【映画】「ブラックスキャンダル」感想・レビュー・解説

1975年。FBI捜査官のジョンが、生まれ故郷の南ボストンに配属された。すべてはそこから始まる。
南ボストンには、子供の頃からの友人がいる。ジミーとビリーという兄弟だ。
弟のジミーは、南ボストンをシマにするチンピラ集団・ウィンターヒルのトップ。殺人などの悪事にも手を染めるが、基本的に町の人間から愛されている。妻と息子を愛する、良きパパでもある。
兄のビリーは上院議員だ。南ボストンを地盤として、上り詰めた。
ジョンらFBI捜査官の最重要任務は、南ボストンのイタリアマフィア・アンジェロファミリーを壊滅させることだ。しかし、町の情報屋を手懐け、あらゆる捜査をしても、アンジェロファミリーの尻尾を掴むことが出来ない。FBIは、アンジェロファミリーの根城に盗聴器を仕掛けたいが、その情報すら手に入らない。
ジョンは上司を説得し、ジミーを情報屋として使うことに決める。イカれた犯罪者であるジミーを情報屋として使うことに難色を示す上司に対し、ジョンは、幼なじみだから大丈夫だ、と請け負う。しかしジョンは、ジミーに対し便宜を図るために“情報屋”という隠れ蓑を与えたに過ぎない。紙に書かれた法律よりも、幼い頃からの仲間の忠誠心の方が大事。ジョンは、アンジェロファミリーを壊滅させるためにジミーを野放しにし、FBIの“協力”を受けたジミーは、南ボストンを中心としたちゃちな組織だったはずが、たちまち規模を拡大していく。
ジョンは、次々に現れる「ジョンとジミーの密約を壊すかもしれない事態」に対処し、ジミーは、ジョンと交わした「殺人だけは止めろ」という忠告を無視して勢力を拡大させる。やがてジミーの存在がジョンの手に負えなくなり、ジョンはジミーの兄であるビリーに助けを求めるが…。
というような話です。

全体的な評価で言えば、まあまあだったかな、という感じです。面白くなかったわけではないけど、凄く良かったわけでもない、という感じでした。

ここ最近、実話を元にした映画ばっかり見てるのだけど、受け取り方は大別すると二つに分かれると思う。

一つは、「事実じゃなかったらあまりにも嘘くさい」と感じる場合だ。描かれている事柄があまりにもぶっ飛びすぎていて、フィクションの枠の中でやろうとするとリアリティを出すのが困難なタイプの物語だ。

もう一つは、「事実なのだなと思うから見れる」と感じる場合だ。これは逆に、フィクションで描いた場合は地味過ぎる、と感じるもので、事実なのだという前提があるからこそ見続けられるタイプの物語だ。


映画の良し悪しはともかく、観ていて面白いのは前者のような映画だ。フィクションを超えるような現実を描き出す、そのスケール感が僕は好きだ。

この映画は、後者のようなタイプだった。なるほど、これが事実なのだな、という風に見続けるタイプの映画。事実をベースにしているのだから、「物語的な起伏」がなくても仕方ない、ということは、常に理解している。だから、後者のような起伏の少ない映画であっても、そのことを取り上げてつまらないと評価するつもりはないが、やはり前者のような映画を見てしまうと、見劣りする感はある。

映画を観ていて意外だった点が二つある。

一つは、ジョンが大っぴらにジミーと手を組んでいた、ということだ。大っぴらに、というのは、上司に打診し、許可を取り付けてから、正式な“情報屋”として関わる、ということだ。僕の映画を見る前の勝手なイメージでは、彼ら3人は、もっと陰でこそこそと手を組んでいるイメージを持っていた。だから僕は、ジョンの神経がちょっと信じられない。だって、絶対いつかバレるでしょう。ジミーとの繋がりを周囲に対してオープンにしておくことは危険だ、ということぐらい理解できるはずだ。何なら上司に、「幼なじみだから大丈夫だ」とまで言うのだ。「えっ?」と思ってしまった。

だからこそ、ジョンは本当にジミーのことを信頼していたのだろう、と感じる。子供の頃からの付き合いで、俺達の間には忠誠心という法律よりも強い繋がりがある。だから、ジミーは大丈夫だ。ジョンは、本当にそう思っていたんだろうな、と思う。


それにしても、ジョンには、もっとこっそりとやる方法もあったはずだ。明らかにジョンは、ジミーに強大な自由を与えることが主目的で、ジミーを“情報屋”に仕立てている。自分のしていることが悪事だという認識もあっただろう。その上で、ジミーとの繋がりを最初からオープンにしておくことが得策だったとは僕には思えないのだが、どうなんだろう。

もう一つは、ジミーの兄で上院議員であるビリーが、ほとんど関係なかったことだ。悪事のほとんどは、ジョンとジミーの間の協定だ。ビリーは、黙認はしたかもしれないが、加担したことはない。FBIの捜査官と町のチンピラだけでなく、上院議員まで絡んでくるとすれば、物語はもっとスケールの大きなものになるだろう、というイメージを持っていたので、ビリーがほとんど関わっていなかったというのはちょっと意外だった。

しかしビリーは、本当に不幸だった。ビリーは、ジョンとジミーの関係に引きずり込まれそうになりながら、それを拒絶したのだ。しかし、最終的には、ジミーのせいで地位を失うことになる。ただ弟がジミーだった、というだけで。ジミーとビリーの兄弟関係がどうだったのか、その部分はあまり描かれなかったが、まるで違う人生を歩むことになった二人の生き方や関係性には、ちょっと興味が湧いた。

ジョニー・デップの、優しさを醸し出す時と狂気を醸し出す時でスイッチを切り替えない感じの演技が怖い感じをうまく引き出していてよかったなと思います。

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