恐竜映画で主役級の活躍をした恐竜。羽毛が生えた姿はかなり別物。その正体は本を見るか,前回の紹介記事へ(イラスト◎川口敏)

 私はこの表紙を初めて見たとき,とてもインパクトのある絵だと思いました。さてこの恐竜はなんでしょう? 答えは非常に有名な恐竜です。恐竜好きであれば羽毛恐竜の姿となったこの恐竜の絵を見慣れているので,何となくピンとくるかもしれません。しかしそうでない人にとって,種を特定する以前に羽毛が生えている恐竜自体,見慣れていないのでは? と思います。実際私の知り合いでも,恐竜のイメージは今も『映画ドラえもん のび太の恐竜』(1980年公開)に近いとのことです(※)。また「羽毛恐竜は見たことあるけど,毛みたいなふわふわした羽毛が生えているのであって,“赤い羽根共同募金”でもらうような羽はなかったんでしょ?」と思っている人もいるかもしれません。しかし,そんなことはありません。

(※)ちなみに2020年公開の『映画ドラえもん のび太の新恐竜』では羽毛恐竜が登場します

現生の鳥より2枚多い,4翼の羽毛恐竜として知られるミクロラプトル
(p.36→書籍中の掲載ページ[以下同] イラスト・文◎川口敏)

 上のミクロラプトルのように翼をもち,いかにも空を飛べそうな恐竜もいました。これは想像で描かれたわけではなく,ちゃんと化石に羽毛や翼の痕跡が残っていたのです。では,果たして恐竜は空を飛ぶことができたのでしょうか?私の記事ですが,それについて執筆しましたのでぜひ読んでみてください。

羽毛恐竜の飛行能力を空力的の面から考察した記事(p.54)

 ほかにも「あれ?この恐竜は昔から知ってるけど,羽毛があったの⁉」といった驚きがあるかもしれません。実際私の知る限り,表紙に描かれているあの恐竜は1990年代以前の図鑑では羽毛がない姿で描かれていました。『羽毛恐竜完全ガイド』では,最新研究などに基づいて描かれたさまざまな恐竜が載っています。あなたの“恐竜イメージ”を更新するのにも役立つ一冊ではないかと思います。

鳥は恐竜??鳥に残る恐竜の面影

 「鳥は恐竜である」という話を,メディアなどで1度は聞いたことがある人も多いと思います。しかし,なぜそのように言われるのかまでは,あまり知られてはいないのではないでしょうか。「羽毛恐竜完全ガイド」では体の形や研究の歴史などの視点から鳥と恐竜がどんな関係なのかを説明しています。例えば体の形について,鳥と羽毛恐竜の共通点は羽毛だけではなく,足などにも共通点が残っているようです。一方で羽毛があるとはいえ,羽毛恐竜と鳥では似ていないところも多々あります。この本では羽毛恐竜と現生の鳥を比較しながら,どこが同じでどこが違うか,そして恐竜がどのように鳥の形になったのかを解説しています。

身近な鳥のキジバト。恐竜からこの姿になるまで,どこがどう変わったのかは今も研究中だ

 さらに鳥が好きな人の中には羽毛に興味がある人もいると思います。羽毛恐竜がいたということは,羽毛は鳥よりも歴史が長いことになりますが,この本では羽毛恐竜がどんな羽毛をもち,その羽毛を何に使っていたと考えられているのかも図解しています。そして恐竜好きにとって欠かせない,最大の謎である大量絶滅に関連して,「なぜ鳥は大量絶滅から生き延びることができたのか」という話題も登場します。

恐竜や初期の鳥類では,1本の毛のようなものから,今の鳥に通じるような木の葉の形のようなものまで,すでにさまざまな形の羽が登場していた(p.8 イラスト◎長手彩夏)
中生代末の大絶滅を乗り越えた鳥類の姿を想像した図(p.61 イラスト◎長手彩夏)

 この本を読んだ後に鳥を見たら,恐竜の面影を感じられるか意識してほしいと思います。恐竜を今まで以上に,もっと身近に感じられるかもしれません。

羽毛恐竜から鳥へ

 「羽毛恐竜完全ガイド」の両見返し(表紙・裏表紙と本文の間)には,この本に登場する羽毛恐竜や鳥たちの大きさを比較した絵が描かれています。比較相手としてヒトが描かれていますが,裏表紙側にはもう1つの比較相手として,現生ワシ類のイヌワシがいます。イヌワシは翼を広げると2m近くある,非常に大きな鳥ですが,そんなイヌワシすら小さく見えてしまうほど巨大な鳥がかつていました。この見返しで描かれているアルゲンタビスやペラゴルニスといった鳥も,本文中ではカラーイラスト付きで解説されています。中生代の羽毛恐竜に始まり,新生代の巨大鳥類を経て現代の鳥へと至る「鳥の歴史」を知るのにも役立つ一冊です。

左上のシルエットが現生のワシ類のイヌワシ。羽毛恐竜や翼竜をはるかに超える,巨大な鳥類が恐竜絶滅後の地球には存在した(裏表紙見返し イラスト◎川口敏)
上の画像で巨大なシルエットが描かれたペラゴルニス(左)とアルゲンタビス(右)。姿形は波のある大きなペリカンと巨大なハゲワシと言ったイメージ(p.84 イラスト・文◎川口敏)

 以上,「羽毛恐竜完全ガイド」の一部を紹介しました。この本にはトリケラトプスやアルゼンティノサウルス,スピノサウルスといった恐竜界のスーパースターたちはほぼ登場しません。純粋な恐竜だけの本を期待すると少し物足りなさを感じる人もいるかもしれません。しかし恐竜と鳥の関係に重点を置いたことで,古生物が好きな人にも現生の生物が好きな人にも興味をもってもらえる1冊になっています。ぜひ手に取って,恐竜と鳥の歴史に思いを馳せてみてください。


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