見出し画像

本日の「読了」──“狂気”乱舞

李琴峰『彼岸花の咲く花』(文藝春秋 2021)
村田沙耶香『生命式』(河出文庫 2022)

前著は、沖縄のノロ的な女性祭司たちが指導する(架空の)島に漂着した人が、やがて祭司になるなかで島の歴史や暮らしが明らかになっていく。島では歴史は「おんな」にしか受け継がれない。溶着した人が祭司となる際に明かされるのは「男が歴史を知ると戦になる」的な言葉。さもありなん。


後著は、“文学史上最も危険な短篇集”という惹句がついている。表題の「生命式」を読み始めたときは、目眩とそれに起因する吐き気を感じ、放り投げる寸前だったが、“短”篇に救われた。しかも結末は存外穏やかだったから、放り投げずに、最後のほうの「街を食べる」まで読みたどり着くころには、「生命式」で感じためまいなどが消え、違和感もなくなった。
 人間はなぜ人間を食べてはいけないのか? 亡くなった方を美味しくいただき、その直会(なおらい)が、生殖の機会として機能する世界。
 狂気である。
 狂気だが、その世界はかつて人を食べてはいけない常識を持っていた。
 常識が不変とは限らない。常識の側にいるニンゲンが正しいとも限らない。
 それは社会だけでなく同じ時間を生きる人の間でも同じ。だが、それは、流行りの多様性とは違って、かなりざらついた肌触りである。
 [2023.06.06. ぶんろく]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?