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〈37〉SOSには会いに行く

 安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。実行犯は宗教団体に人生を狂わされたと恨みを抱いていたようだ。ローンウルフ(一匹狼)型と呼ばれる凶行。社会のどこに潜んでいるか分からないが、数年前から犯行をほのめかす言動が確認されているという。何とか思いとどまる方法はなかったのだろうか。
 
 筆者は東京へ向かう新幹線の中でこのコラムを書いている。埼玉県と神奈川県、それぞれ電話でSOSを発信してきた男性に会いに行く。どんな展開になるのか分からない。電話で話しただけなので多少の怖さもある。でも放っておけない。
 
 「孤立してほしくない」という強い気持ちが体を動かす。
 
 この2人は、なぜ大阪に電話してきたのか? 近くに寺院はないのだろうか?
 
 おそらく寺院に駆け込むという発想がないのだと思う。一般的には駆け込む先は役所である。寺院は縁のない人にとってやはり「風景」なのだろう。
 
 孤立してしまうタイプは男性が多い。総じてコミュニケーションがうまくない。女性の支援者なら直接会うのは身の危険を警戒するだろうが、会ってみないと何に困っているのか本当のところが見えにくい。ただ残念なのは、埼玉県や神奈川県在住の人には、大阪からだと支援が難しい。
 
 役所が何とかしてくれるぐらいなら、わざわざ電話してこないだろう。福祉行政の限界である。筆者が提案できるのは「大阪に引っ越してこないか?」である。孤立するぐらいなら住み慣れた街を離れてもいいのではないかと考えてしまう。
 
 もっとも、当の本人にも事情があるだろう。それ以前に孤立しそうとこちらが勝手に想像しているだけで、地元には頼れる「縁」があるのかもしれない。
 
 それにしても、われながらお節介が過ぎると思う。何も首都圏まで遠征していかなくても、大阪でもSOSを発している人がまだまだいる。遠征はこのくらいでやめておこう。自戒を込めてコラムに残しておくことにする。
 (三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11 年から仏教福祉グループ「ビハーラ21」事務局長。21年には一般財団法人安住荘の代表理事に就任した。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。

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