見出し画像

エジプト史の素養ゼロの男が「ツタンカーメンの青春」を見てきた

エジプト史がわからない。
振り返れば、一ミリも勉強したことがない。高校時代に世界史の授業があったが、エジプトなんてヒッタイトと戦った~くらいしか覚えていない。
それもこれも高校の世界史教諭にクラスメイト40人のうち38人を寝かしつけるASMRの腕前があったせいだ。

だが、僕は古いものが好きだ。素養がなくたってアステカの出土品を観に行くし、ミイラ展にだって行くし、旧新橋操車場にだって足を運ぶ。動画もよく見るし、ポンペイの石膏像をテレビで見て軽くトラウマになったりもする。

どんな展示があるかもよく調べずに博物館に行くのは日常茶飯事なのだが、今回も「ツタンカーメン」の文字だけ見て入場券を買った。
お邪魔したのは、ところざわサクラタウン(https://tokorozawa-sakuratown.com/)にある角川武蔵野ミュージアム(https://kadcul.com/)。
ところざわサクラタウンはポップカルチャーの最前線として、さまざまな遊び心が随所にちりばめられたとても楽しい施設なので、機会があればまた遊びに行ってマンガ・ラノベ図書館で一生を終えたいと思っている。

その角川武蔵野ミュージアムで2023年07月01日(土)〜 2023年11月20日(月)の期間に開催されている、「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」(https://kadcul.com/event/124)に前情報ほぼ無しで突撃してきた。
今回はその良さを、なるべくネタバレをしないように伝えたいと思う。
博物館は読書みたいなものだと思っているので、ネタバレするのは本意ではない。

さて、会場についてから、この企画の監修が「河江肖剰(かわえゆきのり)」という人だと知った。どこかで見たことある名前だな……と記憶をたどると、昨年公開されたこちらの動画の方だった。


非常に溌溂とした人で、エネルギッシュだな、というのが動画を見た印象だった。話す言葉の端々に知性がこもっているのも印象的。
その河江氏が監修したのが今回の展示だという。

展示は、シンプルに表現するならば「近距離、大画面、高彩度、超精度」だった。
本来ならばありえない距離感で古代エジプトの王族の墓から出たものが見られる。すべて精巧なレプリカであるからこそ可能なのだ。ガラスケースもなしに、手が触れないようにどこまでも近づいて見学できる品物が多数展示されている。棺、マスク、副葬品……。

「古いもの」は物理的だけでなく「そこに込められた価値観」にも宿ると思う。
たとえば、僕らがいまこの瞬間に、新品のファミリーコンピュータを手に入れられたら、それは「古い」と「新しい」、どちらの感覚を抱くだろうか。
生まれて初めてゲーム機を見る子どもにとっては「新しい」ものかもしれないが、やがてそれも「古い」になるだろう。現代の高画質・高音質・高処理速度なゲームと比べる瞬間が来るからだ。
古い品物を見る時、僕はそういう感覚が常にある。戦前のポスターを見て「さあ 楽しんだら働こう」とか書かれている。娯楽とは労働のご褒美であり、労働こそ国民の本懐だと言わんばかりの表現。
今見れば「ありえない」だが、当時は割と当たり前だったのではないだろうか。

レプリカがずらりと並ぶ、今回の企画。
それを見て、「ニセモノじゃん」などという邪念を抱く余地は、無かった。
圧倒的な「古い価値観」をまざまざと見せつけられた。

前述のとおり、僕にはエジプト史への素養が全くない。
なので、展示を見るときの楽しみ方としては主に2つ。
①外見を見る
②込められてる感情(用途)を想像する
という2点になる。

考古学的な見地で見られるようになればもっと面白いと思うので、ゆくゆくは勉強してみたい。副葬品それぞれに込められてる思いとかがわかると、きっと解像度高く見れるのだろうな……という想像がつく。無料ガイドがスマホで聞けるそうなので、充電を充分にしたスマホとイヤホンを持っていこう。

展示室の作り方も圧巻だった。
オンとオフが切り替わるような、静謐と開放が交互に来るような、早く先を見たいがまだ進みたくないような。
今回の企画が「見学」ではなく「体験型」となっているのは、この卓越した会場づくりによるものが大きい。
会場のデザインを、セットデザイナー上條安里氏が担当。圧倒的な展示物にがっぷり四つ組みあった、完璧な会場だったといえる。
おそらく会場自体の設計上の制約も多々あっただろうと想像できる。しかし、それさえも「ピラミッドに葬られた品々」という意識で会場に立つと、どこかしっくり来てしまうのだ。天才かよ。

そして、会場で流れる音楽。
荘厳だけど、どこか寂し気な音楽が会場で流れていたが、川井憲次氏が担当されていた。『攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』などを担当した作曲家だ。
SF作品を担当しているイメージが強いが、ツタンカーメンに寄り添って音楽を作るとこういう風になるのか!という感動があった。


今回の企画を見てきた人に、「何か見えるかね?」と質問してみよう。
皆、口をそろえて同じ返事をするに違いない。

はい、すばらしいものが

体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春
https://kadcul.com/event/124
2023年07月01日(土)〜 2023年11月20日(月)

今後も博物館や史跡、映画や漫画や本などのレポやエッセイ、その他をnoteで発信していきます。
いいと思ったらスキボタンや感想のコメント、フォローもお待ちしてます。

Twitter(X)
https://twitter.com/shiro_gooohan

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?