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お寺の漫画図書館好評

※文化時報2022年2月25日号の掲載記事です。

 仏教に関する漫画だけを集めた「お寺の漫画図書館」が、東京都港区にある。民家のようなたたずまいの浄土宗多聞院(たもんいん)だ。近くにある観智院の土屋正道住職(62)が館長と兼務住職を務め、毎週水曜と土曜に無料で開放する。来場者は畳の部屋で好きなだけ漫画を読み、本堂に置かれた木魚をたたき、写経をする。漫画喫茶や公立図書館とは一味違う、心の平安を得られる場所にしたいと土屋住職は言う。(山根陽一)

由緒ある念仏道場

 元々は大本山増上寺の境内だったという芝公園付近には、高層ビル群の中に幾つもの寺院が残っている。

 多聞院もその一つで、かつては仏教を学ぶ僧侶の学寮だった。大正時代は、浄土宗僧侶で社会運動家の山崎辨榮(べんねい)(1859~1920)らによって掲げられた「聖者の家」という念仏道場になっていた。

 太平洋戦争で増上寺一帯は焼け野原と化し、多聞院も焼け落ちた。戦後に木造平屋建てで再建。土屋住職の伯父夫妻が管理し、細々と念仏会を続けていた。その後、伯父が他界し伯母が高齢者施設に入所すると、空き家同然になってしまった。

 「かつての念仏道場のような、親しみやすい仏教交流の場や、地域のコミュニケーションを育む新たなスペースを作りたい」。土屋住職はそう思うようになった。

将来は移動図書館に

 そこで、交流のあった寺社旅研究家の堀内克彦氏に相談。資金や時間、手間が少なくて済み、若い人にもアピールできるアイデアとして思い浮かんだのが、仏教漫画を集めて小さな図書館を作ることだった。

 かつての念仏道場という神聖な場所で、寝転がりながら漫画に読みふけるとはいかがなものか―。土屋住職は、そうは思わずに、「面白い!」と即決したという。

 「都会の若い人にとってお寺は必ずしもなじみのある場所ではない。仏教漫画がお寺を知ってもらう契機の一つになればいい」15年10月にオープン。蔵書は手塚治虫の『火の鳥』『ブッダ』から『日出処(ひいづるところ)の天子』(山岸凉子)、『住職系女子』(竹内七生)、『びぼうず』(桜井美音子)、『聖セイント☆おにいさん』(中村光)など新旧約300冊に
上る。

普通の民家のような外観の多聞院

 スタッフは館長の土屋住職、スペシャルアドバイザーの堀内氏に加え、キャラクターデザインに高野山真言宗の尼僧で人気漫画家の悟東(ごとう)あすかさんを起用。韓国出身で大正大学大学院に通う僧侶の安憲永(アン・ホンヨン)さんが常駐し、仏教に関するさまざまな疑問に答える。

 アイデアと努力のかいあって、近所の子どもから高齢者、漫画愛好家、在留外国人など、これまでほとんどお寺に縁のなかった人々が訪れるお寺になった。仏教徒以外にも開放しているが、本堂の仏画に手を合わせることだけはお願いしているという。写経や木魚をたたく体験は自由にできる。

 土屋住職は「お寺に人を集めるという発想ではなく、人が集まる所がお寺になればいい。将来はコンテナに漫画を積み込んで、地方へ赴く移動図書館を作りたい」と話している。

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